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公募増資とは?公募増資の種類とメリット・デメリットを解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
『資金調達の手引き』
調達ノウハウを徹底解説
資金調達を進めたい経営者の方の
よくある疑問を解決します!
企業の成長のために欠かせないことの一つに、「資金調達」があります。
企業買収や合併、大規模な設備投資などには多額のお金が必要です。
増資による資金調達は株価に大きく影響を及ぼします。そのため、慎重に行うことが求められており、既存株主の信頼を失う危険を避けなければなりません。
そこで本記事では、公募増資の種類や公募増資が与える影響を解説していきます。また、公募増資を行うことのメリットやデメリットもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
増資とは
企業が資金調達を行う場合、大きく分けて「自己資本」による調達と「他人資本」による調達があります。
自己資本による調達は、既存株主や新たに株主となる人から資金を調達する方法であり、株主から資金を払込んでもらい、その対価として株式を発行する「増資」を意味します。
別名「エクイティ・ファイナンス」と呼びます。
一方の他人資本による調達とは、主に金融機関から融資を受けることが該当します。こちらは「デット・ファイナンス」とも呼ばれます。
増資=自己資本による調達は、調達資金の返済が不要であるのに対し、融資=他人資本による調達は、返済が必要です。
増資の最大の特徴は、返済不要の大きな資金を手に入れられる点です。
増資の種類
増資には大きく分けて3つの種類があります。この違いは、株式引受の権利を与える相手によります。
・株主割当増資
・第三者割当増資
・公募増資
株主割当増資
株主割当増資とは、新株の割当てを受ける権利を「既存株主のみ」に与えて行う増資のことです。
株主割当では既存株主に持株数に応じて新株が割り当てられます。
新株の割り当てを受けた株主は、必ず新株を引き受けなければならないというわけではありません。新株を引き受けるには申込を行う必要があり、申込を行わなければ新株の権利を失うことになります。
既存株主の全員が新株を引き受けた場合、企業の株主構成比率に変化はありませんが、特定の株主のみ新株を引き受け資金を払い込んだ場合、その株主の持ち株比率が上がり、株主構成比率が変わります。
第三者割当増資
第三者割当増資とは、自社の役員や従業員、その他第三者に新株を引き受ける権利を与えて行う増資のことです。
第三者割当増資は、安定株主の確保や業務提携などの際に利用されることが多いです。
新たに第三者が新株を引き受けた場合、既存の株主構成比率が変化します。
割当を受けなかった株主は持株比率が低下することから、既存株主の価値を毀損するリスクもあるので、第三者割当増資の実施は慎重に行う必要があります。
公募増資
公募増資とは、不特定多数の投資家が株式を引き受ける増資のことです。
不特定多数の一般人に投資をしてもらうためには、株式市場を通す必要がありますので、公募増資は基本的に上場企業が採り得る増資手段です。
公募増資の目的は主に、企業経営に必要な設備投資などの資金を幅広い分野の投資家から集めることです。
同時に、株主数を増加させることや株式の流通量を増加させることも目的です。
広く一般投資家(Public)から株主を募集(Offering)して増資するため、Public Offeringの頭文字をとって「PO」と呼ばれることもあります。
増資が与える影響
増資を行った場合、発行済株式の総数が増えるため、1株当たりの価値が低下する可能性があります。
一般的に株価は、以下の方式で算定されます。
株価収益率(PER)×1株当たりの利益(EPS)
1株当たりの利益(EPS)は、以下の方式で算定されます。
当期純利益÷発行済株式数
増資を行うと発行済株式の総数が増えるため、上記の計算式の分母の数値が増え、当期純利益が増えない限り、1株当たりの利益(EPS)は自然に低下します。
株価収益率(PER)は、業界の平均や市場平均と比較した水準を用いるため、それほど変動がありません。
先述の通り、株価は、①株価収益率(PER)×②1株当たりの利益(EPS)で計算されますので、①が変動せず②が低下すれば、①×②の値=株価は下がる、という計算ロジックです。
1株当たりの利益が増資により低下し、(株価収益率が変動しない)相対的に株価が低下することを「株式の希薄化」と言います。
しかし、増資をすれば必ず株価が低下するというわけではなく、かえって企業の成長が見込まれると評価される場合、むしろ株価は上がることもあります。
募集事項の決定
公募増資を行う場合、募集事項の決定が必要になります。
公募増資を行う際に必要な募集事項には、以下の項目があります。
・募集株式の数
・募集株式の払込金額または算定方法
・金銭以外の財産を出資の目的とする場合、その旨・その財産の内容・価額
・払込みなどの期日またはその期間
・株式を発行するときは増加する資本金・資本準備金に関する事項
募集事項の決定は、「公開会社」と「非公開会社」によって、その過程や内容も異なります。
公開会社の場合
公開会社とは、譲渡制限されていない株式を発行している株式会社のことです。
1株でも譲渡制限が課されていない株式があれば、残りすべての株式に譲渡制限が課されていたとしても、公開会社に該当します。
株式を上場しなくても、公開会社に該当する場合があります。これは、会社法上の公開会社が必ずしも上場会社を意味しないためです。
ですので、公開会社=上場会社ではない、ということは注意しておきましょう。
公開会社の場合、取締役会決議で募集事項を決定するのが原則ですが、払込金額が第三者にとって特に有利な金額である場合には、株主総会の特別決議で決定することが必要です。
取締役会において募集事項を決定する場合、払込期日または払込み期間の初日の2週間前までに、株主に対し当該募集事項を通知・公告しなければなりません。
しかし、金融商品取引法で規定された届出をしている場合は、通知・公告は不要です。
非公開会社の場合
非公開会社とは、すべての株式に譲渡制限に関する規制がある株式会社のことです。
非公開会社における募集事項の決定は、株主総会の特別決議によって決まります。
しかし、払込みなどの期日または期間の最終日が、決議の日から1年以内の日である募集に関しては、取締役または取締役会に委任することが可能です。
取締役または取締役会に募集事項の決定を委任する場合、株主総会の特別決議が必要です。
そして、株主総会の特別決議で、その委任に基づいて募集事項の決定をすることが可能な募集株式の数の上限、また払込金額の下限を決めなければなりません。
公募増資を行うメリット
公募増資特有のメリットをご紹介します。
公募増資に伴うメリットには、主に以下の3つがあります。
・資金調達がしやすい
・株式の流動性が高まる
・既存の株主への配慮
資金調達がしやすい
公募増資を行うメリットの1つに「資金調達がしやすい」ことがあります。
公募増資は多数の投資家が資金の出し手となるため、特定の投資家に当てる第三者割当増資よりも多額の資金調達が可能です。
公募増資の実施は、証券会社などを通してさまざまな投資家たちを募ることになります。
公募増資によって、これまで自社を知らなかった投資家にも注目してもらえる良い機会となります。
企業の知名度を高めることは、資金調達のしやすさにもつながります。
株式の流動性が高まる
「株式の流動性が高まる」ことも、公募増資の実施に伴う大きなメリットの1つです。
「流動性」とは、市場に出回る株式の多さを表す言葉です。つまり、市場に出回る株式数の増加により、株式の流動性が高まります。
株式の売買が活発になり、その結果、取引きの出来高が大きくなり株価が上昇する可能性があります。
また、流動性が高い株式は、買い手と売り手が容易に見つかり、大きな価格変動なしに株式を売買することが可能です。
株価の安定は、企業経営の安定につながり、投資家の取引リスクを減少させるメリットもあります。
既存の株主への配慮
公募増資のメリットには「既存の株主への配慮」がしやすいということもあります。
増資によって株式を新しく発行することは、既存株主が保有する株式の希釈が課題となる場合があります。
しかし、公募増資の場合、既存株主への最大の配慮が可能です。
公募増資は、(一般的な増資と同じように)その機会は一般の投資家に公開提供されます。
しかし、既存株主に対して優先的な権利、つまり権利行使を提供することも可能です。企業を支援してくれている既存株主を優先することは、企業が既存の株主との関係維持を強化する上で役立ちます。
また、公募増資の際の価格は、通常は時価に近いやや割安な水準に決められており、既存株主の利益を損なわないように配慮されていることが多いです。
公募増資を行うデメリット
いくつかある公募増資のデメリットについてご紹介します。公募増資に伴うデメリットを事前に考慮しておくことは、公募増資を実施していくことで起こり得るトラブルを避けることにもつながるでしょう。
公募増資を行うデメリットは、以下の通りです。
・配当金の支払い増加
・税制優遇の不適用の可能性
・経営権の希薄化と望まない株主の出現
配当金の支払い増加
公募増資により新たに株式が発行されると、企業の利益を配当する配当金の支払いの増加の可能性があります。
同じ利益額であった場合、株主が増えた分だけ利益が分配されることになるため、1株当たりの配当金が減少する恐れがあります。
さらに、発行している株式数が増加しているため、全体として支払う必要のある配当金の総額も増加する可能性があります。
税制優遇の不適用の可能性
公募増資による資金調達では、「税制優遇の不適用の可能性」があります。
企業には様々な税金があり、企業のキャッシュフローに大きな影響を与えます。そのため、経営者であれば、なるべく税金を抑えたいと考えるのが普通でしょう。
そこで、「税制優遇」を使えるかどうかは重要なポイントです。
起こるリスクとして、増資によって資本金が1億円を超えてしまう場合、法人税法上の中小企業という枠から外れてしまいます。
日本では、中小企業に対していくつかの税制優遇措置が設けられているため、それらが使えなくなることはデメリットと言えるでしょう。
経営権の希薄化と望まない株主の出現
公募増資を実施するデメリットには「経営権の希薄化と望まない株主の出現」があります。
公募増資は一般の投資家に向けて行われる資金調達の手法です。一般の投資家の中には、短期的な利益を求めて資金提供する投資家がいる場合があります。
そういう投資家が増えてしまうと、企業の長期的な成長戦略に大きな悪影響を及ぼす可能性があります。
また、企業の経営方針に賛同しない投資家もいます。
そのような投資家が株主になった場合、株主総会で大きな影響を及ぼし、企業の経営に不安定な要素をもたらすことにもなりかねません。
公募増資による資金調達を行った企業の事例
公募増資による資金調達を行った企業の、いくつかの実例をご紹介します。
実例で挙げることが可能な企業は、以下の通りです。
・楽天グループ株式会社
・JFEホールディングス
楽天グループ株式会社
2023年5月16日、楽天グループ株式会社は、公募増資を実施することを取締役会にて議決しました。
国内と海外でそれぞれ株式が公開され、最大で約2940億円の資金調達を目指して実施されました。
楽天が公募増資を実施した目的は、主に3つあります。
1つ目は、第5回無担保社債の償還期限の到来です。
2つ目は、第1回公募劣後特約付社債の償還資金が必要となることです。
そして3つ目は、楽天モバイルへの投融資資金です。
事業運営に関する資金を市場から調達するために公募増資が実施されました。
JFEホールディングス
2023年9月11日、JFEホールディングスは、海外投資家向けの公募増資の新株発行価格を2172円50銭に決定したことを発表しました。
新株予約権付社債(CB)を含めた調達資金は約2040億円、この増資で外国持ち株比率が3割を超えた計算です。
JFEホールディングスの公募増資実施の目的は、
・倉敷地区での電磁鋼板の生産能力の増強
・温暖化ガス排出の少ない電気炉の導入などの脱炭素関連投資
などです。
JFEホールディングスは、普通株式2500万株を新たに発行し、3000万株の公募による自己株式を処分。CBは5年債で、発行額は900億円ほどです。
まとめ
公募増資の種類や公募増資が与える影響、また公募増資を行うことのメリットやデメリットについてご紹介してきました。
公募増資は株式を株式市場よりも割引価格で購入できます。
また、企業は公募増資などで調達した資金で新たな事業や既存事業の拡大などに取り組むことができ、将来的な株価上昇にもつながります。
しかし、公募増資実施は、必ず株価上昇につながるとは言えません。短期的に下落しやすいなどのデメリットにも注意する必要があります。
公募増資に興味のある企業の方は、事前に公募増資に伴うメリットやデメリットを良く把握することをおすすめします。
事前に把握しておくことで、慎重に、またスムーズに公募増資を実施していくことができるでしょう。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。