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TCFDの4つの主要な開示要件|ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標について詳細に解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
コーポレートガバナンス・コードの基本のキ
~概要と基本原則を解説~
コーポレートガバナンス・コードの「基本的な概要」と「基本原則」にフォーカスして紹介
TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)は、気候関連の情報開示・気候変動への金融機関を検討することを目的に金融安定理事会(Financial Stability Board)によって2015年12月に設立されました。
TCFDを日本語にすると、気候関連財務情報開示タスクフォースといい、気候変動要因に関連する適切な投資判断を促進するための一貫性・比較可能性・信頼性・明確性を持つ、効率的な情報開示を促進する提言をまとめることを目指して議論を続け、2017年6月に「最終レポート:気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言」を公表しました。
本記事では、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に関わる全ての業種・組織の情報作成者の方に向けて、推奨されている情報開示を実施するための背景と検討事項について詳細にまとめていきます。
TCFD全体の概要・開示の義務化・コンソーシアムについては、こちらの記事もご参照ください。
⇒TCFDとは?気候関連財務情報開示タスクフォースの概要・TCFDに関する世界的な取組について解説
⇒プライム市場におけるTCFDの開示の義務化|コーポレートガバナンス・コードの改訂を背景にした情報開示の今後の見通しも解説
⇒TCFDコンソーシアム|組織構成と設立背景・活動指針・活動内容について丁寧に解説
⇒TCFD賛同企業|TCFDコンソーシアム企業の具体的な取り組み事例も紹介
目次
TCFDの主要な開示要件
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、企業が開示すべき気候変動に関する情報を、以下の4つのカテゴリーに分類しています。それぞれの項目に関して、2017年に取りまとめられたTCFDの最終報告書における推奨される開示内容について触れていきます。
TCFDの開示内容の具体例については、こちらの記事もご参照ください。
⇒TCFDの開示内容の具体例|金融機関が発行するTCFDレポートを中心に解説
ガバナンス | 戦略 | リスク管理 | 指標と目標 |
---|---|---|---|
気候関連のリスクと機会に係る当該組織のガバナンスを開示 | 気候関連のリスクと機会がもたらす当該組織の事業・戦略・財務計画への現在及び潜在的な影響を開示 | 気候関連リスクについて、当該組織がどのように識別・評価及び管理しているかについて開示 | 気候関連のリスクと機会を評価及び管理する際に用いる指標と目標について開示 |
推奨される開示内容 | 推奨される開示内容 | 推奨される開示内容 | 推奨される開示内容 |
---|---|---|---|
a) 気候関連のリスクと機会についての、当該組織による監視体制の説明 | a) 当該組織が識別した、短期・中期・長期の気候関連のリスクと機会の説明 | a) 当該組織が気候関連リスクを識別及び評価するプロセスの説明 | a) 当該組織が、自らの戦略とリスク管理プロセスに即して、気候関連のリスクと機会を評価するために用いる指標の開示 |
b) 気候関連のリスクと機会を評価・管理する上での経営陣の役割の説明 | b) 気候関連のリスクと機会が当該組織のビジネス、戦略及び財務計画に及ぼす影響の説明 | b) 当該組織が気候関連リスクを管理するプロセスの説明 | b) スコープ1, スコープ 2及び当該組織に当てはまる場合は、スコープ 3の温室効果ガス(GHG)排出量と関連リスクについて開示 |
c) 2℃あるいはそれを下回る将来の異なる気候シナリオを考慮し、当該組織の戦略のレジリエンスの説明 | c) 当該組織が気候関連リスクを識別・評価及び管理のプロセスが、当該組織の総合的リスク管理にどのように統合されているかについての説明 | c) 当該組織が気候関連リスクと機会を管理するために用いる目標及び、目標に対する実績の説明 |
参照:TCFD(2017)「最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言」
ガバナンス
気候関連のリスクと機会に関する組織のガバナンスについて、以下の内容を開示しましょう。
【推奨する開示内容】
・気候関連のリスクと機会についての、組織(取締役会)による監視体制の説明
・気候関連のリスクと機会を評価・管理する上での経営陣の役割の説明
気候関連のリスクと機会についての、組織(取締役会)による監視体制の説明
気候関連事項に関する組織(取締役会)による監督について説明する際に、以下の事項について考察することを検討しましょう。
・取締役会もしくは委員会(監査委員会、リスク委員会、その他委員会)が気候関連事項について報告を受けるプロセス及び頻度 | ||
・取締役会もしくは委員会が次の各項目に関する見直しや指示にあたり、気候関連事項を考慮しているか。 →戦略、主要な行動計画、リスク管理方針、年度予算、事業計画ならびにパフォーマンス目標の設定、実施とパフォーマンスのモニタリング、主要な資本的支出や買収、資産売却 |
||
・取締役会が、気候関連事項に対処するためのゴールと目標に対する進捗状況をどのようにモニタリングし監督しているか |
気候関連のリスクと機会を評価・管理する上での経営陣の役割の説明
気候関連事項の評価と管理に関連する経営陣の役割を説明する際に、以下の情報を含めることを検討しましょう。
・組織(取締役会)が経営陣レベルの職位または委員会に対し気候関連の責務を付与しているかどうか。付与している場合、担当経営陣または委員会が取締役会またはその委員会に報告するかどうか、またその責任には気候関連事項の評価や管理が含まれているかどうか | ||
・関連する組織構造の説明 | ||
・経営陣が気候関連事項について報告を受けるプロセス | ||
・どのように経営陣が特定の職位または各経営委員会を通じて、気候関連事項をモニタリングしているか |
戦略
気候関連のリスクと機会が組織の事業、戦略、財務計画に及ぼす実際の影響と潜在的な影響について、その情報が重要な場合は、以下の内容を開示しましょう。
【推奨する開示内容】
・組織(取締役会)が識別した、短期・中期・長期の気候関連のリスクと機会の説明
・気候関連のリスクと機会が組織(取締役会)のビジネス、戦略及び財務計画に及ぼす影響の説明
・2℃あるいはそれを下回る将来の異なる気候シナリオを考慮し、組織(取締役会)の戦略のレジリエンスの説明
組織(取締役会)が識別した、短期・中期・長期の気候関連のリスクと機会の説明
基本的に、戦略に関しては以下の情報を提供しましょう。また、セクター・地域別にリスクと機会の内容を適宜提供することを検討しましょう。
・組織(取締役会)の資産またはインフラストラクチャーの耐用年数と気候関連事項は往々にして中長期にわたり顕在化するという事実を考慮して、適切と思われる短期・中期・長期の時間的範囲の説明 | ||
・時間的範囲(短期・中期・長期)ごとに、組織(取締役会)に重要な財務への影響を与える可能性のある具体的な気候関連事項の説明 | ||
・どのリスクと機会が組織(取締役会)に重要な財務への影響を与える可能性があるかを判断するプロセスの説明 |
気候関連のリスクと機会が組織(取締役会)のビジネス、戦略及び財務計画に及ぼす影響の説明
特定した気候関連事項がその事業や戦略および財務計画にどのように影響しているかについて考え、また、事業、戦略および財務計画に関する以下の分野への影響も検討しましょう。
・製品とサービス
・サプライチェーンおよび/またはバリューチェーン
・適応と緩和活動
・研究開発関連投資
・事業運営(事業の種類や施設の所在地を含む)
・買収または売却
・資本へのアクセス
また、気候関連事項がどのようにして財務計画策定プロセスに取り込まれるか、想定した期間、および気候関連のリスクと機会の優先順位をどのように決めるのかを説明しましょう。
開示は、経時的な価値創造能力に影響を与える要素の総合関係の全体像を反映すべきであり、気候関連事項が自らの財務パフォーマンス (収益、費用)や財務ポジション(資産、負債)に与える影響を説明すべきです。
組織の事業戦略や財務計画を開示するために気候関連のシナリオを使用する場合、当該シナリオについても説明しましょう。
2℃あるいはそれを下回る将来の異なる気候シナリオを考慮し、組織(取締役会)の戦略のレジリエンスの説明
2℃以下のシナリオに合致した低炭素経済への移行、およびその組織が該当する場合は、物理的気候関連リスクの増加と整合したシナリオを考慮した上で、気候関連のリスクと機会に対する自らの戦略にどの程度レジリエンスがあるかを説明します。
これらを踏まえて、以下の事項を検討しましょう。
・自らの戦略がどのように気候関連のリスクと機会の影響を受ける可能性があるか | ||
・そのような潜在的なリスクと機会に対処するために戦略をどのように変更する可能性があるか | ||
・気候関連事項が財務パフォーマンス(収益、費用)や財務ポジション(資産、負債)に及ぼす潜在的な影響 | ||
・検討に際し考慮された気候関連のシナリオと時間的範囲 |
TCFDのシナリオ分析については、こちらの記事もご参照ください。
⇒TCFDのシナリオ分析とは?分析の手順・分析の上で理解すべきポイントを解説
リスク管理
組織(取締役会)がどのように気候関連リスクを特定し、評価し、管理するのかを開示しましょう。
【推奨する開示内容】
・組織(取締役会)が気候関連リスクを識別及び評価するプロセスの説明
・組織(取締役会)が気候関連リスクを管理するプロセスの説明
・組織(取締役会)が気候関連リスクを識別・評価及び管理のプロセスが、当該組織の総合的リスク管理にどのように統合されているかについての説明
組織(取締役会)が気候関連リスクを識別及び評価するプロセスの説明
気候関連リスクを特定し、評価するためのリスク管理の過程(プロセス)を説明すべきです。
また、気候変動に関連する現行および新規の規制要件(排出制限)ならびに他の考慮された要因に配慮するかどうかを説明すべきです。
これらを踏まえて、以下の開示も検討しましょう。
・特定した気候関連リスクの潜在的な規模と範囲を評価するプロセス | ||
・使用したリスク用語の定義、または用いた既存のリスク分類枠組の明示 |
組織(取締役会)が気候関連リスクを管理するプロセスの説明
気候関連のリスクを軽減・移転・受入、または制御する意思決定をどのように行うかなど、気候関連リスクを管理するプロセスを説明しましょう。
さらに、重要性の意思決定を組織内でどのように行っているかなど、気候関連リスクに優先順位を付けるプロセスについても説明すべきです。
組織(取締役会)が気候関連リスクを識別・評価及び管理のプロセスが、当該組織の総合的リスク管理にどのように統合されているかについての説明
気候関連リスクを特定し、評価し、管理するプロセスが、組織の全体的なリスク管理にどのように統合されているかを説明しましょう。
指標と目標
情報が重要な場合、気候関連のリスクと機会を評価し、管理するために使用される指標と目標を開示します。
【推奨する開示内容】
・組織(取締役会)が、自らの戦略とリスク管理プロセスに即して、気候関連のリスクと機会を評価するために用いる指標の開示
・スコープ1, スコープ 2及び組織(取締役会)に当てはまる場合は、スコープ 3の温室効果ガス(GHG)排出量と関連リスクについて開示
・組織(取締役会)が気候関連リスクと機会を管理するために用いる目標及び、目標に対する実績の説明
組織(取締役会)が、自らの戦略とリスク管理プロセスに即して、気候関連のリスクと機会を評価するために用いる指標の開示
気候関連のリスクと機会を測定し管理するために用いられる主要な指標、産業横断的な気候関連指標カテゴリと整合的な指標を提供しましょう。
また、水、エネルギー、土地利用、廃棄物管理に関する気候関連リスクの指標も、関連性と必要に応じ、記載することを検討すべきです。
気候関連事項が重要な場合、組織は、関連するパフォーマンス指標が、報酬規定に組み込まれているかどうか、それがどのように反映されているか記述することを検討しましょう。
該当する場合、組織(取締役会)は、低炭素経済向けに設計された製品やサービスからの収益など、気候関連の機会の指標とともに、組織で用いているインターナル・カーボンプライスを提供する必要があります。
スコープ1, スコープ 2及び組織(取締役会)に当てはまる場合は、スコープ 3の温室効果ガス(GHG)排出量と関連リスクについて開示
重要性評価とは関係なく、スコープ 1・スコープ2の温室効果ガス(GHG)排出量とスコープ 3 の温室効果ガス(GHG)排出量とそれに関連するリスクを説明すべきです。
(※スコープ3は要件に該当する場合)
温室効果ガス(GHG)排出量は、組織や法的管轄区域を超えて集計と比較ができるようにするため、温室効果ガス(GHG)プロトコルの方法論に沿って計算しましょう。
また、一般的に普及している産業別温室効果ガス(GHG)効率比の提供も検討すべきです。
温室効果ガス(GHG)排出量および関連する指標は、トレンド分析を行えるように、過去の一定期間のものを提供すべきです。それが明白でない場合、組織は、指標を算出または推定するために使用した方法論の説明も提供しましょう。
組織(取締役会)が気候関連リスクと機会を管理するために用いる目標及び、目標に対する実績の説明
予想される規制要件・市場の制約・その他の目標に沿って、温室効果ガス(GHG) 排出量、水使用量、エネルギー使用量などの気候関連の主要目標を説明しましょう。
・目標が絶対量ベースであるか強度(原単位)ベースであるか | ||
・目標が適用される時間軸 | ||
・進捗状況を測定する際の基準年 | ||
・目標の進捗状況を評価するのに使用している重要なパフォーマンス指標 |
また、その他の目標には以下のものがあります。
・効率性
・財務目標
・財務損失の許容範囲
・製品ライフサイクルを通じて回避された温室効果ガス(GHG) 排出量
・低炭素経済向けに設計された製品やサービスからの正味の収益目標
TCFDの賛同・開示が企業にもたらすメリット
TCFDの提言に賛同し、情報を開示することによって得られるメリットは以下4点です。
・SDGs目標13に沿った環境経営ができる
・自社への投資拡大につながる
・気候関連リスクを把握できる
・企業価値が向上する
以下に手順順に解説していきます。
SDGs目標13に沿った環境経営ができる
SDGs目標13は、「気候変動から地球を守るために、今すぐ行動を起こそう」を指しています。
TCFD提言に賛同し、情報開示をおこなうことは、この気候変動から地球を保護するための行動として評価され目標達成につながります。
自社への投資拡大につながる
TCFDの目標が「企業の気候変動対策への取り組みを見える化することで、投資を呼び込み、環境と経済成長の両立を図ること」にあるため、TCFDへの賛同・開示は自社への投資拡大につながります。
気候関連リスクを把握できる
自社の経営リスクを洗い出すことができ、その中で気候関連のリスクを把握することができます。
ここでの気候関連リスクを、TCFDでは「移行リスク」「物理的リスク」の2つに分けています。
戦略 | リスク管理 | |
---|---|---|
定義 | 低炭素社会への移行に関するリスク | 気候変動による物理的変化に関するリスク |
種類 | ・政策・法規制リスク ・技術リスク ・市場リスク ・評判リスク |
・サイクロン・洪水のような異常気象の深刻化・増加のような急性リスク ・降雨や気象パターンの変化、平均気温の上昇、海面上昇のような慢性リスク |
企業価値が向上する
経営リスクの把握とともに、ビジネスチャンスの拡大や資金調達の拡大、評価機関の格付けアップなど企業価値の向上を図ることができます。
効果的なTCFDによる開示の原則
同じく、気候関連財務情報開示タスクフォースの提言の中で触れられている効果的な開示のための原則についてまとめたものについて紹介していきます。
効果的な開示のための原則
1 | 開示は関連のある情報を提示すべきである | |
2 | 開示は具体的かつ完全でなければならない | |
3 | 開示は明瞭で、バランスがとれ、理解可能であるべきである | |
4 | 開示は経年で一貫しているべきである | |
5 | 開示は、セクター・産業界・ポートフォリオ内の組織間で比較可能であるべきである | |
6 | 開示は信頼性が高く、検証可能で、客観的であるべきである | |
7 | 開示はタイムリーに提供されるべきである |
出典:TCFD「気候関連財務情報開示タスクフォースの提言 最終報告書(サステナビリティ日本フォーラム私訳 第2版)」(2017年6月)より国土交通省作成
まとめ
いかがでしたでしょうか。
本記事では、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に関わる全ての業種・組織の情報作成者の方に向けて、推奨されている情報開示を実施するための背景と検討事項について解説してきました。
ESG、SDGsなど環境や持続可能な開発目標と投資や金融に関連する部署・担当者に新しく任命された方の理解の一助になれば幸いです。
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コーポレートガバナンスコード・TCFDを外部コンサルタントに依頼するメリットについては、こちらの記事もご参照ください。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。