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TCFDとは?気候関連財務情報開示タスクフォースの概要・TCFDに関する世界的な取組について解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
コーポレートガバナンス・コードの基本のキ
~概要と基本原則を解説~
コーポレートガバナンス・コードの「基本的な概要」と「基本原則」にフォーカスして紹介
SDGsやESGなど環境や社会のような財政とは異なる観点から投資行動や社会が目指すべき目標について金融の側面からどのような取り組みを行うべきかという指針が示され、それが世界的に広がっている現状があります。
このような世界的潮流の中で、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)と言われる組織が設立され、今後企業は気候変動の影響を考慮して経営戦略を考えていくことが最重要課題とされる流れが構築されつつあります。
本記事では、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の全体的な概要を踏まえつつ
・気候変動に関連する金融情報開示の必要性
・TCFDが提唱する開示要件
・TCFDの適用状況
・TCFDによる持続可能な社会の実現への貢献
について詳しく解説していきます。
TCFDのコンサルティングについては、こちらの記事もご参照ください。
⇒TCFDコンサルティング|外部コンサルタントに依頼するメリット・コンサルの進め方について解説
目次
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)とは
TCFDとは、Task Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)の略称であり、2015年にG20における財務大臣・中央銀行総裁会合によって要請を受けた金融安定理事会(FSB)が設立した組織です。
TCFDは、企業や投資家に対して、気候変動に関連するリスクと機会について開示することを促進するために、開示要件や指針を提供しています。
TCFD設立の背景
先述の通りTCFDは、2015年に当時のG20からの要請を受けて金融安定理事会が発足させたタスクフォース(※)を指します。
※タスクフォースとは、緊急性の高い特定の課題を解決させるために一時的に設立される組織のことを指します。
当時から、温室効果ガスによる地球温暖化の深刻なリスクは問題提起されており、ビジネスの成長を求めるだけではなく、持続可能性の高い低炭素経済へのスムーズな移行を目的に設立されました。
TCFDの提言内容
TCFDが提唱する開示要件には、気候変動によって引き起こされるリスクの評価、温室効果ガス(GHG)排出量の把握、気候変動によって影響を受けるビジネスモデルの説明、気候変動に関連する取り組みの説明などが含まれます。
TCFDが提唱する開示要件を実施することで、企業は気候変動に関するリスクを適切に評価し、リスク管理を改善することができます。また、投資家は企業の気候変動に関するリスクと機会をより正確に評価し、長期的な投資判断を行うことができます。
TCFDは、気候変動問題がますます深刻化する中で、企業や投資家に対する取り組みの強化を呼びかけています。今後、企業や投資家がTCFDの開示要件に従って情報開示を行うことで、気候変動問題に対する社会的な取り組みが加速され、より持続可能な社会の実現に向けた取り組みが進むことが期待されます。
TCFDが危惧する世界の危機
2020年10月、日本でも2050年までにカーボンニュートラルを実現させることが宣言されたのは記憶に新しいと思います。
実は、温室効果が図が地球環境に深刻な影響を与えると問題提起されたのは今に始まったことではなく、1997年の京都定義書から2015年のパリ協定へと20年以上に渡り議論されています。
IPCCが2013年に発表した第5次評価報告書によれば、気候変動に対処せずに経済活動を行なった場合、1986年〜2006年の20年間と比べて世界の平均気温は2100年頃には2.6℃〜4.8℃の気温上昇が見込まれています。
この気温上昇によって、海氷が溶けて海面が上昇するだけでなく、豪雨や森林火災などの生命を脅かす災害が発生する可能性が出てきます。
こうした破滅的な経済的及び社会的帰結を回避すべく企業努力を促すためにTCFDは設立され、報告書を発行しました。
気候変動に関連する金融情報開示の必要性
気候変動による影響は、企業や投資家にとって深刻な問題となっています。企業は、気候変動によって引き起こされるリスクや機会を適切に評価することが必要です。同時に、投資家は、企業の気候変動に関連するリスクと機会を正確に評価し、長期的な投資判断を行う必要があります。
このような背景から、気候変動に関連する金融情報開示が重要視されるようになっています。具体的には、企業が気候変動によって引き起こされるリスクや機会を開示することで、投資家は企業の将来的な業績や経営戦略を正確に評価することができます。
また、投資家が気候変動に関連する情報を入手することで、リスク管理や企業のESG(環境・社会・ガバナンス)リスクに対する取り組みを判断することができます。
TCFDは、企業に対して気候変動に関するリスクや機会について情報開示を促進することで、企業と投資家が気候変動問題による影響をより正確に評価することができるようになると考えています。
気候変動問題がますます深刻化する中で、企業と投資家が気候変動に関連する金融情報開示の必要性を理解し、積極的な取り組みを行うことが求められます。
ESGについては、こちらの記事もご参照ください。
⇒ESGとは?ESG概要や注目された背景、メリットや課題点まで網羅的に解説!
⇒ESG経営とは?必要性や戦略・メリット・具体例をわかりやすく解説
⇒ESG経営の取り組み事例集!企業ごとの具体例を紹介
⇒ESGコンサル会社とは?役割や依頼先企業の選び方などを解説
TCFDが提唱する開示要件
TCFDが提唱する開示要件は、企業が気候変動に関するリスクと機会をどのように評価し、取り組んでいるかを開示することを求めています。そのため、気候変動に関連する戦略や目標、リスク管理の枠組み、温室効果ガス(GHG)排出量、気候変動による影響、気候変動に対する取り組みなどの情報を開示することが求められます。
また、これらの情報は、財務情報と同様に定期的かつ一貫性のある報告によって開示される必要があります。これによって、企業が気候変動に関するリスク管理を強化し、投資家やその他のステークホルダーがより適切な投資や意思決定を行うことが可能になります。
企業が開示するべき気候変動に関する情報
TCFDの提唱の中には、気候関連情報の開示において4つの項目を掲げています。
ガバナンス | 気候関連リスク・機会についての組織のガバナンス | |
戦略 | 組織への事業・戦略・財務への影響 | |
リスク管理 | 気候関連リスクの識別・評価・管理方法 | |
指標と目標 | 気候関連リスク・機会を評価・管理する際の指標とその目標 |
開示要件の詳細については、次の記事もご参照ください。
⇒TCFDの4つの主要な開示要件|ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標について詳細に解説
⇒TCFDの開示内容の具体例|金融機関が発行するTCFDレポートを中心に解説
⇒TCFDのシナリオ分析とは?分析の手順・分析の上で理解すべきポイントを解説
開示の目的と効果
TCFDが提唱する気候変動に関する情報開示の目的は、企業が気候変動のリスクと機会に対処するために必要な情報を投資家やその他の利害関係者に提供することにあります。
これにより、企業は気候変動に関するリスクの管理と機会の最大化を促進し、投資家はより適切な投資判断を行うことができます。
TCFDが求める情報開示によって、企業の気候変動に対する取り組みを正確に評価することができ、投資家やその他の利害関係者は、長期的な投資判断を行うことができます。
また、社会全体としても、気候変動に対するリスク管理や持続可能な経済発展の促進につながるとされています。
TCFDの適用状況
TCFDは、2015年に設立されて以来、世界中の企業や投資家によって広く受け入れられています。世界的な指標となっており、多くの企業がTCFDに従った開示を行うようになっています。
TCFDの適用状況は、急速に拡大しており、将来的には、企業や投資家が気候変動に関連するリスクに取り組むためのグローバルな基準としてますます重要性を増すことが予想されます。
国外の企業のTCFDへの取り組み状況
国内外の企業において、TCFDへの取り組みが進んでいます。世界的には、2020年にはTCFDに準拠した情報開示を行っている企業が、日本を含め、約1,000社に上りました。これは、TCFDが導入された2017年時点の250社に比べ、急速な増加を示しています。
多くの国や地域がTCFDに基づく開示を法的に義務づける動きがあり、フランスや英国、カナダ、日本などがその先頭に立っています。具体的には、各国以下のような状況になります。
EU | TCFD提言に準拠して、指令を改定 | |
・非財務情報開示指令(NFRD)に関するガイドライン改訂に向けた改訂案を公表(2019年3月) ・2019年6月20日にガイドラインの改訂案と補足資料を発表。TCFD提言に準拠(2019年6月) ・NFRDの適用対象を拡大する、企業サステナビリティ開示指令(CSRD)に係る提案を公表(2021年4月) |
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イギリス | TCFD提言に基づく開示を義務化 | |
・低炭素社会移行に向けてGreen Finance Taskforceを設置(2019年7月) ・ロンドン証券取引所のプレミアム市場上場会社へのTCFD提言に基づく開示を義務化(2021年1月) ・非上場企業(売上5億ポンド超、従業員500名超)に対してもTCFD提言に基づく開示を義務化(2022年4月) |
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カナダ | TCFD提言を含むサステナブル・ファイナンス関連の提言等をとりまとめ | |
・環境・気候変動省及び財務省により専門家パネルを設置(2017年8月) ・サステナブル・ファイナンスに関する制度化等の論点・提言を記した最終報告書を公表(2019年6月) ・銀行等の金融機関やCSA(Canada Standard Authority)が主導となりカナダ独自のタクソノミーを検討中(2019年10月) |
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フランス | TCFD開示に向けた、非財務情報全体の標準化・フレーム開発に着手 | |
・経済財務大臣が、会計基準局に対しTCFD提言に沿った開示を行うためのextra-financial informationの開示フレームの開発を諮問 ・金融機関や企業、専門家等で構成される「気候変動及びサステナブルファイナンス」諮問委員会を設置する制度を導入(2019年7月) ・エネルギー移行法第173条において、TCFD提言に連動させることを検討中(2020年) |
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中国 | ガイドラインへのTCFD提言盛り込みを模索 | |
・中国環境報告ガイドラインへのTCFD提言枠組み盛り込みを模索、2020年に全上場企業に義務化する意向も示す(2018年1月) ・ガバナンス開示のガイドラインに対して、ESGを組み込み済み(2018年9月) ・英政府と共同でパイロットプロジェクトを発足し、2年目の進捗レポートを発行(2020年5月) |
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アメリカ | 証券取引委員会(SEC)が開示を求める規則案を公表 | |
・パリ協定の離脱を正式に国連に通告(2019年10月) ・証券取引委員会(SEC)がアメリカ独自のESG開示フレームの検討を推奨するレポートを発行(2020年5月) ・SECが上場企業に対して年次報告書等において気候関連情報の開示を求める規則案を公表(2022年3月) |
出典:環境省「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の概要資料」(2021年6月)より国土交通省作成
TCFDに関する日本の現状と課題
日本国内でも、東京証券取引所や金融庁の呼びかけにより、上場企業におけるTCFDに準拠した情報開示が進んでいます。また、環境省や経済産業省もTCFDの普及に向けた啓発活動を行っています。
しかし、TCFDの適用状況を見ると、日本企業もTCFDに対する取り組みが進んでいますが、まだ課題が残っています。
具体的には、日本企業におけるTCFDに準拠した情報開示の水準が低いことが挙げられます。2018年に開催された「TCFD研究会」によると、日本企業においてTCFDに準拠した情報開示を行っている企業は少なく、その内容も不十分であることが明らかになっています。
また、日本企業におけるTCFDへの取り組みには、人材不足が課題として挙げられます。TCFDに基づく情報開示には、企業の内部統制や財務分析の能力が求められますが、そのような専門的な知識や技能を持つ人材の不足が問題となっています。
さらに、日本企業においては、TCFDに基づく情報開示が海外企業と比較して遅れている傾向もあります。これは、日本企業がTCFDに対する認識がまだ十分ではないことが背景にあるとされています。
以上のように、日本企業においては、TCFDに対する取り組みが進んでいるものの、情報開示の水準が低く、人材不足や認識不足などの課題が残っています。今後、企業がTCFDに基づく情報開示を進めるためには、適切な人材の確保や、情報収集・分析のための体制整備が求められます。
プライム市場に上場した企業のTCFD開示の義務化
2022年4月に東京証券取引所の市場が「グロース市場」「スタンダード市場」「プライム市場」の3つに再編成されて、新たな上場基準が定められました。
また、2021年のコーポレートガバナンス・コードの改訂に伴い、この中の「プライム市場」では、気候変動開示の質と量の充実を進めていくべきであると明記されました。
具体的には、基本原則3「適切な情報開示と透明性の確保」の中で、次のように述べられています。「プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。」
プライム市場に上場した企業のTCFD開示の義務化とコーポレートガバナンスについては、次の記事もご参照ください。
⇒プライム市場におけるTCFDの開示の義務化|コーポレートガバナンス・コードの改訂を背景にした情報開示の今後の見通しも解説
⇒コーポレートガバナンス(企業統治)とは?目的・強化方法・歴史的背景について解説!
⇒コーポレートガバナンス・コードの5つの基本原則|特徴・制定の背景・適用範囲と拘束力について解説
⇒コーポレートガバナンス・コードとは?概要・特徴・制定された背景について解説
⇒【2021年改訂】コーポレートガバナンス・コードの実務対応と開示事例
TCFDコンソーシアムの設立
世界的にTCFDに関わる情報開示が進む中で、日本国内でも「企業による適切な情報開示や開示された情報をもとにした金融機関等の適切な投資判断につなげるための取組について議論を行うこと」を目標にしたTCFDコンソーシアムが設立されました。
TCFDコンソーシアムは、一橋大学大学院の伊藤邦雄特任教授を筆頭にした5名を中心に2019年5月27日に正式に発足しました。
TCFDコンソーシアムの詳細については、次の記事もご参照ください。
⇒TCFDコンソーシアム|組織構成と設立背景・活動指針・活動内容について丁寧に解説
⇒TCFD賛同企業|TCFDコンソーシアム企業の具体的な取り組み事例も紹介
TCFDサミットの開催
2019年から、経済産業省によってTCFDサミットが開催されました。
日程 | 内容 |
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【TCFDサミット2019】2019年10月8日 | 世界の先進的な取組を行っている産業界・金融界のリーダーが集結し、TCFDの課題や今後の方向性をすることを目的として、世界初となるTCFDサミットを開催 |
【TCFDサミット2020】2020年10月9日 | 「環境と成長の好循環」の加速に向けて、TCFD提言を実務に定着させるための国際的な議論を日本がリードしていくことを目的として、TCFDサミットを開催(オンライン) |
【TCFDサミット2021】2021年10月5日 | 産業界・金融界のリーダーが適切な投資判断の基盤となる開示の拡充を促すべく、更なるTCFD提言の活用に向けて議論 |
【TCFDサミット2022】2022年10月5日 | 国際的な開示ルール化への対応や機会への評価等の多様なトピックについて議論するべく、サミットを開催(対面・オンラインのハイブリッド形式) |
参照:TCFDサミット公式
TCFDによる持続可能な社会の実現への貢献
TCFDは、気候変動問題に対する企業の責任を重視しています。企業は自らの事業活動が持続可能であることを保証することが求められており、TCFDに従って情報開示を行うことで気候変動に関するリスクを認識し、対策を講じることができます。
また、気候変動問題に取り組むことで、企業は社会に貢献することができます。TCFDによって、企業は自己のリスク管理を進め、持続可能な社会の実現に向けた責任を果たすことが期待されます。TCFDによる情報開示は、長期的な価値創造を促進し、投資家の投資判断に役立ち、持続可能な社会の実現に貢献することができます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
本記事では、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の全体的な概要について解説しました。ESG、SDGsなど環境や持続可能な開発目標と投資や金融に関連する部署・担当者に新しく任命された方の理解の一助になれば幸いです。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。