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ミッショングレード制とは?他の制度との関係・制度の導入に必要な役割定義書の作成方法まで詳しく解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
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今までは就業年数の長さで等級が上がり、労働時間が長い人が評価される企業がありましたが近年、多くの企業で働き方を見直す傾向も強く、従業員を仕事の成果で評価したり、業務における役割で評価されて従業員の賃金が決まるなどが見受けられます。
その中でも、従業員に任せる仕事の役割によって等級を決める「ミッショングレード制」と呼ばれる制度が注目を浴びています。ミッショングレード制は、年齢に関係なく役割を割り振るもので、年功序列の傾向は弱いとされており、実力主義の傾向が強いスタートアップやベンチャー企業でよく採用される制度です。
本記事では、ミッショングレード制についてメリット・デメリットを中心に実際の導入方法などを解説していきます。
改めて評価制度について学び直してから評価項目の見直しを検討したい方は、以下の記事で詳しく解説しておりますのでこちらをご覧ください。
⇒評価制度とは?評価制度の目的・種類・制度の導入時に考えるべきポイントを解説
⇒人事評価とは?人事評価の目的・導入方法・注意点について解説
⇒人事評価シートの記載方法|人事評価シートの目的と職種別評価項目を徹底解説
⇒人事評価制度の作り方|評価を作る際の注意点や成功例についても解説
⇒人事評価の際の目標設定とは?目標設定のメリット・SMARTの法則を解説
⇒人事評価コンサルタント|メリット・デメリット・選ぶ際のポイントについて解説
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⇒人事評価制度のメリット・デメリット|デメリットの解決策・人事評価制度の失敗例についても解説
⇒人事評価の成功事例10選!人事評価項目の種類・人事評価制度の成功事例を幅広くご紹介!
目次
ミッショングレード制とは?
ミッショングレード制とは、社員一人ひとりに与えられた役割(ミッション)に応じて等級(グレード)を付け、そのパフォーマンスを評価する制度です。日本で過去に確立されていた職能資格制度と職務等級制度を統合したもので、まだ確立されて間もない新しい等級制度です。
ミッショングレード制は客観的な評価が可能で、企業理念に沿った役割分担ができるため、日本の企業文化に合った制度とされています。
役割等級制度については次の記事もご参照ください。
⇒役割等級制度とは?制度の特徴とメリット・デメリット・導入の流れと事例を解説
賃金の決め方
ミッショングレード制は、役割の難易度とそれに対応する成果に応じて賃金を決定する制度です。社員一人ひとりの能力と担当する役割の組み合わせが適切であれば、能力、役割、成果をバランスよく評価することができ、適正な賃金を実現しやすいと言えるでしょう。
昇格と昇給の考え方
ミッショングレード制は、職務上の役割の価値が高まれば、社員は昇進・昇給する制度です。社員が昇進するためには、与えられた役割を果たす必要があり、企業は社員の能力に見合った役割を与えなければなりません。
ミッショングレード制度では、昇格・昇級は人事異動時に行われるのが一般的です。人事異動以外では、役割の価値が高くなり、より高度な役割になった場合に、同じ職務で昇級することがあります。
降格と降級の考え方
ミッショングレード制では、職務上の役割の価値が低くなった場合に、降格や等級を下げることがあります。昇格や昇級と同様に、人事異動のタイミングで行われることが多いです。人事異動のタイミング以外にも、あるプロジェクトが終了し、被評価者がリーダー的な役割でなくなった場合に降格させるケースもあります。
ミッショングレード制が現れた背景
等級制度には、他に「アビリティグレード制(職能等級制度)」と「ジョブグレード制(職務等級制度)」の2種類があります。
アビリティグレード制(職能等級制度)
成績が「人」で決まる制度です。給与は職種に関係なく、その人の能力に応じて決定されます。ここでいう能力とは、長い時間をかけて蓄積された業務遂行能力のことであり、経験が非常に重視される傾向にあります。
かつて、多くの日本企業で採用されたこの制度は、年功序列・長幼の序の要素が強いため、年々賃金が上昇する傾向にあり、安定感があるといえるでしょう。また、幅広い知識を持ち、組織とのつながりを持つ「ゼネラリスト」の育成にも適した制度といえます。
ジョブグレード制(職務等級制度)
「仕事」の単位で等級を決定する制度です。アメリカでは一般的な制度で、年齢や経験に関係なく、その仕事をする人は「スペシャリスト」としての給与が設定されます。この制度のメリットは、仕事の内容に応じた給与が明確に示されることです。
一方、日本企業では、仕事の内容を超えて社員同士が助け合うことが多いため、欧米企業に比べて仕事の線引きを明確にすることが難しいというデメリットがあります。そのため、ジョブグレード制(職務等級制度)とアビリティグレード制(職能等級制度)の良いところを組み合わせた「ミッショングレード制(役割等級制度)」が導入されました。
役割等級は、年齢や経験に影響されないように、会社の目標や目的に対する個人の役割や貢献度に基づいて割り当てられます。「人」や「仕事」に偏ることなく、役割の大きさによって決まる中立的な制度です。
その結果、ジョブグレード制は、従業員のモチベーションを高めるための柔軟性と報酬のインセンティブがあることを背景に、現代企業の間で人気が高まっています。
ミッショングレード制のメリット
企業がミッショングレード制を導入するメリットは次の4点です。
・個々の職務内容について具体的に提示
・従業員の主体性の醸成
・一人ひとりに適切な給料を支払うことが可能
・会社内での連携の促進
個々の職務内容について具体的に提示
ミッショングレード制の利点のひとつは、個々の職務の内容を詳細に説明できることです。ミッショングレード制では、給与テーブルの項目で、会社の目標を達成するために各従業員が何をすることが期待されているかを設定します。
これには、標準化・細分化された業務だけでなく、マネジメントなど役職によって期待されることが異なる非定型の業務も含めることができます。つまり、目標が客観的かつ明確に設定されることで、社員が仕事をしやすくなるというメリットがあるのです。
従業員の主体性の醸成
ミッショングレード制におけるもう1つのメリットは、社員の主体性が育つことです。会社の達成目標が給与表に具体的に示されていることは、社員が会社から何を期待されているかを明確に認識できることを意味します。
このように会社の目標を理解することで、社員はより効率的に仕事をこなすことができ、その結果、自主的に仕事をするようになるのです。また、自分の目標を持って仕事をすることで、社員のモチベーションが上がるというメリットもあります。
一人ひとりに適切な給料を支払うことが可能
また、ミッショングレード制の利点は、適切な給与を支払うことができることです。給与テーブルが明示されているため、それに基づいて社員のパフォーマンスをかなり厳密に評価することができます。
そのため、成果に応じて適切な給与を支払うことができ、スタッフのモチベーション向上や生産性向上につながります。また、年功序列型が長期間同じ給与テーブルを維持するのに対し、ミッショングレード制は目標に応じてタイムリーに給与テーブルを変更します。
これにより、組織は固定的なテーブルにとらわれることなく、組織が活動するビジネス環境の変化に対応し、柔軟に対応することが可能になります。つまり、人件費の無駄も省くことができるのです。
会社内での連携の促進
ミッショングレード制の利点として、社内で社員が協力し合いやすくなることも挙げられます。ミッショングレード制では、社員一人ひとりに異なる役割があり、それが給与テーブルに明確に反映され、目標や課題を社内で自由に共有することができます。
つまり、社員一人ひとりが他の社員と協力し合うことで、より効率的に仕事を進めることができるのです。
ミッショングレード制のデメリット
企業がミッショングレード制を導入するデメリットは次の4点です。
・従業員の不満の蓄積
・制度の運用の難しさ
・評価の基準が統一されない可能性
・想像し得ない降格の発生
従業員の不満の蓄積
デメリットとしては、ミッショングレード制に不満を持つ人が一定数いることが挙げられます。具体的には、長年勤めている年配の社員がそれにあたります。この制度の性質上、給与は職務内容の評価で決まるので、どの社員にも給与が下がる可能性があります。
年功序列で昇進を続けてきた社員が、この制度に不満を持つのは当然です。長年勤続し、年功序列が当たり前になっている社員にも配慮した制度にしなければなりません。
制度の運用の難しさ
また、ミッショングレード制のデメリットとして、運用が難しいということが挙げられます。この制度における給与テーブルの評価基準には公的な基準がなく、企業の裁量に委ねられています。
会社が求める理想に沿った独自の基準を設定し、さらにその基準が全社員に受け入れられるものでなければなりません。そのためには、評価基準作成のノウハウがある程度蓄積されている必要があり、新たにこの制度を導入する企業にとっては、運用が難しいといえるでしょう。
評価の基準が統一されない可能性
ミッショングレード制は、評価基準が曖昧になるリスクを抱えています。前述したように、職務等級制度に比べて評価基準が抽象的であるため、従業員が具体的な業務内容を見失う可能性があります。
また、評価する側も、抽象的な基準で従業員の仕事を評価することになり、手間と時間、目標の理解が必要になります。また、評価基準が同じでも、社員によって仕事への取り組み方が異なるため、社員一人ひとりの個性や成果を評価することが難しくなります。
評価基準については、次の記事もご参照ください。
⇒人事制度における評価基準の作り方とは?評価基準の種類・目的・必要性・注意点について解説
想像し得ない降格の発生
ミッショングレード制では、意図しない降格のリスクがあります。この制度では、役割によって等級が決まるため、配置転換や組織変更があった場合、本人の能力に関係なく役割や業務が変わってしまう可能性があります。
これは、等級が下がることで、社員のモチベーションが低下するリスクもあることを意味します。そのため、社員のモチベーションを維持するためには、等級の引き下げを防ぐ仕組みづくりが不可欠です。
ミッショングレード制を導入する方法
企業がミッショングレード制を導入する方法についてステップごとに解説していきます。
1. 方向性の策定
2. 役割定義書の作成
役職の区分け・等級の設定
評価基準の制定
報酬の決定
3. 従業員に理解してもらう
1. 方向性の策定
まず、役割等級の位置づけや評価・報酬への反映など、制度の大枠を設計します。 大枠が設計されていないと、細かい判断をする際に、評価や報酬との連動が整合しません。
一方、大枠を丁寧に設計することで、制度そのものをスムーズに設計することができます。
2. 役割定義書の作成
ミッショングレード制の第一歩は、役割定義書を作成することです。このとき、役割の境界が重なったり、役割の内容が曖昧になったりして、システムが機能不全に陥ることを防ぐ必要があります。
そのためには、具体的で明確な役割定義を作成することが必要です。運用面でも理解しやすい定義を作成することで、マネージャーとメンバー間のコミュニケーションがスムーズに行われ、業務が滞りなく進むことになります。
役職の区分け・等級の設定
次に、役割等級の数を決定します。一般的な等級数は、管理職が2~3等級、一般社員が3~6等級です。等級が多すぎると、等級間の違いが曖昧でわかりにくくなります。
逆に、等級が少なすぎると、等級の幅が広くなりすぎて、同じ等級の中に異なるレベルの役割が存在することになります。
評価基準の制定
定義された役割に基づき、各役割における評価項目とその基準を設定する必要があります。これも役割の定義と同様に、具体的かつ客観的に設定する必要があるでしょう。評価が明確でない場合、評価に対する不満が生じ、業務遂行能力の低下やモチベーションの低下につながるおそれがあります。
適切な設定により、評価への満足感や役割の有効性が高まり、生産性の向上につながります。評価プロセスを完了するために捧げられる時間の長さを考慮し、基準が完全で、測定可能で、わかりやすいものであることを確認することが重要です。
また、職務内容や評価基準について、時間の経過とともに変更が必要になる可能性があることを考慮し、そのための計画を立てておくことも大切といえるでしょう。さらに、役割定義書と評価基準のみを用いて、職務内容と満足度をどのように従業員に伝えるかが重要です。
報酬の決定
ミッショングレード制度では、従業員一人ひとりの役割に応じて賃金が決定されます。これにより、人件費全体のコストを削減し、従業員は成果に見合った給与や福利厚生を受けることができるようになります。
また、従来の成果主義的な給与体系にあった主観的な要素を排除し、従業員の向上心を刺激する仕組みとなっています。
3. 従業員に理解してもらう
制度を作ったら、最後は社員の理解を得ることです。前述のように、制度全体を客観的・具体的にすることを心がけますが、最後は社員から直接理解を得て実施しましょう。具体的には、制度に慣れるための説明会の開催や、評価を行う管理職との研修による制度の浸透を図ります。
説明会や研修では、制度の目的やメリット、これまでの変更点、評価プロセスの詳細など、包括的な内容を説明することが大切です。さらに、従業員が質問をしたり、懸念事項を解決したりする機会も提供する必要があります。
このようなコミュニケーションは、改訂された制度への移行を支援し、すべての従業員が自分の仕事にどのような影響があるのかを明確に理解することを保証するものでなければなりません。適切な方法で従業員に理解を広めることで、制度改正への納得感が高まり、現場でのスムーズな運用が期待できます。
まとめ
ミッショングレード制は、モチベーションの向上、業務効率の向上など、年功序列や他の制度にはない多くのメリットを備えています。また、会社を活性化させ、会社の発展に大きく貢献する要素でもあります。
さらに、運用ノウハウの蓄積に苦労する面もありますが、この制度をサポートするコンサルティング会社も多く存在します。このことから、思い切ってミッショングレード制に移行することで、会社を停滞から守り、創造性や自発性を高めることができるでしょう。
本記事が、ベンチャー・スタートアップ企業の経営者・人事担当者の方のご参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。