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経営戦略部門とは?業務内容・やりがい・必要なスキル・近年の動向について解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
CFOになるには?キャリアパスも解説
経理/会計/財務/経営企画などの管理部門としてのキャリア
経営戦略は、現代の企業において不可欠な要素と言えるでしょう。競争激化する市場環境において、企業が成功を収めるためには戦略的なアプローチが求められます。経営戦略の策定は企業のビジョンや目標を実現するための指針を示し、競争力の維持や成長の促進に大きく寄与します。
本記事では、経営戦略の役割や具体的な仕事内容、経営戦略部門に必要なスキル・キャリアパスなどを中心に解説していきます。
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目次
経営戦略とは
経営戦略とは、企業が競争環境の中で自社の経営目的や経営目標を達成するための全般的な方針や計画を指します。企業が持つ経営資源(人材、物資、資金)は限られており、目標や目的に合わせて適切に選択・分配する必要があります。
経営戦略には、企業活動の基盤となるガイドラインや基準、さらには施策を具体化するための体制の構築なども含まれます。
経営戦略の3つの役割
経営戦略は、企業全体の経営戦略、事業レベルの経営戦略、および機能レベルの経営戦略の3つの階層に分けられます。これらの階層では、広範な戦略を具体的かつ包括的な戦略にまで落とし込み、統合的な戦略全体を構築していきます。
・企業戦略
・事業戦略
・機能戦略
これら3つの戦略それぞれの役割について具体的に説明していきます。
企業戦略
企業戦略は、企業の長期的な目標達成を目指し、ビジョンの策定と浸透に注力する企業全体に対する経営戦略です。この戦略では、自社事業の基本的な構成・枠組みや方向性を確定し、戦略的事業単位(SBU)である市場および競走環境、サービスなどを設定して、各事業へ経営資源の配分を行います。
また、事業を多角化することで経営資源を拡大するか、自社の強みとなる経営資源(リソース)に集中するかといった配分の選択も重要な要素と言えます。
事業戦略
企業戦略における事業レベルの経営戦略は、企業戦略で設定された目標を達成するために、事業部門や事業責任者が考える戦略です。この戦略では、市場や顧客に提供する価値や競合他社との差別化など、「市場」「顧客」「商品・サービス」といった要素に関する戦略を立てます。
事業レベルの経営戦略は、企業戦略における経営戦術のような役割を果たし、事業における具体的な実践戦略を提案していきます。
また、事業内で利益を生み出し、企業価値を高めるためには、ビジネスモデルの構築・再構築も重要な事業戦略の一環となります。
ビジネスモデルの設定には、以下の4つの要素を考慮します。
顧客(Who) |
どのような顧客に焦点を当てるのか、ターゲット市場を明確にします。 |
価値提供(What) |
どのような価値を顧客に提供するのか、商品やサービスの特徴や優位性を明確にします。 |
価値提供のプロセス(How) |
どのような方法で価値を提供するのか、ビジネスの仕組みやプロセスを具体化します。 |
収益化の構造(Why) |
なぜそのビジネスモデルで利益を生み出せるのか、収益の源泉や収益モデルを考慮します。 |
これらの要素を組み合わせてビジネスモデルを構築し、事業の成果を最大化していきます。
機能戦略
事業戦略の下で組織の目標を達成するために考えられるのが、機能レベルの経営戦略です。どの業種であっても、事業戦略に基づいて各機能の戦略を整備することが重要です。事業戦略の具体的な機能として、マーケティング戦略、営業戦略、財務戦略、人事戦略、研究開発戦略、購買戦略、生産戦略、物流戦略などが挙げられます。
これらの戦略は、それぞれの機能領域において目標達成を支援し、事業全体の成果を最大化するために重要な役割を果たします。
経営戦略の主な仕事内容
経営戦略部門の業務内容は、会社の規模や業種によって異なりますが、以下5つの基本的な業務が一般的に挙げられます。ただし、企業や業界によっては経営企画部門と同じ機能であったり、また、同じ経営戦略部門であっても業務内容が異なる場合もありますので、ご留意ください。
・経営戦略の立案
・マーケット調査
・事業の創造・管理
・コーポレート・ガバナンス
・IR
経営戦略の立案
経営戦略は、企業全体の事業が経営目標を達成するための方策全般を指します。経営戦略部門は、この経営戦略を策定する重要な役割を担っています。
企業ごとに予算や人材の配分は異なるため、経営企画部門は自社の状況に合わせて予算や人材を適切に配置する必要があります。これには事業部や部門との連携が欠かせません。各部門のニーズや目標を把握し、統合的な視点で予算や人材を配分することで、全体最適な結果を追求します。
経営戦略部門は、競争優位性を確立するために明確な経営戦略を策定する役割を果たします。これには市場分析や競合分析を行い、自社の強みや特徴を把握し、それを活かした戦略の立案が求められます。
また、外部環境の変化や市場のニーズに敏感に対応しながら、長期的なビジョンをもとに戦略を構築し、組織全体を牽引していく役割を果たします。
マーケット調査
経営戦略部門は、マーケット調査の業務も担当します。マーケット調査は、商品やサービスの企画段階において、消費者の需要やイメージ、価格設定などを正確に把握するために行われる競合分析の一環です。
これにより、企業はマーケットのトレンドや顧客のニーズを的確に把握し、戦略的な意思決定に反映させることができます。急速に変化するマーケット環境に対応するためには、経営戦略部門は社会の変化を敏感に捉える能力を持ち、マーケットの変動や競合動向を的確に分析する必要があります。
トレンドや顧客ニーズを抑えた分析をすることで、経営戦略の修正や戦術の調整が行われ、企業は競争力を維持・向上させながらマーケットの変化に適応し、持続的な成長を実現することができます。
事業の創造・管理
経営戦略部門は、新たな事業の創造・管理の役割も果たしています。現代のマーケットは常に変化しており、企業は時代に即した事業展開を行う必要があります。
このため、経営戦略部門は会社の予算や人材の能力を考慮しながら、新たな収益源となる事業の創造を積極的に行っています。新規事業の創造にはマーケット調査やトレンド分析が欠かせず、経営戦略部門はこれらの情報を活用して戦略的な意思決定を行っていきます。
また、経営戦略部門は新規事業の進行状況を定期的に分析し、事業を適切に管理する役割も担っています。事業の管理には予算管理やリスク評価、プロジェクトの進捗管理などが含まれます。経営戦略部門はこれらの管理業務を通じて、事業の成果を最大化し、組織の目標達成に貢献します。
さらに、各事業部署が直面する課題の解決策を提案し、問題点の改善を図る役割も担っています。経営戦略部門は広い視野と専門知識を持ち、組織内外の環境変化や競合動向を把握し、的確なアドバイスや戦略の修正を行います。これによって、組織全体の成果向上や競争力の強化が図られ、持続的な成長を実現することが目指されます。
コーポレート・ガバナンス
最近では、SDGsという言葉を頻繁に聞く機会が増えています。この背景には、ESG投資の推進や社会的課題への関心の高まりがあります。
現在、企業には利益を追求するだけでなく、社会的責任を考慮し実行することが求められています。特に大企業では、顧客や取引先、競合他社、地域社会など、多くのステークホルダーと関わりを持つことになります。1つの不正行為や小さな炎上が大きな問題に発展し、企業のイメージを低下させる可能性があるため、こうした事態を予防する必要があります。
そのためには、コンプライアンスの意識を組織全体、さらには社員1人1人まで浸透させる必要があります。行動指針や規程、罰則などを策定することで、企業としての正当性を確保し、信頼性を向上させることができます。
これによって、企業は社会的責任を果たし、長期的な持続可能な成長を達成することができると言われています。
コーポレートガバナンス・コードについては次の記事もご参照ください。
⇒【2021年改訂】コーポレートガバナンス・コードの実務対応と開示事例
IR
IR(Investor Ralations)とは、株主や投資家に対して必要な情報を提供し、投資に関する情報を報告する活動全般を指します。
IR業務では、財務状況や決算内容などの財務に関する情報だけでなく、環境問題への取り組み状況や自社製品の開発状況、他企業との提携状況などの情報も公開されることもあります。IR業務は、広報や総務などの部署が担当するケースもありますが、広範な社内知識が要求されるため、経営戦略部門がリードするケースも多く見られます。
IR業務の具体的な業務内容には、次のようなものがあります。まず、IR資料の作成としては、有価証券報告書や決算短信の作成があります。また、株主総会の企画・運営もIR業務の一環となります。さらに、株主や投資家からの質疑応答への対応もIR業務に含まれます。
IR業務の重要な役割は、情報提供にとどまらず、受け取った質問や意見、要望を的確に経営陣に伝えることです。経営陣は、報告を通じて株主や投資家のニーズを正確に把握し、それに基づいて経営判断を行います。このプロセスにより、企業は投資家との相互理解を深めることができます。
環境問題に関連した気候変動と企業の財務情報の開示については、次の記事もご参照ください。
⇒TCFDとは?気候関連財務情報開示タスクフォースの概要・TCFDに関する世界的な取組について解説
経営戦略部門の仕事のやりがい
仕事のやりがいは、業種や職種によって異なります。ここでは、経営戦略部の仕事のやりがいについて解説していきます。
・企業の未来を左右する経営課題への挑戦
・優秀な人材との協働と成長機会
企業の未来を左右する経営課題への挑戦
経営戦略の役割は、ビジネスモデルの見直しや時代の変化に対応して、企業がどのように経営すべきかという大きな経営課題に取り組むことから始まります。また、具体的な経営課題としては、コスト削減やマーケティング戦略の立案・策定などが含まれます。
経営戦略部門は、会社の状況を総合的に把握できる部署であり、策定した戦略が実行され、企業が成長を遂げていると実感できる瞬間や、目標を達成し可視化することができたときには、大きな達成感を得ることができるでしょう。
優秀な人材との協働と成長機会
経営戦略部門では、経営視点から業務を進めるために、高度な経営に関連する知識、論理的思考力、プレゼンテーション能力が求められます。そのため、将来の経営幹部候補として期待される人材が集まる魅力的な部署として特徴を持ちます。
経営層と直接協力しながら仕事を進めることや、各分野のエキスパートや高水準の人材と共に課題に取り組む機会が多いことから、成長の機会が豊富で喜びとやりがいを感じることができます。
経営戦略部門に必要なスキル
経営戦略部門で活躍するために必要とされるスキルについてご紹介します。
・論理的思考力・分析力
・情報収集力・情報選択力
・コミュニケーション力・プレゼンテーション力
論理的思考力・分析力
論理的思考力と分析力は、経営戦略の業務において重要な役割を果たすでしょう。経営に関する課題を解決するためには、データ収集方法や定性・定量分析の手法、ビジネスフレームワークなどを適切に活用し、論理的思考力を駆使する必要があります。
これらの能力を発揮することで、経営目標や戦略の策定に貢献することができます。
情報収集・選択力
経営戦略において、企業の営業データや市場動向、競合情報などの分析に役立つ情報を選択し、どのように入手するかという情報収集のスキルが重要とされています。
これは求められる能力の一部であり、必要な情報の領域に応じて、調査の計画から実施まで行うこともあります。
コミュニケーション力・プレゼンテーション力
経営層や各部署とのコミュニケーションにおいては、情報を収集するための質問力や傾聴力、 そして本音を引き出すための会話力など、高いスキルが必要とされます。
また、戦略の実行段階では、他の部署との綿密な調整が必要となり、多くの関係者を巻き込んでプロジェクトを進めることが求められます。プロジェクトリーダーの経験や社内外の関係者との調整経験など利害の調整業務を経験したことは、評価される要素となるでしょう。
経営戦略部門のキャリアパス
経営戦略の経験を通じて、新規事業立ち上げ、IPO準備、M&A、資金調達、管理会計など、企業経営に関連する広範な知識を深めることができます。これらの経験を積むことで、多くの人はキャリアの選択肢を広げるために転職を検討することもあります。
経営戦略の職務経験があると、財務部長、CFO、COOなどの役員への昇進の機会もあります。また、経営・戦略コンサルタントとして独立する人や自身で起業する人も存在します。
CFOになるためには特定の必須資格はありませんが、中小企業ではオペレーション業務の実務経験が重視されることがあります。また、中小企業や大企業のいずれでも、CFOの役割には経理業務が含まれることが一般的であり、経営戦略の経験を持つ人材が求められる傾向があります。
CFOについては次の記事もご参照ください。
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経営戦略部門の近年の動向
国内における社会保険料や国防を目的とした増税やアメリカや中国との貿易摩擦などの要因により、日本市場の低成長が予測されています。この状況下では、多くの企業が収益を拡大するために新たな収益源の創出を目指しており、具体的には新規事業の創造や海外市場への進出などの方法を検討しています。その結果、経営戦略の分野でも、こうした経験を持つ人材への需要が高まっている傾向が見られます。
国内市場に影響を与え、また、景気に左右される内需型産業の企業では、生産性の向上や新規事業のためのAIの活用やビッグデータのマーケティングへの応用などが急務とされており、データサイエンスに優れた人材の増員が進んでいます。
また、ベンチャー企業やスタートアップ企業では、発想力を持ち、迅速に複数の事業を立ち上げながら前に進めていく実行力を合わせ持つ人材が求められています。このように、経営戦略の領域でも、企業ごとに求められる人物像の幅が広がっていると言えます。
まとめ
この記事では、経営戦略に関する職種や業務内容、必要なスキル、キャリアパスについて紹介しました。
経営戦略の業務内容は一般的にはあまり知られていませんが、実際には企業内のさまざまな業務を担当する部門であることがわかります。
経営戦略は、企業の経営計画の策定や実行だけでなく、企業内のコンプライアンス管理やステークホルダーへの対応などの裏方業務も担当するため、経営に関する広範な知識が求められます。さらに、様々なスキルを持ち、企業の経営そのものを支える役割も果たしています。
本記事が、ベンチャー・スタートアップ企業の経営者や人事担当者の方々にとって参考になれば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。