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就業規則で副業は解禁すべき?副業を解禁するメリットと注意点について解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
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国が副業を推奨していることもあり、会社員にとって「副業」という言葉は一般化しつつあります。そのため「自社も副業を解禁した方がいいのか?」と悩んでいる企業経営者や人事担当者の方も多いのではないでしょうか?
副業を解禁するためには就業規則を変更しなければなりません。しかし、実際に副業解禁をする前に、副業を解禁することのメリットとデメリットについてしっかりと理解しておく必要があります。
副業の範囲や副業解禁のメリット・デメリットとともに、就業規則で副業を解禁する方法について詳しく解説していきます。
就業規則については、こちらの記事もご参照ください。
⇒就業規則の作成について|就業規則の作成手順と記載事項・作成時の注意点も解説
⇒従業員数10人未満の企業の就業規則について|就業規則作成手続きの注意点なども解説
⇒就業規則の変更手続き|従業員に納得してもらう就業規則変更のコツを解説
目次
企業が就業規則で副業禁止にすることは違法?
企業が就業規則で副業を禁止することは違法ではありません。副業は法律で認められた権利ですが、理由があれば企業が従業員に副業禁止を課すことも可能です。
まずは、従業員と企業にとっての副業についての法的な立場の違いを解説していきます。
法律上副業は認められている
労働者が副業をすることについて、法律で「禁止」とされていることは全くありません。そのため、会社の従業員が副業をすることそのものは合法です。
憲法には次のように明記されています。
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。(憲法22条1項)
憲法で職業選択の自由が定められており、副業においても憲法で保証されている限りは自由に行うことができます。ただし、公務員は一定範囲内でしか副業が認められておらず、法的には禁止されています。
国家公務員法には次のように定められています。
職員は、営利を目的とする私企業(以下、営利企業)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員等の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならない。 (国家公務員法103 条1項)
また、地方公務員の副業についても地方公務員法で次のように定められています。
職員は、任命権者の許可を受けなければ、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下、営利企業)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。(地方公務員法38条)
法的に副業を禁止されているのは公務員だけで、一般の会社員が副業をすることは法的に何も問題はありません。
企業は就業規則で副業を禁止することができる
労働者が副業をすることは法的に問題のない行為です。しかし、企業は就業規則で従業員の副業を禁ずることができます。
就業規則においては「副業禁止」と明記している会社で副業した場合には、会社から懲戒解雇などの処分が下されるので、従業員は副業ができないだけです。
副業をすることによって従業員のパフォーマンスが低下したり、情報が漏洩することは企業にとってのデメリットです。
また、厚生労働省は企業が就業規則を作成する際の見本となる「モデル就業規則」を公表していますが、モデル就業規則には2018年まで「副業禁止」の旨が明記されていました。これも民間企業が従業員の副業を禁止する原因の1つだと言えるでしょう。
なお、現在はモデル就業規則から「副業禁止」は削除されています。
副業の可否について従業員へ周知することが重要
副業は法的に禁止されているものではなく、企業が独自に就業規則で禁止しているものです。
従業員としては「法的に認められている権利を会社から妨げられている」ことになります。そのため「副業を禁止する場合にはなぜ禁止なのか」「どこまでを副業と定義するのか」という点を明確に従業員へ説明することが重要です。
また副業を解禁する場合には本業に支障がないように、どのように従業員が副業をしてよいのか、具体的に周知しましょう。
副業の可否は就業規則で決めるものである以上、従業員に禁止または解禁する理由と、副業の範囲や本業との関わりについて具体的に周知することが非常に重要です。
副業禁止の範囲はどこまで?
副業禁止と言っても「家業の農業は副業に当たるのか」「休日、知りたいに頼まれて仕事をすることも副業に当たるのか」など、「どこまでが副業なのか」と疑問に感じている人も多いのではないでしょうか?
副業禁止の範囲はどこまでなのか、具体的に見ていきましょう。
投資や家賃収入は認められるケースが多い
投資や家賃収入などのいわゆる不労所得は副業として会社から認められるケースが多くなっています。これらの副業は、労働時間が必要ないためです。
会社が副業を禁止している理由は「副業によって本業が疎かになるため」「情報が漏洩するため」主にこの2点です。
投資や家賃収入などは、労働が必要なく、情報漏洩のリスクも極めて低いので副業として認められる可能性が高いでしょう。
なお金融機関に勤務している場合には、株式投資がインサイダー取引になる可能性があるという点で禁止されているケースもあります。
インサイダー取引については、こちらの記事もご参照ください。
⇒ストックオプションの行使はインサイダー取引規制に違反しないか?
アルバイトや長時間労働は禁止されるケースが多い
アルバイトや長期間の労働が必要になる副業は禁止になるケースが多いようです。長期間の労働が必要になる副業は本業に支障をきたす可能性があるためです。
副業に時間を奪われて本業に集中できなくなったり、副業の方がメインになり本業の情報を漏洩したりする可能性があります。
あくまでも副業は本業に準ずる労働時間であって、休日が確保できないほどの長い労働時間が必要になる副業は会社から認められない可能性が高いでしょう。
副業の線引きが曖昧な場合
どこからが副業として認められ、どんな仕事が副業として認められないのか分からない場合は従業員は会社に確認することをおすすめします。
副業は法律で禁止されているものではないので、公的な機関に「自分の副業は副業として会社に認められるかどうか」と判断しても、客観的に判断してもらうことは不可能だからです。
どこまで副業として認められるのかは会社に対して個別具体的に確認した方がよいでしょう。また、会社も詳細に副業として認められるもの、認められないものを従業員に対して説明することが重要です。
副業を解禁する企業が増えている理由
副業を解禁する企業が増えている理由は「国の推奨」です。
2018年6月29日に国会で成立した働き方改革関連法は以下の内容が改正項目の目玉となっています。
・時間外労働の上限規制
・「勤務時間インターバル制度」の導入促進
・年次有給休暇の確実な取得(時季指定)
・労働時間状況の客観的な把握
・「フレックスタイム制」の拡充
・「高度プロフェッショナル制度」の導入
・月60時間超残業に対する割増賃金引き上げ
・雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
・産業医の権限強化
フレックスタイム制の拡充や時間外労働や労働時間の適切な管理を厳格化したことによって、従業員はこれまでのように「意味もなく会社に拘束され、残業やサービス残業をする」ということから解放されます。
これと同時に厚生労働省が以前から交渉している「モデル就業規則」から「副業禁止」が削除されたため、『本業の会社は時間通りにきっちりと働き、これまで不当に会社に拘束されていた時間は副業に活用する』という流れが加速したのです。
企業が副業を解禁するメリット
企業が従業員の副業を解禁することには次の3つのメリットがあります。
・人材の流出を防ぐことができる
・採用時のアピールポイントになる
・従業員のスキルアップにつながる
副業を解禁することは従業員の収入が上がるだけでなく、会社にとってもプラスになる場面が多いようです。企業が副業を解禁する3つのメリットをご紹介していきます。
人材の流出を防ぐことができる
副業を解禁することによって人材の流出を防ぐことができます。今は、労働者は多様な仕事をして、自分のスキルやキャリアをアップさせていきたいと考える時代です。
優秀な人材ほど、1つの会社で1つの仕事に縛り付けることが難しいのであれば、会社は従業員をある程度自由に働かせた方が、優秀な人材を会社に留めておくことに繋がるでしょう。
採用時のアピールポイントになる
「副業OK」というのは、会社に縛られない生き方を求める若者に対する大きなアピールポイントになります。
人手不足の中、優秀な人材を確保したいのであれば、「副業OK」は、大きなアピールポイントだと言えるでしょう。
従業員のスキルアップにつながる
副業で他の仕事に従事することは従業員のスキルアップにも繋がります。副業は本業に対してマイナスになるだけでなく、本業では得られないさまざまなスキルや人脈を獲得する機会でもあります。
そして副業で得た経験やノウハウを本業に生かすことができれば、従業員は収入が上がり、本業の企業には副業で得たノウハウや人脈が還元されるのでメリットにつながります。副業は会社にとっても直接的にプラスになることも多いと理解しましょう。
副業解禁時の就業規則の変更方法
企業が副業を解禁する場合には、次のような流れで就業規則の変更を行います。
1.就業規則案の作成
2.過半数組合または労働者の過半数代表者からの意見の聴取
3.労働基準監督署への「就業規則(変更)届」の届け出
4.事業所での「就業規則」の周知
副業を解禁する場合であっても、他の変更であっても基本的に就業規則を変更する流れは同じです。経営側で変更案を作成し、組合や労働者の代表者から意見を徴収し、労基署へ事業所ごとに届出を行い、従業員に対して周知を行うだけです。
副業解禁の場合には、労働者からは歓迎されるため不利益変更には該当しません。そのため組合や労働者からは同意を得られやすいでしょう。
問題なのは経営側がどこまでの副業を認めるのかという就業規則案を作成する段階です。どこまで認めれば会社に不利益がなく、従業員が納得できるものになるのか、専門家などの意見も聴きながら慎重に変更案を作成していきましょう。
就業規則で副業を解禁する場合の注意点
就業規則で副業を解禁する際には次の6つの点に注意しましょう。
・副業の労働時間を把握する
・副業の通勤手当の取り扱いに注意する
・副業中に発生した通勤災害・業務災害
・安全に配慮する義務
・社会保険の取り扱い
・就業規則を守らない従業員への対処
就業規則で副業を解禁する際の6つの注意点について解説していきます。
副業の労働時間を把握する
従業員が副業をする際には、本業と副業の労働時間には十分に注意しましょう。労働者の労働時間は法律によって1日8時間、週40時間が上限と定められています。これは本業と副業を合算した労働時間になります。
そのため企業は労働者が副業によってどのくらいの労働時間があるのかを把握して、法定労働時間を超えないように管理しなければなりません。法定労働時間を超えた労働になる場合には、労働者と36協定を締結した上で割増賃金を支払わなければなりません。
なお、割増賃金を支払う会社は労働者と後から契約をした会社です。
つまり、副業先の企業ですので、本業の会社は割増賃金を支払う必要はありません。本業の企業は労働者に対して労働者の労働時間を把握し、「1日何時間以上の労働は副業先企業から割増賃金を受け取る権利がある」と従業員に対して伝えてあげましょう。
副業の通勤手当の取り扱いに注意する
本業の企業から副業の企業まで従業員が通勤する場合には、その通勤手当に関しては誰が支払うのかという点も明確にしておかなければなりません。基本的に、副業の企業へ通勤するための交通費は副業の企業が支払うべきものです。
通勤手当をどこからどこまで支払うのかという点についても、就業規則で詳細に取り決めておきましょう。
副業中に発生した通勤災害・業務災害
副業中に発生した通勤災害や業務災害については副業先の企業で負担すべきものです。労災保険の給付は副業先の企業から支払われている給与を算定基礎として計算するため、この点も従業員に対して教えておいた方が親切でしょう。
安全に配慮する義務
雇用主は従業員の安全に配慮する義務を労働契約法で負っています。
労働契約法には次のように明記されています。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする(労働契約法5条)
本業の企業と副業の企業それぞれで、従業員に対して安全配慮義務が課せられていることは間違いありません。
そして、副業によって従業員が体力的に消耗して、本業での注意不足に陥ったとしても、本業の企業は従業員の安全配慮義務を負っていることに変わりはありません。つまり、副業を解禁したことによって企業は従業員に対して、より高いレベルの安全配慮義務を負うことになります。
社会保険の取り扱い
副業によって社会保険をどのように取り扱うかという問題もあります。通常、社会保険は勤務している事業所ごとに適用されるかどうかが判断されます。
本業、副業ともに社会保険の加入条件を満たしているのであれば、複数加入となります。
しかし、労働者本人がメインになる会社を選択することもできます。また、雇用保険は主たる給料を受け取る会社で加入することになるので本業の企業で加入するのが基本です。副業解禁に伴い、これらの点も従業員に対してしっかりと説明しておきましょう。
就業規則を守らない従業員への対処
副業解禁に当たって就業規則を守らない従業員への対応を詳細に決めておいた方がよいでしょう。
副業禁止としている間は「副業をしたらどうするか」だけを決めておけばよかったのですが、副業を解禁したことによって次のようなケースが考えられるためです。
・本業の職務怠慢になった
・情報漏洩をした
・競合他社に勤務した
このように想定される副業のリスクを列挙して、それぞれのケースでどのような処分を課すのかを明確に決めておきましょう。
副業によって懲戒解雇になる場合
従業員の方は副業をすることで本業の会社を懲戒解雇になるケースに注意した方がよいでしょう。次のいずれかに該当してしまうと、本業を解雇されるリスクがあります。
・副業の影響で本業に支障が出る場合
・副業によって企業に損害を与える場合
・違法性や公序良俗を乱す恐れのある副業の場合
・同業他社での副業の場合
副業によって懲戒解雇になる可能性のある4つのケースについて詳しく解説していきます。
副業の影響で本業に支障が出る場合
副業の影響で本業に支障が出る場合です。例えば、本業に遅刻をする、明らかにパフォーマンスが落ちたような場合には、懲戒解雇になるケースもあるでしょう。
副業はあくまでも本業に支障がない範囲で行わなければなりません。具体的にどのような事例が「本業に支障が出ている」と判断できるのか、詳細に決めておきましょう。
副業によって企業に損害を与える場合
他社に本業の企業の重要情報を漏洩させて、本業の企業へ損害を与えた場合などです。どんな情報に守秘義務があるのか定めておき、情報漏洩の際の罰則を明確にしておきましょう。
違法性や公序良俗を乱す恐れのある副業の場合
副業に違法性がある場合や公序良俗を乱す恐れのある副業の場合も懲戒解雇の対象とすべきです。
そのような仕事を従業員がしていたというだけで、企業のマイナスイメージとなるためです。具体的にどのような副業がNGなのか、あらかじめ詳細に定めておきましょう。
同業他社での副業の場合
同業他社での副業は禁じるべきでしょう。同業他社で副業をすることは企業にとってはマイナスで、場合によっては自社の顧客を他社に取られてしまう可能性もあるためです。
副業をすることを禁止する業種を定めておき、従業員が同業他社で副業することをあらかじめ予防してください。
まとめ
2018年6月29日に国会で働き方改革関連法が成立してから、これまでは副業に対して消極的だった日本企業も副業を解禁する流れになっています。
副業を解禁することは従業員の所得アップにつながるだけでなく、人材の確保や従業員のスキルアップにも効果的です。
実際に副業を解禁するには就業規則を変更するだけですので、手続き的には簡単です。
ただし副業を解禁することは、従業員のパフォーマンスが低下したり、情報漏洩のリスクがあるのも事実です。どんな業種で、どの程度の労働時間であれば副業を認めるのかなど、できる限り詳細に副業に関するルールを定めた上で副業を解禁する手続きをとりましょう。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。