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経営企画室とは?経営企画室の組織体制・役割と課題について解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
CFOになるには?キャリアパスも解説
経理/会計/財務/経営企画などの管理部門としてのキャリア
経営企画室は社内のエリートが集まることでよく知られているため、その存在は注目を集めます。新卒で入社した企業では、総合職や営業職からキャリアをスタートし、3年目や5年目など異動や昇進などによって、経営企画室に異動になる人もいるでしょう。
これから経営企画室への異動を希望する人や考えている人の中には、実際の経営企画室の業務について知らない人もいるのではないでしょうか?
そこで本記事では、これから経営企画室への異動を希望する人や考えている人に向けて、企業の中枢に位置し、経営を左右する重要な役割を担う経営企画室の役割や課題について解説します。
企業の財務に関連する活動の責任者であるCFOについては、こちらの記事もご参照ください。
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経営企画室とは
経営企画室とは、経営者の決定や意向を実現するために経営戦略を実現に導く部門・部署のことです。中長期的な戦略立案に携わったり、経営方針を現場の実務に反映させるなど、業務内容は多岐にわたります。市場調査やマーケティング、自社を取り巻く様々なデータ収集と分析を行い、経営陣が有意義な議論を交わせるよう資料を作成して各種会議や打ち合わせの準備をします。
そのようなデータ収集のために、社内であれば経理部をはじめとした各部署と連携して情報を吸い上げ、経営陣にとって使いやすい資料に編集します。会議では、経営戦略の立案や会議そのものの運営をサポートします。自社・他社の売上の将来予測といった今現在は存在していないデータを求められることもあり、集めた情報から分析・論理的な結論を出し、会議や打ち合わせまでに資料提出を間に合わせます。
既存事業の管理や安定化、さらには新規事業の立ち上げや組織再編なども経営企画室の業務の1つです。近年であれば、DX(デジタルトランスフォーメーション)促進を行う場合もあり、最新のデジタル技術を業務効率化のために検討・導入します。
会社規模によってはコーポレートガバナンスやIR対応も行うなど、経営陣が会社の経営に集中できるように、全社的・横断的に様々な業務を行う部署です。そのため、社内でも優秀な社員が集まるエリート集団として見られることが少なくありません。
経営企画の業務内容・コーポレートガバナンス・IRについて詳しくはこちらの記事もご覧ください。
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日本特有の経営企画室
そのような多岐にわたる業務を扱う経営企画室ですが、特に経営管理や管理会計業務に絞って言うならば、経営企画室の存在そのものが日本特有の組織方法となっているようです。後述する点ですが、欧米企業では全社横断的な企画部門や管理部門を持たず、FP&A(Financial Planning & Analysis)と呼ばれる部署に属するコントローラー(財務に関する監査者)が取りまとめるのが一般的です。
過去には日本企業でもこのコントローラー制度の導入を試みたこともあったようですが、財務機能が社内組織において重要視されるなど経営企画室制度の方が日本のビジネス文化になじみがあるとされており、それが現在まで続いています。
日本の経営企画室は、管理会計業務や予算策定などを全社的に行うため、それらを取りまとめる部署や部門がどうしても必要になります。加えて、日本では部署をまたぐ移動が珍しくなく、欧米企業と比較すると専門家を育てるというよりも、あらゆる業務の経験を積ませて社員を育成する傾向にあり、それぞれの部署に管理会計や企画の専門家を配置するのではなく、経営企画に向いている社員を抜擢して組織するのが通常です。
経営企画室の組織図
日本独特の組織である経営企画室ですが、その全社横断的な性質から経営者や経営陣直下に置かれるのが一般的です。ここでは、経営企画室の企業内部における役割や、欧米企業における同様の役割を持つ組織と比較して解説します。
・経営企画室内部の組織体制
・企業内での立ち位置
・欧米の場合
経営企画室内部の組織体制
中小企業の場合、経営企画室といった部署が存在せず、経営陣が直接経営企画的な業務も行っていることがあります。これは企業規模が小さく、株式会社でも非上場であったりグループ会社を持っていなかったりするため、IR対応(InvestorRelations、株主や投資家に対して財務状況の開示を行う業務全般)が必要ないことなどが関係しています。
大手上場企業の場合、経営企画室が対応すべき業務は非常に多くなるため、経営企画室(あるいは経営企画部)の中に各種業務に対応するチーム・課を設立しているケースが多く見られます。この場合、予算策定や経営戦略の決定に関わる「企画戦略」・グループ会社全体の経営を管理する「グループ推進」・株主や投資家とのコミュニケーション全般を担う「IR対応」の3つに分かれていることが多いようです。
経営企画に関わる部署やチームの名称は企業によって様々ですが、大抵の場合、経営企画室に求められる業務全般を担っており、経営企画室内部の構造自体に大きな違いはないと言えます。
経営企画室の責任者は経営企画室長(経営企画部と呼ばれる場合は経営企画部長)であり、各種業務の係長や課長を通して全体的な業務を把握します。
企業内での立ち位置
企業全体の戦略や管理を担う性質から、経営者や経営陣直属の組織として配置されるのが通常です。経営企画会議に参加し、経営陣の意向を直接的に把握します。企業のビジョンや経営方針を現場に浸透させる役割も担っているため、各部署と連携しながら社内周知に携わったり、各部署の報告や要望を経営陣に伝える業務も任されています。
経営企画室長(以後、経営企画部長も含む)は経営の中枢で業務を行うため、執行役員を兼任しているケースも多く見られます。経営企画室長は取締役やCEO(最高経営責任者)に直接業務報告を行い、経営陣からやはり直接フィードバックや指示を受け取ります。
企業規模がそこまで大きくない場合、総務部や財務部の業務を包括した役割が任せられます。さらに小規模な企業の場合は、取締役や経営陣が自ら経営企画室の業務を担うのが通常です。
企業規模に応じて名称や業務内容に違いがあるとはいえ、いずれの場合も経営の中枢を担い、かつ、サポートする部署として様々な管理業務を担っています。経営企画室は、経営の当事者として行動し企業全体を理解した上で最適な判断を下すことが求められるため、1部門の要求や最適化ではなく企業全体の利益となるよう業務遂行する必要があります。
財務部門の業務については、こちらの記事もご参照ください。
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欧米の場合
欧米企業でも当然似たような業務は発生しますが、日本の経営企画室のような独立した部署が設けられることは基本的にないようです。CEO(最高経営責任者)の直下には各分野の最高責任者がおり、それぞれの分野・部署で各最高責任者がイニシアチブをとって業務を遂行していきます。
それらの各最高責任者や各部門役員が打ち合わせを行いながら、経営陣全体で最終的な決定を下します。各分野の最高責任者達が戦略立案や事業管理を行うため、全社横断的な部門を独立して設立する必要がないようです。
日本企業と比べると、自己資本の蓄積が大きい企業風土や、独立精神の強い文化的な影響などによって上司や最高責任者の権限が大きいため、全体を取りまとめる部署という考え方そのものが馴染みのないものなのかもしれません。
経営企画室の課題
「会社のブレーン」と称されるように、経営の中枢に関わるのが経営企画室の役割ですが、全社横断的な業務があまりにも多いために、担うべき役割が明確化されていない点が指摘されることがあります。
事務局や総務部のような性質を持つことも多く、全部署から様々な依頼を受けたり、各部署間の業務処理や受付窓口のような対応を実質的に担っているケースも珍しくないようです。事務伝達などの業務を担い始めると業務幅にキリがないこともあり、本来の企画立案や推進に時間や要員を割けない悪循環にもなり得ます。
企業内部におけるそのような認識が広まっているケースでは、各部署との連携を必要とする別の部署と役割が被ってしまうこともあり、役割が明確でないまま専門性の低い業務に忙殺されてしまう状況も発生し得ます。
さらには、経営陣が経営判断に必要とする質の高い情報が吸い上げられなかったり、経営企画室が形骸化することで分析やモニタリングが機能しないなどの課題も生じかねません。多機能が求められる経営企画室には、それだけ運用を難しくする課題も多分に含まれています。
経営企画室の役割
では、経営企画室が果たすべき役割とは何でしょうか?冒頭で触れた点と重なりますが、理想的な経営企画室が本来果たすべき役割3つを解説します。
・中期経営企画の策定
・予算編成・管理
・新規事業の立ち上げ・推進
中期経営企画の策定
取締役や経営陣が定める企業のビジョンをベースに、3〜5年のスパンで定める経営計画を策定します。自社が持つリソースを分析し、市場の将来的な変化を予測して経営戦略を立案します。経営サイクルのPDCA(Plan・Do・Check・Action)のうち、起点となるPlanを担うのが経営企画室です。
この企画立案には、具体的な数値目標を策定した上で、事業がその目標を達成できているかどうか冷静に分析する業務も含まれています。この立案した企画を現場社員まで浸透させていくのも経営企画室の役割です。
事業計画は一筋縄ではいきません。策定した企画と現状を照らし合わせて、収益性や安定性を確保する上で課題となっているものを解決し、必要に応じて計画の修正も行います。
経営だけでなく社内・労働環境改善も業務に含まれるため、経営陣が目指す企業風土実現に向けて、組織改変やAI・ビッグデータ活用に代表される最新技術を段階的に導入するなど、時間を要するプロジェクトを推進するのも業務の1つです。
予算編成・管理
これら中期経営企画に基づいて、単年度の利益目標から売上・経費予算を編成します。まず利益目標を決定する前に、年度ごとの売上と経費を分析し、具体的な数値に基づいて根拠を経営陣に示します。
企業によって予算編成の手順は異なり、経営陣が企業全体の利益目標を設定しそこから各部署が予算を決定するトップダウン方式の場合もあれば、各部署が算出した予算をもとに企業全体の予算を決定するボトムアップ方式の場合もあります。
いずれにしても、「過去の実績」「自社が保有する人・モノ・カネの状況」「市場の動向や潜在的なニーズ」「競合他社の傾向」など様々な判断材料から論理的に説明する能力が求められます。
事務的に各部署のデータを吸い上げることも経営企画室の役割とはいえ、そこから読み取れる経営上のポテンシャルあるいはリスクを論理的に説明しなければなりません。予算が編成された後も、各数値の正当性を検証することがあり、課題が指摘される場合は予算を編成し直すこともあります。
そのような予算を作り上げていく予算編成業務だけでなく、実績と比較・分析する予算管理業務を遂行することも経営企画室の役割です。
予算が決定された後は、実際の事業を行った実績と比較して、事業目標を達成できているかどうかを管理します。予算と実績に差異があれば迅速な改善を図り、達成要因や未達要因を分析して課題解決にあたります。
新規事業の立ち上げ・推進
既存事業の安定化も重要な業務ですが、企業の新たな収益となる新規事業の立ち上げ・社内推進も経営企画の役割です。マーケットや時代の変化に適した事業を創造し、自社の新たな稼ぎ柱として安定化させます。
刻一刻と変化するマーケットや社会情勢を見極めて事業を企画し、企業規模が大きければ海外企業も視野に入れたM&A推進も行います。今まで参入したことがないマーケットで新規事業立ち上げを目指すこともあります。客観的かつ正確なマーケティングを行い、新規事業の効果性や収益性を分析します。
場合によっては競合他社との業務提携を図ることもあり、綿密な企画立案と慎重な判断が求められます。
経営企画室のキャリアパス
経営中枢での業務を経験するため、CEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)といった経営陣へのステップアップを目指せるかもしれません。財務関連の知識や経験だけでなく、企業内部の知識や実務経験を積むことで、経営全般に関するスキルアップを周囲にアピールできるでしょう。
経営の経験を積めば、他社の同職へ転職する際にも有利になります。大企業や外資系企業への転職が叶えば、さらなるキャリアアップや年収アップが見込めます。経営企画の求人では、大抵の場合同職の経験または経営者としての経験が求められているのがほとんどです。小規模の自営業だとしても元経営者が大企業の経営企画を目指すケースはほとんどないため、転職には経営企画室での数年にわたるキャリアが有利になるでしょう。
経営改善の実績を活かして経営コンサルタントとして独立するキャリアもあります。クライアント企業の経営陣とともに課題を解決する経営コンサルタントは、経営企画の社員よりも裁量権と自由度が高く、まさに経営中枢そのものとして参加できます。
経営企画のキャリアパス・CFOについて詳しくは、次の記事もご覧ください。
⇒経営企画のキャリアの考え方|経営企画の業務とキャリアパス・必要なスキルを詳しく解説
⇒CFO(最高財務責任者)とは?定義・意味から役割・仕事内容・なり方・キャリアパスまで徹底解説!
まとめ
経営企画室の役割は非常に幅広く、日本ならではの業務内容や課題も存在します。しかし、経営陣とともに企業の中枢で働ける部署であり、全社的な視野で物事を俯瞰的に見れる貴重な業務を経験できます。
この記事が、経営企画室への配属やキャリアを目指す方の参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。