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サクセッションプランとは?効果的な戦略人事を行うためのプラン作成・メリット・デメリットを解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
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効果的な人事施策は、長期的な企業存続にとって欠かせない要素です。しかし、何から手を付けるべきか分からないと悩む人事担当者の方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、効果的な「戦略人事」である「サクセッションプラン」について解説します。サクセッションプランとは何か、サクセッションプランのメリットとデメリット、また具体的な進め方についてご紹介しますので、人事施策を見直したい企業の担当者様は、ぜひ参考にしてください。
目次
サクセッションプランとは何か
サクセッションプランとは、経営戦略上の重要ポストが将来欠けないように、その候補者を事前に育成する施策のことです。
企業の安定した経営の存続には、経営に関わる幹部候補者をはじめ、後継者の育成が欠かせません。企業は、後継者育成プランである「サクセッションプラン」を設定することで、優秀な人材を育成して昇進させ、経営幹部を引き継ぐよう取り計らうことが可能です。このことは、企業の長期的な存続に繋がります。
人材育成との違いとは
「サクセッションプラン」は、CEOなど経営に関わる重要なポストの候補者を選抜し、育成するもので、人材育成とは目的が異なります。人材育成とは、企業の方向性に応じて人材の成長を促す施策全般のことです。
サクセッションプランと人材育成の相違点は、以下の2点です。
・育成する項目
・育成する指導者
人材育成は、人事部が主体となって人材に研修やフォローアップを施します。しかし、サクセッションプランは、経営層が主体となって後継者候補である人材に、経営者視点に立った育成が施されます。
サクセッションプランが注目される背景
後継者不足は、現在の日本企業における重要課題の一つです。たとえば、日本政策金融公庫総合研究所が実施した「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年調査)」によると、後継者が決まっており後継者本人も承諾している「決定企業」は12.5%に留まっていることがわかります。少数の企業においてのみ、事業承継が実現していることが現状です。
後継者が決まっていない「未定企業」は22.0%、そして自分の代で事業をやめる「廃業予定企業」が52.6%にも及ぶことが調査によって分かっています。日本企業の90%以上が中小企業であることから、サクセッションプランが非常に重要で欠かすことのできない施策であることは明らかです。
また以下の2つの事柄も、日本企業がサクセッションプランを積極的に実施するよう促します。
・コーポレートガバナンス・コード
・ISO30414
参考:「中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2019年調査)」(日本政策金融公庫総合研究所)
コーポレートガバナンス・コード
「コーポレートガバナンス・コード」とは、「企業統治」を意味しており、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえたうえで、透明、公正かつ迅速、ためらいなく意思決定を行うための仕組みのことです。東京証券取引所はこの「コーポレートガバナンス・コード」を2015年に策定しました。2018年・2021年には改定され、サクセッションプランに主体的に関わるよう日本企業を促しています。
「コーポレートガバナンス・コード」を導入することで、企業は取締役会によって計画的かつ継続的に、後継者候補を選任していくことが可能になります。現場の混乱を避け、安定した経営が実現可能です。
参考:コーポレートガバナンス・コード (株式会社東京証券取引所 )
また、コーポレートガバナンスおよびコーポレートガバナンス・コードについては、こちらの記事もご参照ください。
⇒コーポレートガバナンス(企業統治)とは?目的・強化方法・歴史的背景について解説
⇒コーポレートガバナンス・コードとは?概要・特徴・制定された背景について解説
⇒コーポレートガバナンス・コードの5つの基本原則|特徴・制定の背景・適用範囲と拘束力について解説
⇒【2021年改訂】コーポレートガバナンス・コードの実務対応と開示事例
⇒プリンシプルベース・アプローチ|ルール・ベース・アプローチとの比較・背景・意義について解説
⇒コンプライ・オア・エクスプレイン|コンプライアンスへの対応・意義・必要性について解説
ISO30414
「ISO30414」も日本企業をサクセッションプランへと促すものの一つです。「ISO30414」とは、国際標準化機構(ISO, International Organization for Standardization)が定めた、社内外の利害関係者に対して人的資本に関する情報開示の国際的なガイドラインのことです。
「ISO30414」の中でサクセッションプランが設けられており、持続可能な労働力計画に不可欠なツールとして説明されています。
サクセッションプランにおける情報開示指標には、以下の3つがあります。
・後継者の有効率
・後継者のカバレッジ率
・後継者準備率
現在、安定的な事業を継続できる企業が高く評価されることが現状です。そのため、後継者育成の情報開示が、世間から求められるようになってきたことが背景でしょう。
ISO30414については、こちらの記事もご参照ください。
⇒ISO30414とは?注目された背景・目的・具体的内容・情報開示のポイントを解説
サクセッションプランの取り組み状況
経済産業省が公表した「日本企業のコーポレートガバナンスに関する実態調査報告書」によると、サクセッションプランの取り組みは簡単ではないことが分かります。サクセッションプランの実施を難しくしている背景には、次期社長は現社長が指名するという従来の慣行が挙げられます。
また、サクセッションプランの指名委員会には社外者が関与することになるため、そのことに抵抗感を抱く経営層の存在も、サクセッションプランの実施を難しくしている要因の一つです。
指名委員会については、こちらの記事もご参照ください。
⇒指名委員会とは?委員会設置の目的・役割・取締役候補者を選任する基準について解説
サクセッションプランのメリット
サクセッションプランを導入することのメリットをいくつか見てみましょう。主なメリットは、以下の4つです。
・企業の活性化
・ポスト空白期間の防止
・優秀な人材の定着
・採用コストの抑制
企業の活性化
サクセッションプランの導入で得られるメリットに「企業の活性化」があります。
たとえば、サクセッションプランのプロセスにより、人材登用基準が可視化されます。幹部および経営者候補の選出に求められる能力やスキルなど具体的な要件が明確にされることで、従業員のモチベーション維持に繋がるでしょう。一般社員の評価も含め、サクセッションプランのプロセスを適用することで、努力すれば昇進に繋がると認識されるからです。
ポスト空白期間の防止
サクセッションプランの導入で「ポスト空白期間を防止」することが可能です。幹部および経営者ポストの不在は、企業の運営において大きなダメージを与える重大な事項です。
しかし、サクセッションプランの導入によって、突然の経営陣不在による混乱を回避できます。また、企業生え抜きの人材が昇進するため、企業の方向性やアイデンティティが守られるというメリットもあります。
優秀な人材の定着
「優秀な人材の定着」もサクセッションプランの導入に伴うメリットです。サクセッションプランは、向上心がある優秀な人材に対して、経営幹部や経営者への道筋を明確にします。そのため、従業員の企業に対する愛着心や思い入れを強くすると考えられます。人材評価が明確でないと、優秀な人材は転職や独立を考えて流出してしまうでしょう。
人材の評価については、こちらの記事もご参照ください。
⇒評価制度とは?評価制度の目的・種類・制度の導入時に考えるべきポイントを解説
⇒人事評価とは?人事評価の目的・導入方法・注意点について解説
⇒人事評価シートの記載方法|人事評価シートの目的と職種別評価項目を徹底解説
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採用コストの抑制
サクセッションプランは、既存の社員を選出し育成する施策であるため「採用コストの抑制」に繋がります。幹部および経営者候補である人材は、すでに企業の一部として活躍してきた人材であり、企業に関する基礎的な指針などを省略した、効果的な育成プランの作成が可能です。
そのため、時間とコスト面での負担を減少できます。外部から幹部および経営者候補を選任する際にかかる、人材紹介会社への多額なコストを抑えることが可能です。
サクセッションプランのデメリット
サクセッションプランの導入にともなうデメリットには何があるのでしょうか。デメリットを把握することは、サクセッションプランのスムーズな導入に欠かせない要素です。
以下、2つのデメリットを紹介します。
・長期的な育成コスト
・人材のモチベーション維持
長期的な育成コスト
サクセッションプランのデメリットの一つに「長期的な育成コスト」が挙げられます。企業内で幹部候補および経営者候補を育成することが目的のため、数年〜数十年の長期的な視野が必要です。
前述した採用コストを抑制できるメリットがある一方、一般的な人材育成と比べて対象者一人当たりのコストが大きくなりがちなことがデメリットです。このことが理由で、早期に幹部および経営者候補の育成が必要な企業には向いていません。
人材のモチベーション維持
サクセッションプランの導入にともない、対象外になった「人材のモチベーション維持」に配慮する必要があることもデメリットの一つです。対象者の見直しや対象外となった人材のキャリアプランの見直しには時間とエネルギーが必要とされます。
また、対象者が途中で退職してしまう場合、それまでかけてきた時間や金銭的なコストが無駄になることもデメリットです。
サクセッションプランの具体的な作成方法
サクセッションプランは、経営者自ら率先して行っていく施策です。たとえば、企業の取締役会がサクセッションプランの責任者として任命されたり、取締役会の配下の諮問機関として設置されたりします。また、社外取締役も含めた「指名委員会」によって議論を行うこともあります。
サクセッションプランの具体的な作成方法をご紹介します。以下の6つのステップで進めていきます。
1.ビジョンの明確化
2.対象となるポストの決定
3.人材要件の決定及び選出
4.育成計画の作成
5.選出された人材の育成
6.定期的なフォロー
1. ビジョンの明確化
サクセッションプランを作成するにあたり、まず行うことは「ビジョンの明確化」です。企業の経営を任せる人材を育成するためには、経営に不可欠な「経営理念」や「企業風土」、「経営戦略」などのビジョンを明確にしなければなりません。企業が将来に継承したい企業風土や経営戦略などを明確にし、幹部および経営者候補に明示します。
ビジョンが明確になっていなければ、どんな人材を、どのように育成したらよいのかが分からないでしょう。
経営戦略については、こちらの記事もご参照ください。
⇒経営戦略部門とは?業務内容・やりがい・必要なスキル・近年の動向について解説
⇒経営戦略職に役立つ資格|経営企画との違い・必要なスキルについて解説
2. 対象となるポストの決定
企業ビジョンの明確化を行った後、そのビジョンの実現のために必要な「対象となるポストを決定」します。この段階は、とても重要であると言えます。なぜなら、企業戦略上重要と思われるポストを決定することによって、サクセッションプランの規模や内容が大きく変わってくるからです。
次期CEO候補者のみを対象とするのか、役員クラスや部長クラスまでを対象とするのかで大きく変わります。対象となるポストを決定することは、人材の選定基準や育成プログラムの決定にも影響する重要なステップであると言えます。
3. 人材要件の決定及び選出
対象となるポストを決定したら、対象ポストごとの「人材要件の決定」を行います。それぞれのポストに求められる知識やスキルを具体的に決定し、選定基準の可視化を行いましょう。
それから、幹部および経営者候補の選出を行います。選出の方法には、以下のようなものがあります。
・自他による推薦方式
・アセスメント方式
・選抜試験・選抜研修方式
選出方法に関しては、特定のポストに関する候補者を常に募るのか、複数名の人材を確保するのかでも変わってくるでしょう。扉を大きく設けながら公平性や透明性のある選定を行うことが重要です。
4. 育成計画の作成
候補者の選出を行った後は、個別に育成計画を立てます。育成計画は、1か月、3か月、6か月、1年などの期間に分けてスケジューリングできます。「何をいつまでに行わなければならないのか」を明確にする必要があります。
経営幹部に求められる特質は、計画した事柄を実行し実現させる力です。業務目標達成までの期限を定め、速やかに実行できるよう環境整備を行うことが重要です。また、候補者の信念や志を考慮した上で育成計画を作成することで、候補者のモチベーション向上も期待できるでしょう。
5. 選出された人材の育成
育成計画を作成したら、その計画に沿って実行していきます。たとえば、アクションラーニングやジョブローテーション、OKR(目標と成果指標)などを導入する企業も少なくありません。アクションラーニングによって経営幹部に必要なスキルを磨くことが可能です。
ジョブローテーションによって企業全体の業務に精通してもらうことも効果的でしょう。経営に必要な基礎知識の習得、現場での問題解決能力を高めるために実施できるでしょう。
OKRについては、こちらの記事もご参照ください。
⇒OKR(目標と主要な成果)とは?目標の設定方法・運用の際のポイントを丁寧に解説
⇒OKRを活用した人事評価のポイント|OKR評価を運用するコツも解説
⇒OKRシートおすすめテンプレート5選|メリットと記入例・導入時の注意点も解説
⇒OKRの導入事例10選|OKR導入の流れと実施に向けた注意点も合わせて解説
6. 定期的なフォロー
育成計画を作成し実行していく過程で、候補者の定期的なフォローも重要です。たとえば、定期的に幹部および経営者候補をアセスメントすることで、見直しや調整を行います。育成計画を一定期間実施していくことで見えてくる問題点、調整点があることでしょう。それらの点を速やかに育成計画に反映させていくことが重要です。
育成計画は、中長期的な経営戦略において作成されたものです。計画の変更、育成施策の追加や削除には柔軟に対応していきましょう。
サクセッションプランの事例
実際に、自社の幹部人材の育成を目的にサクセッションプランを導入している企業は多くあります。ここでは、次の3社の事例について紹介します。
・トヨタ自動車株式会社
・帝人株式会社
・りそな銀行
トヨタ自動車株式会社
愛知県豊田市に本社がある、日本最大の自動車メーカーのトヨタ自動車株式会社では、グローバル幹部人材の育成を目的として「GLOBAL21プログラム」を実施しています。
このプログラムでは、「経営哲学と幹部への期待の明示」「人事管理」「育成配置と教育プログラム」という3つの柱を掲げ、グローバル幹部のための能力開発・人材育成を行っています。
帝人株式会社
大阪府大阪市北区に本社を持つ、大手化学メーカーの帝人株式会社では、「ストレッチ」という経営者育成制度を構築して、次世代の役員候補者の選抜と育成を行っています。
ストレッチ制度では30代から50代の人材を区分けし、特に40代や50代はビジネススクールに送り出すなど人材育成のために外部の教育機関を活用するなどをしています。
また、このストレッチに選ばれた人材の人事権は社長が握っていることも特徴的です。
株式会社りそな銀行
大阪府大阪市中央区に本店がある、りそなホールディングス傘下の都市銀行である株式会社りそな銀行では、役員の選抜と育成を目的とした育成プログラムを実施しています。
りそな銀行は、「組織を動かす迅速な決断と実行」「多角的・論理的に本質を見極める」「グループの将来ビジョンを描く」「情報を鋭く嗅ぎ取る」「変革志向」「No.1 へのこだわり」「お客様の喜びの追求」という7つの軸を掲げ、役員候補人材の選抜の透明化のための指名委員会の設置や外部のコンサルタントを活用し、人材の見極めをするなどをしています。
まとめ
この記事では、サクセッションプランについて解説してきました。サクセッションプランのメリットとデメリット、また導入方法などを事前に考慮することは、効果的な人事施策を実施していくために欠かせません。
企業が長期間にわたって存続していくためには、将来の幹部および経営者の育成が必要です。人材不足が大きな課題となっている現在の日本企業において、サクセッションプランの導入は急務であると言えます。人事施策の見直しを考えている人事担当者の方、また効果的な人事施策の導入を考えている人事担当者の方は、ぜひサクセッションプランの導入を考慮してみるのはいかがでしょうか。
本記事が、ベンチャー・スタートアップ企業の経営者・人事担当者の方のご参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。