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IR(Investor Relations)とは?IRの業務内容と必要なスキルを詳しく解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
CFOになるには?キャリアパスも解説
経理/会計/財務/経営企画などの管理部門としてのキャリア
企業において、株主や投資家と密接な関係を持つ部署にIR(Investor Relations)部門があります。IRは企業の広報と混同されることもありますが、出資者を募ることを最終目的としており、企業においても重要な部署になります。
本記事では、企業にIRが設置される理由や目的などに触れ、IRの業務内容も解説します。IR業務は管理部門の中でも、対外的な業務が多く、求められるスキルも他の間接部門とは異なるのが特徴です。そのため、IRに必要なスキルについても詳しく解説していきます。
企業の財務に関連する活動の責任者であるCFOについては、こちらの記事もご参照ください。
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目次
IR(Investor Relations)とは
IRとはInvestor Relationsの頭文字を2文字とったもので、「Investor」は投資家、 「Relations」は関係性を意味します。2つの単語を合わせて、「投資家向け広報」と訳されるのが一般的です。
IR部門の役割は、投資家に向けて企業のことを知ってもらうことで、企業の株を購入する投資家との関係性を築き上げることです。最終的には、株の購入による資金調達を、IRは目標としています。
IRが重要な理由・目的
金融機関からではなく、投資家からの資金調達を実施するには、企業の社会的価値に加え、企業の価値を作り上げる過程を投資家に理解してもらう事が大切です。IRが重要な理由や目的などを、ここでは3つ解説します。
・投資の促進
・株主や投資家との良好な関係の構築
・企業の社会的価値の向上
投資の促進
日本の上場企業は、そもそも株主への関心が低く、特に企業の財務状況の情報開示が進んでいなかったため、海外の機関投資家からは敬遠されがちでした。そのため、十分な資金調達ができていなかった実態があります。
株価が低迷する中では、日本株を購入したいと考える投資家が増えることはありません。そこでIRに付随する情報公開により、企業の価値を正しく伝え、企業の将来に期待できるようにし、既存の株主や一般的な投資家から投資を促進する必要があります。
株主や投資家との良好な関係の構築
株主などの投資家、つまり企業外部の出資者が、企業の将来に興味を持つためには、良好な関係が欠かせません。それらの利害関係者と企業を繋ぐ役割を持つのがIRです。IR部門は、管理部門の一部と捉えられていますが、実際は対外的な役割を担っています。
つまり、投資家と企業のパイプ役であるIRとの対話があれば、お互いの理解も深まるはずです。多くのステークホルダーに自社の経営方針や売上・利益といった企業活動の報告を正確にすることで、外部から信頼を獲得することに繋がります。その結果、良好な関係性により、短期的・長期的な企業の株の購入促進にも繋がると考えられます。
企業の社会的価値の向上
IRの目的の1つに、企業を取り巻く関係者に企業の状況を正しく伝え、社会的価値を向上させることがあります。企業の社会的価値が向上すれば、その企業の株の購入を促進し資金調達に繋がるからです。
最近では、社会的価値を評価する基準として、「ESG経営」が注目されています。ESG経営とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統制)の3つに配慮した経営をいいます。
ESG経営の周辺領域に、SDGs(持続可能な開発目業)やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などが挙げられます。特に、TCFD開示はプライム市場に上場している企業にも関わる重要なものです。
今後の企業経営は、社会に配慮したものでなければならず、そのような企業に成長がもたらされるとの認識が広まっているのが特徴です。
TCFD情報開示及びプライム市場に上場する企業とTCFDの関係性については次の記事もご参照ください。
⇒TCFDとは?気候関連財務情報開示タスクフォースの概要・TCFDに関する世界的な取組について解説
⇒プライム市場におけるTCFDの開示の義務化|コーポレートガバナンス・コードの改訂を背景にした情報開示の今後の見通しも解説
IRと広報の違い
広報の役割は、企業のことを知ってもらい認知度を上げることです。広報には社内広報と社外広報の2つの役割があり、社内広報では、そこで働く社員向けに、社外広報では、顧客や自治体などの関係者向けに情報を発信します。
特に、社内広報では自社の取り組みや将来性について発信することで、社内のコミュニケーションを活発化させて、情緒的な関係性を構築することでエンゲージメントを向上させることを目的にしています。
一方、IRは社外の投資家に向けて情報を発信し、企業の将来の期待を持たせ、株を購入してもらうことが目的となります。つまり、広報では企業のPRを目的とし、IRは企業の資金調達が目的になることに違いがあります。
IR | 社内広報 | 社外広報 | |
---|---|---|---|
目的 | 自社株の購買の促進 | ・社内のコミュニケーションの活発化 ・エンゲージメントの向上 |
自社の認知度向上 |
ターゲット | 社外の投資家 | 自社社員向け |
顧客・自治体 |
IRの業務内容
IR部門は間接部門ですが、定型業務を担当しておらず、株主に向けての情報発信を行い、株主からの信頼を得ています。情報発信する一般的なツールや手段など以下6つを解説します。
・決算説明会のための資料作成と運営
・報告書の作成
・プレスリリース
・IR広告
・インターネット上での情報発信
・株主(機関投資家)との面談
決算説明会のための資料作成と運営
企業の経営状況や経営戦略などは、決算説明会で解説します。決算説明会は、四半期、上期、本決算などで実施することが多く、企業法などの規制を受けずに自由に開催できるのが特徴です。
これに対し、本決算期に開催する株主総会は、企業法に規定があり、決算説明会とは目的に相違があります。
決算説明会では、企業の経営状況に加え、戦略の実施状況なども説明するため、IRの担当領域となるのが特徴です。IR部門は当該説明会のための資料を作成し運営を行います。
報告書の作成
IR部門の重要な業務に、企業の情報開示に用いる報告書の作成があります。企業は、投資家が判断に迷わないように、正しい情報を提供しなければならず、その正確性が保証されていることも大切です。ここでは、企業が情報開示に利用する4つの報告書について解説します。
・財務情報
・非財務情報
・統合報告書
・年次報告書
財務情報
企業の財産や負債などは、金額により表示することが可能です。財務情報は定量データとして、金銭の明確な情報で開示しなければなりません。財務情報は、一定のルールのもとで計算され、他社との比較が可能になっています。
財務情報を記載したものに、有価証券報告書、決算短信、事業報告書などがあります。いずれも、投資判断の基本的な材料となり、詳細かつ正確であることが求められます。
また、財務情報は法人税などを計算する根拠となり、さらに財務分析などで企業の財務状況を知ることができます。
近年では、気候変動が財務に与える影響に関する報告(TCFD)の推奨・実施的な義務化も進んでいます。詳細については、次の記事もご参照ください。
⇒TCFDとは?気候関連財務情報開示タスクフォースの概要・TCFDに関する世界的な取組について解説
⇒TCFDの4つの主要な開示要件|ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標について詳細に解説
非財務情報
企業の価値や財産の中で、金銭により表現するのが難しいものの情報を非財務情報といいます。非財務情報は、非定量データとして捉えることができ、知的財産報告書、CSRレポート、サスティナビリティレポートなどが含まれます。
日本の上場企業では、非財産情報の開示も義務付けられていますが、情報の取りまとめなどの表現が難しく、非財産情報の開示には課題が残されている現状があります。
統合報告書・年次報告書
IR部門が作成する報告書の中に、統合報告書・年次報告書などがあります。それらは、財務情報と非財務情報の両方を企業価値の構成要素として、一冊にまとめて掲載する報告書であることが特徴です。
また、すべての情報が網羅できて利便性が高いことから、統合報告書・年次報告書を発行する企業が増えています。
プレスリリース
企業広報としてプレスリリースが知られていますが、IRでもプレスリリースは大切な業務となります。そもそも、プレスリリースとは、企業の新商品や新規事業などを社会に知らせるために作成する文書をいいます。
そのため、新商品や新規事業、新しい技術開発、新店舗オープンなどの発表、独自の調査結果の報告といった事業活動のトピックスをタイミングよくマスコミや業界メディアに配信します。仮に企業にとってマイナスな情報であっても、迅速に公表することで企業の透明性や対応力を示すことができるのが特徴です。
IR広告
投資家に向けての広告をIR広告といい、企業の財務情報や非財務情報などを広告により伝達します。投資家は企業に投資するべきかの基準の1つとして利用できるのが、IR広告の特徴です。
IR広告では、新聞や雑誌など、さまざまなメディアを通じて情報発信します。利用する媒体は、業界専門誌や政治経済に関する雑誌など投資家が普段情報収集している雑誌に絞ります。
インターネット上での情報発信
IRに関する業務の一環として、会社のホームページやインターネットなどを利用し情報発信します。また、IR情報をまとめたページを別途作成するなどし、投資家がいつでも情報を入手できるように工夫している企業も多くあります。
最近ではSNSを利用した情報発信も行われており、拡散しやすさやリアルタイム性などSNSのメリットを生かし投資家とのコミュニケーションを図る企業もあるようです。
また、オンラインセミナーを利用すると、地理的な条件を問わず、広範囲に渡り情報発信できます。
株主(機関投資家)との面談
株主との面談を通じ、企業に関する情報を提供し、株主は投資に必要な情報を入手できます。また、企業は株主の要望を直接聞き取ることができるため、IRのニーズを把握することが可能です。面談を通じてお互いが必要とする情報のやり取りができれば、親密性も高まり企業価値のPRに繋がります。
面談によっては、株主から企業への要望を受けることも考えられます。企業への要望は、今後、株主がさらに株を購入するきっかけにもなり、貴重な情報源ともいえるでしょう。場合によっては、事業戦略の見直しや経営方針の修正などに発展することも考えられます。
IRに必要なスキル
IRは株主に会社の情報を提供し、会社を知ってもらい、最終的に株式を購入してもらう業務を担っています。IRは報告書を作成するスキルに加え、対人関係に関するスキルも必要になるのが特徴です。そこで、IRとして必要なスキルを5つ解説します。
・コミュニケーションスキル
・データを分析するスキル
・人間関係を構築するスキル
・最新情報を収集しノウハウを獲得するスキル
・ヒューマンスキル
コミュニケーションスキル
IR部門で働く人に必要なスキルで、最も大切なのはコミュニケーションスキルです。IRに関連する業務では、株主と直接面談することもあり、事業内容や将来について、正しい情報を齟齬のないように伝えなければなりません。
株主とのコミュニケーションを密にすることで、会社との信頼関係の構築にも繋がります。株主は、企業からの情報に透明性を求めており、透明性を担保するためにも、コミュニケーションスキルは重要です。
データを分析するスキル
IR業務では会社のさまざまなデータを集め、株主に企業の情報を提供する資料を作成します。資料を作成する能力はもとより、株主にはそれらの資料をもとに、株主の求める情報をデータに基づき提供する必要があります。
IR部門で働く人にデータを分析するスキルが備わっていれば、データを分析する際の思い込みを排除できます。株主が求めるのは、透明で客観性のある企業情報です。株主に、正しく分析されたデータに基づく情報を提供できれば、株主による投資への判断の誤りを防げます。
人間関係を構築するスキル
株主と人間関係が構築できていることが、IR業務の基本になります。株主との良好な人間関係は、企業の経営の理解に繋がり、企業への関心度も高くなります。IRの最終的な目標である株の購入には、企業に関心をもってもらうことが大切です。
また、株主が事業に対して意見がある場合は、聞き取りを行い、迅速で適切な対応が求められます。株主に不安感を持たせないためにも、株主との良好な人間関係が必要になります。
最新情報を収集しノウハウを獲得するスキル
投資家は、常に投資に役立つ最新の情報を求めています。IRはその要望に応え、投資家の満足する情報を提供し続けなければなりません。また、IRは同業他社の事業戦略なども把握し、自社の立ち位置を確認しなけらばなりません。
特に、最新情報から得た情報により、ノウハウへと育てあげるスキルは、事業の成功にとって大切な要素です。企業の経営陣も最新情報を求めており、情報の提供に加え、企業ノウハウとしても提案できるとIRの存在価値も高まります。
ヒューマンスキル
IRに関連する業務では、投資家との交渉も時として求められます。企業の求める条件を一方的に押し付けるのではなく、投資家の意見も聞き、お互いの利害を一致させ、利益を最大化させる必要があります。そのためには、IR部門で働く人にヒューマンスキルが備わっていることが大切です。
また、企業の内部でも、意見の食い違いを防ぎ、お互いの関係を維持し、納得できる状況を作り出すにも、ヒューマンスキルが必要になります。
IRには仕組化が必要
すでに株を購入している株主や、これから株を購入する投資家について、その構成や属性をデータ化して分析することは大切です。それらの分析はIRの主観的な経験やカンに頼るべきではないでしょう。
また、IRの評価も、明確な基準がなく、主観的となりがちです。このような主観性を排除するため、客観的となるよう、IR業務には仕組化が求められます。IR業務の仕組み化のために注意すべき以下の2点について解説します。
・IR専門家チームの設定と育成
・IR活動の評価基準を設定
IR専門家チームの設定と育成
IR担当者は、専門性が高く幅広い知識を身につけなければなりません。そのため、IR部門を専門家チームとして編成し、縦の階層や横の業務分担を明確にする仕組化を進めることで、求められる能力に応じたスタッフの配置が可能です。
もし、スタッフが求められる経験や能力を満たしていなかった場合、いわゆるプレイングマネージャーとならないよう、専門家チームにより人材を育成していく仕組化も必要でしょう。
IR活動の評価基準を設定
IRに関連する業務を評価するには、最終的なゴールをどこにするか、予め設定しておくことが大切です。その評価基準は、定量的かつ定性的な基準が求められます。
しかし、株式の購入を促進する業務を担当するIR部門では、株式市場の動向に影響を受け、評価を売買高や時価総額などを基準にすると、評価の難しい側面があります。そのため、評価基準が曖昧となり、人によって評価が変わることもあるでしょう。
そもそも間接部門の評価基準は定量化しにくいものですが、IR部門の業務は金額を伴う活動のため定量化された評価基準は必要です。企業によって異なりますが、例えば、定期的に株価の理論値を算出し、その理論値と実際の数字に乖離がないか、など納得のできる評価基準を設定し仕組化すると良いでしょう。
IRのキャリアパス
IR部門でキャリアを積むことで、企業内では財務部門や広報部門においても活躍が期待できます。専門性のスキルが身に着けば、転職先に投資会社や金融機関の専門部署、さらにコンサルタントとして独立できる可能性もあります。
まとめ
ここでは、IRの目的や業務、そしてIR部門で働く人に求められるスキルなどを詳しく解説しました。IRは会社の情報を株主に提供し、自社が将来に渡り魅力的であることを伝え、最終的に株の購入に繋げなければなりません。
IR部門は管理部門の中でも対外的な業務を受け持つこととなり、投資家との良好な人間関係も構築する必要があります。
IR部門でスキルを磨きキャリアを積めば、企業にとっても貴重な人材となります。本記事が、今後のキャリアを考えている方や、社内のキャリアに関わるポジションの方のご参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。