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バリュー評価とは?評価制度の仕組みや特徴・メリットや注意点・導入事例まで解説

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

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伝統的な日本企業の文化では、勤続年数を重ねるほどに評価される年功序列制度や業務上の成果や実績を評価する成果主義が採用されてきました。バリュー評価は、それらとは全く違う評価制度として注目を集めています。

バリュー評価が注目される理由として、近年のビジネスや世界情勢の急速な変化が挙げられます。インターネットはもちろんのこと、SNSの普及に伴って顧客の多様化や情報の拡散におけるスピードが非常に高まっています。

一瞬で世界中での自社の評価が上下し得る環境を生き残るためには、いかなる企業であっても組織として柔軟に対応し、顧客ニーズやマーケットの変化に寄り添った商品やサービスを提供しなければなりません。そのためには、自社の従業員皆が企業の価値観やプロジェクトの方向性を理解している必要があります。

本記事では、バリュー評価の仕組みと特徴、メリットと注意点、書き方と導入事例について解説していきます。


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バリュー評価とは?

従来の年功序列型の評価制度と異なり、企業が設定した行動規範(バリュー)に基づいて行う評価制度をバリュー評価と言います。

バリュー評価は「行動評価」や「プロセス評価」とも呼ばれ、各従業員の社内での働き全体を実績として捉えて評価します。社員に求められる、あるいは社員が発揮している柔軟性や対応力は、従来の勤続年数や数値上の成績のみで測ることは難しいのが実情です。

このような背景から、従業員が企業の価値観やビジネスの方向性を深く理解しているかどうかを評価するために、従来の年数や数字に基づいた評価に代わるバリュー評価が注目されるようになりました。

バリュー評価においては、企業がまず「その会社の従業員として求められる価値観や行動基準」を設定し、その「バリュー」を実践できているかどうかを評価します。後述しますが、勤続年数や営業成績などが完全に無視されるわけではありません。また、ビジネスである以上、会社の利益を無視することはできません。

バリュー評価は、それとは別に自社のビジネスの目的や方向性に応じてどのような姿勢や意欲で行動できているかを測るための評価です。業績やスキルの評価を別途行う企業ももちろんありますが、バリュー評価ではそのような結果だけではなく、業務やプロジェクトにおける過程や行動に着目して評価を行うという点で大きく異なります。

コンピテンシー評価との違い

同じく近年注目されるコンピテンシー評価との違いは、「評価基準のベースが企業目線にある」というところです。

コンピテンシー評価の場合、基準となるのは優れた成果を出す従業員の行動モデルです。当然ながら、各従業員がより成果や業績を上げる模範となる特定の従業員の行動を見習うことによって、現場全体の能力や生産力を向上させられます。

そのような具体的な行動基準を設けたり、行動そのものや過程に注目するという点はバリュー評価とある程度共通していますが、コンピテンシー評価は従業員や現場目線がベースにあると言えます。

一方バリュー評価の場合、企業が設定した行動規範や価値観に沿ってどれほど行動できているかを評価するものです。現場での人事評価は別に設定されるケースもあります。

企業全体や経営目線でどれだけ理念や行動規範に一致して行動できているかを評価するため、設定する基準は企業が設定したバリューに準じたものになります。

皆が経営目線を共有しあらゆる業務で自発的に行動できるようになれば、企業全体の柔軟性や対応力を向上させられます。バリュー評価を通して、企業の価値観を全従業員に浸透させやすくなります

コンピテンシー評価では、社内で高い業績を上げる社員に注目するため、現場の業績や能力に焦点が当てられるのが特徴です。

バリュー評価の仕組みと特徴

バリュー評価では、具体的にどのような項目を評価するのでしょうか?一般的に以下の3つのポイントに分けられます。
・相対評価
・多面評価
・情意評価

相対評価

相対評価とは、他者と比較して測定される評価内容を指します。

バリュー評価は行動や過程に注目するという性質上、営業成績など数値化しやすい基準が基本的に存在しないという特徴があります。そのため、他の従業員と比較してどの程度企業のバリューに沿った行動が取れているかを評価します。前述のコンピテンシー評価の特徴をある程度含んでいると言えるでしょう。

結果ではなく過程が注目されるという意味では素晴らしいバリュー評価ですが、他人と比べて良し悪しを判断されるという意味では不公平感が生まれやすいという危険性があります。そのため、多くの企業ではバリューに沿った行動や取り組みに対して独自の評価基準を設けることで実践度合いを点数化し、バリュー評価における不公平感を解消するように努めています。

行動を評価する基準が明確化されれば、従業員にとっても説得力のある評価となります。相対評価では全体を100%として枠を設定し、ランキング形式で評価を表すケースが一般的です。

集団の中で順位付けを行うため、健全に評価が行われれば自分が全体の中でどの位置にいるかを客観的に知れるという特徴があります。

多面評価

多面評価とは、1人の評価者ではなく複数人の評価者によって実施される評価のことです。360度評価はこれに含まれます。1人の評価者の主観に基づくのではなく、複数人が行った評価に基づいて公平で客観的な結果を得る狙いがあります。

様々な角度から1人の人を評価することは、営業成績などの絶対的な数値を設定できないバリュー評価において公平感を出すためにどうしても必要です。評価に客観性があることが明らかになれば、被評価者の納得度を高めやすくなります。

場合によっては、上司や同僚のみならず部下からも具体的な行動を評価されることから、今後の取り組みに向けた多面的なフィードバックを得られます。また、複数の関係者による客観的な評価を得ることは、弱みを反省するだけではなく自分自身で気づけなかった長所やスキルを知る良い機会にもなるでしょう。

自分自身をよく知ることによって、会社のバリューと一致している行動や乖離している行動を理解し、より会社のバリューに沿うためには何をすれば良いか自発的に考えて改善することが容易になります。

情意評価

情意評価とは、勤務態度や仕事に取り組む意欲への評価を指します。数値化しにくいバリュー評価を代表するポイントです。企業バリューに沿った行動ができているかどうかを評価する要となる部分です。

実際の現場レベルの業務では、最終的な営業成績につなげるためのサポートや副次的な業務が様々な場面で発生します。従来の営業成績のみに注目する評価方法では、結果を生み出すに至った過程や周囲の行動を評価する手法がありませんでした。

バリュー評価では、成績や結果など数値化できる部分以外に注目することで、業務全体を通じた社員の実績や貢献度を評価します。しかし、営利目的で活動する企業にとって営業成績が重要であることもやはり事実であるため、バリュー評価を実際の営業成績などと複合的に考慮して人事評価に組み込むのが一般的です

バリュー評価のメリット

このように、バリュー評価は従来の人事評価制度と大きく異なる特徴を持つことで、各従業員の行動内容を最適化したり組織としての業務改善やパフォーマンス向上を見込めます。バリュー評価のメリットを3つにまとめました。
・経営目線と従業員のすり合わせ
・組織のパフォーマンスの向上
・帰属意識の強化と離職率の低下

経営目線と従業員のすり合わせ

企業の価値観という経営目線での考え方を、従業員の行動規範に落とし込みやすくなります。

普段の業務においてあまり経営理念を意識する機会がないという従業員や、曖昧でよく分からないというケースは決して珍しくありません。バリュー評価によって企業の価値観を意識させられるようになれば、日々の業務と企業の価値観を結びつけて考え行動しやすくなります。

営業成績だけでなく経営目線を意識していることが評価されれば、自ずと各従業員が企業バリューの実現に貢献できる行動を考えるようになります。それは各従業員の意識の向上だけでなく、経営と従業員のミスマッチを防ぐという点でも非常に有効です。

人事評価のたびに企業が重視する価値観をしっかりと理解することで、ミスマッチによる従業員のストレスやパフォーマンスの停滞などを低減する効果も期待できます。

人材の採用においても、経営陣や企業が掲げる目標をしっかりと理解してもらうことで効率化が進みます。企業が設定したバリューを明確にすることで、入社する人も「自分に合った続けやすい社風かどうか」を事前に判断でき、ミスマッチによる転職を防ぎやすくなります。

組織のパフォーマンスの向上

経営と従業員の相互理解が深まることで、組織としての一体感を高められます。価値観を共有するということは、企業として「何が重要で何が重要ではないか、何を好んで何を嫌うか」を経営陣・従業員がお互いに正しく理解するということです。

行動の基本となる価値観を皆で共有できれば、現場レベルだけではなく組織全体として足並みを揃え、柔軟性や対応するスピードを向上させられます。他部署との連携や、上司・同僚・部下とのコミュニケーションが取りやすくなり、風通しの良い職場環境を維持しやすくなるでしょう。

各従業員の自発性が向上することで生産性や想像力も強化され、同じメンバーでも高い組織力を持って業務に取り組めます。最終的にはビジネスシーンの多様化や顧客ニーズの変化により対応しやすくなり、企業としてのさらなる成長も見込めるでしょう。

帰属意識の強化と離職率の低下

コミュニケーションが取りやすく一体感が生まれる現場や業務においては、当然ながら従業員エンゲージメントも高くなります。現場で何にコミットすべきかが分かり、チームや上司と一緒に充実して業務に取り組めれば、帰属意識も自ずと高まり離職率も低下しやすくなります。

企業の価値観を深く理解することで、自分の業務が企業全体の活動に確かに貢献しているという実感を持てます。そのようにして日々小さな場面で何かしらのやりがいを感じることで、モチベーションが高まり長く務めたいと感じさせられるようになるでしょう。

バリュー評価の注意点

さまざまなメリットの多いバリュー評価ですが、導入にはハードルが高いのも事実です。バリュー評価に取り組むにあたって、実際に注意すべきポイントを3つご紹介します。
・バリュー評価制度の理解の徹底
・誰にでも評価基準が分かるようにする
・主観的な評価を避ける

バリュー評価制度の理解の徹底

組織全体が同じ価値観を共有するにはそれなりの時間が必要です。バリュー評価そのものやそれを通じて企業の価値観を皆に深く理解してもらうためには、どうしても長期的に取り組む労力やコストを見越しておく必要があります。

企業理念をすでに掲げているものの理解の徹底に取り組みたいという場合、「明確なバリューを設定する」というところから始めなければならないケースもあるでしょう。曖昧で広範囲をカバーする企業理念では、従業員に深く共感してもらうことはできません。

場合によっては企業理念そのものの変更も検討し、明確で具体的な言葉で企業活動の方向性を表現します。

明確な行動規範を定めなければ、言葉の認識における齟齬や勘違いが発生したり、従業員によって相対評価にばらつきが出るリスクもあります。そうなればバリュー評価そのものに対する信頼も揺らぎかねないため、バリューの設定は慎重かつ明確に行います。

さらには、バリューを達成するに至った背景や理由、バリューを達成するメリット、達成に向けての課題なども明文化し説得力を持たせることで、受け入れる側である従業員にとって分かりやすいバリューを設定します

誰にでも評価基準が分かるようにする

成果だけではなく行動も評価されるという点がバリュー評価の魅力の1つですが、それゆえに数値化しにくく不公平感が発生しやすいリスクがあります。明確で客観的な評価を設定するためには、段階的な評価項目を設定し必ず複数人による評価を行うなどの評価方法を徹底しなければなりません

行動に対する率直なコメントも重要とはいえ、社内基準を明確に説明して浸透させ、5段階評価などの手法で数値化・可視化する必要があります。

設定する項目に関しても、認識の誤解や理解のばらつきをなくすためには説得力と分かりやすさが必要です。明確さを徹底することで、人によって評価がばらつくといった状況を避け評価基準を統一する効果を持たせます。

主観的な評価を避ける

上記と同じ理由で、取り組む人の評価スキルによっては主観的な評価になりかねません。数値化しづらいため、企業バリューに対する貢献度や改善点を明確に表現できる基準を新たに設定する必要があります。

バリュー評価制度そのものに対する理解が不足していると「評価者がどのように感じているか」が評価基準になりかねず、バリュー評価への納得感や信頼が薄れてしまいます。バリューの設定にしっかりと行動規範や評価基準を盛り込むことで、評価者が客観的に評価できるように設計する必要があります。

バリュー評価の書き方

バリュー評価に本来の効果を発揮させるためには、評価に付随するコメントを具体的にすることが役立ちます。そのような公平で納得感のあるバリュー評価を相互に実践するために、以下の3つのポイントを抑える必要があるでしょう。
・出来ている点、出来ていない点を明記する
・各項目の点数をつける
・次の目標やプロセスを明記

出来ている点、出来ていない点を明記する

自社のバリューに対して、具体的に何が実践できているか・何が不足しているかを明確にコメントします。具体的にどのような行動が役に立っているかを明記すれば、きちんと自分が評価されているという実感につながり、バリュー評価に対する納得や信頼感が増すでしょう。

企業のバリューが明確に設定されているのであれば、それに照らし合わせてはっきりと言葉で表現する必要があるでしょう。何が不足しているかを親切にしかし具体的に説明することで、企業バリューに対して自分に求められる行動を正しく理解させることにもなります。

主観的な評価が入りやすい部分ですが、明快な言葉を使用するようガイドラインを設けることで受け取る側に納得感を持たせやすくなるかもしれません。

各項目の点数をつける

企業バリューの設定にも関わるポイントですが、各項目を具体的に採点する必要があります。貢献度合いに応じた点数を設定することで、バリューに沿った行動ができているかどうかを段階的に表現できます

数値化されれば、各従業員は自分の行動と企業のバリューとの距離感を一目で知ることができ、客観的な目線で自分の現状を把握しやすくなります。数字やアルファベットによる3〜5段階の評価が一般的です

次の目標やプロセスを明記

改善点の指摘や点数による評価だけでなく、次の目標に向けた道筋を示すことでバリュー評価の効果を一層高められます。

バリュー評価にフィードバックまで組み込んでおくことで、目的地をはっきりさせ各従業員が次のプロセスを意識して業務に取り組めるでしょう。バリュー評価が単なる感想の言い合いになってしまわないためには、こうしたフィードバックまで設定しておくことがどうしても必要です。

導入事例

ここでいくつかの企業で行われている実際の導入例をご紹介します。バリュー評価の導入には課題の多い部分もありますが、現場で評価制度が機能することで様々なメリットを享受できる様子が伺えます。

ラクスル株式会社

印刷やデザインサービスを請け負うラクスル株式会社は、一時期は退職率30%とも言われる時期を経験しました。そこで同社が取り入れたのは、「ラクスルスタイル」と名付けた「仕組みを変えれば世界はもっと良くなる」という企業バリューです。

起業家や経営陣が勢いよく成長する一方で、その他のメンバーがついて来れなくなるという課題を解決するために、主に3つのバリューを設定しました。
・Reality:高解像度の課題設定(実際に目で見て判断し、優先順位をつける)
・System:課題解決、仕組み化(解決策の発見と無駄の削減)
・Cooperation:複雑な事業実行のための連携(他部署や他職種)

これらの行動規範をそのまま人事評価にすることで、1つの基準が人事評価やコンピテンシー評価としても機能するという好循環を生み出しています。

企業として「やらないこと」を明確にし、バリュー浸透のために合宿を行うなどの工夫もラクスル株式会社のバリュー評価制度を特徴づけています。

ヤフー株式会社(現:Zホールディングス株式会社)

2012年に新たな評価制度を導入したヤフー株式会社(現:Zホールディングス株式会社)は、「ヤフーバリュー」と題して4つの企業バリューを社員に浸透させるべく運用しています。
・最上位概念に位置付けた、最も大切な「課題解決」
・それらに素早く取り組み解決策まで結びつけるスピードを意識するための「爆速」
・各従業員がそれぞれの目標達成に取り組む「フォーカス」
・果敢にチャレンジする精神や、迷った時の判断基準にもなる「ワイルド」

これらを、単なる給与反映のための評価基準として放置するのではなく、人材開発のための評価基準として活用しています。360度評価を併用したり、すべての評価コメントを公開してフィードバックの活性化にこだわるという点で特徴的です。

カルビー株式会社

2020年にバリュー評価を導入したカルビー株式会社は、現場主義を徹底し社員一人一人が自分ごととして業務に取り組むために様々な施策を推進しています。

外的な要因によって成果が上がらない場合に、仕事のプロセスも評価してほしい」という現場の声を吸い上げ、5つの企業バリューを設定しました。
・挑戦
・好奇心
・自発
・利他
・対話

全国の事業所を十数箇所回ってワークショップを開催した上で、若手社員を中心に意見を吸い上げる取り組みを行いました。企業バリューを設定する上で現場の意見を中心に考慮したという点がカルビー株式会社のバリュー評価運用の特徴です。

バリュー評価は、完成したものを提供するのではなく上司と部下で時間をかけて作り上げていくものである」という認識を基に取り組んでいます。

まとめ

数値化できるものだけに頼らず、その企業が追い求める姿や理念を現場に反映させる新しい評価制度がバリュー評価の真の姿です。確かに、運用には主に経営陣の多大な努力が求められ、上記でご紹介した実例でも当初は非常に苦労した様子が伺えます。

しかし、現場レベルまで浸透すれば組織の一体化やパフォーマンスの向上、さらには離職率の低下など多岐にわたるメリットが享受できるため、取り組む価値のある評価制度であると言えます。明確で具体的な企業バリューを設定することで、従業員の関心を高めポテンシャルを引き出すことができるでしょう。

本記事が、ベンチャー・スタートアップ企業の経営者・人事担当者の方のご参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。