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コーポレートガバナンス・コードとは?概要・特徴・制定された背景について解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
コーポレートガバナンス・コードの基本のキ
~概要と基本原則を解説~
コーポレートガバナンス・コードの「基本的な概要」と「基本原則」にフォーカスして紹介
上場企業が企業価値の向上および継続的な成長を遂げていくには、企業において常に不正を監視し、問題が起こらないように努めなければなりません。そのための施策となるのが「コーポレートガバナンス・コード」です。
そこで本記事では、コーポレートガバナンス・コードの特徴や構成、そして基本方針と改訂に基づく実務対応についてご紹介します。
目次
コーポレートガバナンス・コードとは
コーポレートガバナンス・コードとは、金融庁と東京証券取引所が合同で取りまとめた東証上場企業の行動原則のことです。コーポレートガバナンス・コードには、企業が株主をはじめ、顧客や企業の従業員、地域社会、さまざまなステークホルダーとの相応しい関係性、また企業が不正や問題を防止するためにあるべき姿について示されています。
コーポレートガバナンス・コードは、「CGC」という頭文字を取った略称での表現でも知られており、日本の上場企業によって機敏に用いられています。2015年に原案が公表され、その後日本のガバナンス底上げを目的として、2018年、2021年と改定が行われています。
コーポレートガバナンス・コードの内容は、5つの基本原則・31の原則・47の補充原則の計83原則で構成されています。コーポレートガバナンス・コードには法的な強制力はありません。しかし、コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or explain)が採用されているため、従わない場合には理由を説明する必要があります。
コンプライ・オア・エクスプレイン(Comply or explain)とは、「(コーポレートガバナンス・コードに)従うか説明せよ」という原則です。東京証券取引所への上場企業においては、5つの基本原則・原則・補充原則に則ったインベスター・リレーションズ(IR)活動が進められ、コーポレートガバナンス・コードが投資家にとっても適切な「企業統治」が行われているかどうかの判断基準として役立っています。
コーポレートガバナンス、2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードおよび5つの基本原則についての記事もご覧ください。
⇒コーポレートガバナンス(企業統治)とは?目的・強化方法・歴史的背景について解説!
⇒コーポレートガバナンス・コードの5つの基本原則|特徴・制定の背景・適用範囲と拘
束力について解説
⇒【2021年改訂】コーポレートガバナンス・コードの実務対応と開示事例
コーポレートガバナンス・コードが制定された背景
コーポレートガバナンス・コードが制定された背景には、日本企業の国際的な評価の低下が関係しています。日本企業の国際的評価低迷の主な原因は、日本企業の成長率の低さにあります。
日本政府は、日本企業の成長率の低迷に伴い、2013年6月14日の閣議決定において「日本再興戦略」をうち出し、日本企業の「企業統治(コーポレートガバナンス)」を見直すことを重要項目としました。そして、2015年6月に金融庁と東京証券取引所が「コーポレートガバナンス・コード」を策定し、上場企業への適用が開始されました。
日本企業への国際的な評価の低下の原因には、自己資本利益率(ROE)や株価が低いことがあります。投資家にとって、日本企業の自己資本利益率(ROE)や株価が低いことは、日本企業に投資するメリットがないということを意味しています。そのため、日本政府は主として海外の投資家が日本企業に投資する動機付けを目的として、日本企業の国際的な評価を改善するための施策として「コーポレートガバナンス・コード」を制定したのです。
スチュワードシップ・コードとの相違点
コーポレートガバナンスを理解する上で重要な原則の1つに「スチュワードシップ・コード」があります。スチュワードシップ・コードとは、投資家が企業との関係を適切かつ効果的に管理し、企業価値の向上と企業の持続的な成長を促すための行動原則をまとめたものです。
コーポレートガバナンス・コードは、企業が株主や顧客、企業の従業員、地域社会などのステークホルダーとの協働を通じて、企業の持続的な成長と中期的な企業価値の向上を促すことを目的としています。一方、スチュワードシップコードの目的は、機関投資家と投資先企業の建設的な対話を促すことにあります。スチュワードシップ・コードが企業外部にいる機関投資家の行動規範であるのに対し、コーポレートガバナンス・コードは、企業を対象とした行動規範です。
スチュワードシップ・コードについては、こちらの記事もご参照ください。
⇒スチュワードシップ・コード|特徴・原則と責任・8つの基本原則と実施方法・メリット・デメリットについて解説
コーポレートガバナンス・コードの特徴
コーポレートガバナンス・コードの特徴である以下の2つの手法について解説します。
・プリンシプル・ベース・アプローチ
・コンプライ・オア・エクスプレイン
プリンシプル・ベース・アプローチ
コーポレートガバナンス・コードの特徴の1つに「プリンシプル・ベース・アプローチ」があります。プリンシプルベース・アプローチとは、詳細なルール(細則)を制定せずに、抽象的なプリンシプル(原則)だけを定めた「原則主義」のことです。
市場は絶えず変化しており、詳細なルールを制定しても実情に合わなくなることが多いのが現状です。一方、地理的、時間的要素の差異を超えて広く妥当する原則があります。原則主義であるプリンシプル・ベース・アプローチは、大枠のルールだけが定められており、その詳細については各企業の実態に応じて決めることが可能です。原則をもとに事態に対応することで市場参加者の創意工夫の余地を高め、市場の革新性を期待できます。
プリンシプル・ベース・アプローチは、自由度と柔軟性というメリットがありますが、抽象的な原則であるため、人によって解釈の仕方が変わるという点があります。関係者各自が、原則の趣旨を十分に理解する必要があるでしょう。
プリンシプル・ベース・アプローチについては、こちらの記事もご参照ください。
⇒プリンシプルベース・アプローチ|ルール・ベース・アプローチとの比較・背景・意義について解説
コンプライ・オア・エクスプレイン
「コンプライ・オア・エクスプレイン」という手法もコーポレートガバナンス・コードの特徴の1つです。コンプライ・オア・エクスプレインとは、コーポレートガバナンス・コードを「遵守(コンプライ)せよ、遵守しないのであれば正当な理由を説明(エクスプレイン)せよ」というものです。
たとえば、コーポレートガバナンス・コードの適用を受ける企業は、自社の事情に照らして、コーポレートガバナンス・コードを遵守すること適当でないと判断した場合、その理由を十分にエクスプレイン(説明)すれば、1部の原則を遵守しないことも許容される場合があります。しかし、コーポレートガバナンス・コードを遵守せず、遵守しない理由を説明しない場合、取引所規制が定める企業行動規範に違反したこととなり、実効性確保措置の対象となります。
エクスプレイン(説明)の内容が適切かどうかの判断は、基本的に株主の判断に任されています。取引所が実効性確保措置を取った場合、企業がコーポレートガバナンス・コードの原則を実施していないことは明らかになり、企業の国際的な評価は下がることとなるため注意が必要です。
コンプライ・オア・エクスプレインについては、こちらの記事もご参照ください。
⇒コンプライ・オア・エクスプレイン|コンプライアンスへの対応・意義・必要性について解説
コーポレートガバナンス・コードを構成する5つの基本原則
コーポレートガバナンス・コードを構成する5つの基本原則には、「株主の権利・平等性の確保」「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」「適切な情報開示と透明性の確保」「取締役会等の責務」「株主との対話」があります。
これらコーポレートガバナンス・コードの基本原則を理解することで、企業のガバナンス体制を強化するためにやるべきことの方向性をつかむことができます。
コーポレートガバナンス・コードの5つの基本原則については、こちらの記事もご参照ください。
⇒コーポレートガバナンス・コードの5つの基本原則|特徴・制定の背景・適用範囲と拘束力について解説
コーポレートガバナンス・コードの各原則を遵守しない場合
コーポレートガバナンス・コードは、金融庁と東京証券取引所が合同で制定したガイドラインのため、法的拘束力はありません。そのため、各原則を遵守しないことがあったとしても制裁金などの罰則が科されることはありません。しかし、コーポレートガバナンス・コードの各原則を順守しない場合、上場企業はコーポレートガバナンス・コードを遵守しない理由を東京証券取引所に説明する必要があります。
もし、コーポレートガバナンス・コードの各原則を遵守しない理由を十分に説明(エクスプレイン)できない場合、公表措置の対象となり、東京証券取引所の上場規則違反に該当することになります。
東京証券取引所は、該当の上場企業に対してその後の経過および改善措置を記載した報告書の提出を求めることとしています。改善報告書提出の措置にも従わない場合、企業は上場契約において重大な違反を犯したとして上場廃止となり、企業の社会的評判は下落してしまう結果となることでしょう。
上場廃止については、こちらの記事もご参照ください。
⇒上場廃止とは?上場廃止の要因・上場廃止のメリット・デメリットを解説!
コーポレートガバナンス・コードが改訂された理由
日本におけるコーポレートガバナンス・コードは、2015年に適用が開始されてから、2018年、そして2021年の2回にわたって改訂が行われています。ここでは、コーポレートガバナンス・コードが改訂された理由をご紹介します。
コーポレートガバナンス・コードが改訂された理由の1つに、新型コロナウイルス感染症の影響があります。2020年からの新型コロナウイルス感染症の影響により、社会状況が急激に変化しました。企業における経営環境の急激な変化に伴い、多くの企業でデジタル・トランスメーション(DX)の動きや、働き方の変化に対応しなければならなくなりました。そのため、企業の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を実現するために、コーポレートガバナンス・コードを見直す必要があったのです。
参照:コロナ後に向けた経済社会構造の変化とコーポレートガバナンス上の課題(金融庁:令和2年10月20日)
さらに、コーポレートガバナンス・コードが改訂された理由には、2022年4月に行われた市場区分の変更(プライム市場・スタンダード市場・グロース市場)も関係しています。コーポレートガバナンス・コードが構成される3つの段階(基本原則・原則・補充原則)と対象となる市場については、以下のように整理することができます。
項目 | 内容 | 対象 |
---|---|---|
基本原則 | 企業統治に関する基本的な考えや理念を示したもの | プライム市場・スタンダード市場・グロース市場 |
原則 | 基本原則の内容を具体化したもの | プライム市場・スタンダード市場 |
補充原則 | 原則の実現に向けて、より具体的な行動指標を示したもの | プライム市場・スタンダード市場 |
2021年度改訂によるコーポレートガバナンス・コードの概要
コーポレートガバナンス・コードは、2021年6月11日より5つの補充原則が新設され、合計で83原則(5つの基本原則・31の原則・47の補充原則)となりました。また、14の原則・補充原則が追加・修正を受けたほか、4つの原則で開示項目が追加・変更されています。
また、2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードの中で、実務面における対応・開示項目の追加など新しい要素も見られます。それぞれについて、概観していきます。
2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードの概要については以下の記事もご覧ください。
⇒【2021年改訂】コーポレートガバナンス・コードの実務対応と開示事例
コーポレートガバナンス・コードの改訂による実務対応
2021年度のコーポレートガバナンス・コード改訂に伴い、企業に求められる具体的な「実務レベルの対応」には、以下のような行程があります。
ステップ1:取締役会でコーポレートガバナンス・コードの対応方針を決定する |
ステップ2:原則を実施と未実施を仕分けする |
ステップ3:未実施の原則について今後どのように対応するかを検討する |
ステップ4:ステークホルダーの理解を得られる開示内容を検討する |
ステップ5:報告書の記載内容を確定し、更新する |
4つの補充原則と改訂のポイント
2021年度のコーポレートガバナンス・コード改訂により、補充原則を元にした7つの改訂のポイントが示されました。
改訂のポイント | 関連する原則 |
---|---|
取締役会の機能向上を図る | 原則4-8・補充原則4-10①・補充原則4-11① |
中核人材の多様性を確保する | 補充原則2-4① |
サステナビリティに取り組む | 補充原則3-1③ |
その他(グループガバナンス) | 補充原則4-8③ |
その他(監査に対する信頼性の確保) | 補充原則4-13③ |
その他(内部統制・リスク管理) | 補充原則4-3④ |
その他(株主総会の運営方法) | 補充原則1-2④・補充原則3-1② |
まとめ
この記事では、コーポレートガバナンス・コードの特徴や構成、そして基本方針と改訂に基づく実務対応についてご紹介してきました。
日本におけるコーポレートガバナンス・コードには法的な拘束力はありません。しかし、東京証券取引所の上場規則違反に該当した場合、そのことが世間に公表され、企業に対する社会的信頼は下がり、海外投資家からの評価も下がる恐れがあります。そのような事態に陥らないためにも、コーポレートガバナンス・コードを遵守できない場合は、その理由を適切に説明しましょう。
この記事が、経営者・役員・企業のガバナンスに関係する担当者の方の参考になれば幸いです。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。