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MBO(目標管理制度)とは?具体例と作成時のポイント・OKRとの違いについて解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
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少人数だったスタートアップ企業・ベンチャー企業が大きくなると経営者やマネージャーは組織を機能的なものにしていくために管理していくことが重要です。
従業員が増えてくると生産性やモチベーションの低下や漠然と業務に取り組んでいたりと目に見えない問題が発生してきます。
そこで本記事では、組織の従業員の主体性やモチベーションを高め、人材管理を強化することができるMBO(目標管理制度)について解説していきます。
目次
MBO(目標管理制度)とは
MBO(目標管理制度)とは、個人・各グループで設定した目標の達成度で評価を決める制度のことです。この概念は、1954年にピーター・F・ドラッガーが著作『現代の経営』の中で提唱されました。
MBOを利用して従業員それぞれが目標を管理することで、従業員の主体性や自主性が育まれ、モチベーションが向上することも望めます。
従業員は目標達成のプロセスが可視化されることで、業務の振り返りが簡単になり、上長はフィードバックをしやすくなるといった組織的なメリットもあります。
MBO面談・導入事例については、こちらの記事もご参照ください。
⇒MBO面談とは?面談の手順・注意すべき点・失敗例について解説
⇒MBOの導入事例|運用のポイントや成功事例・失敗事例について解説
目標設定の目的
MBOにおける目標設定の目的は、目標達成のプロセスを可視化することにあります。仕事を頑張ることも大切ですが、がむしゃらに取り組んだり、ルーティンワークを消化するよりも目標を定めることで様々な副次的な効果が見込めます。
目標設定をすることで従業員個人と組織である企業との方向性を合わせることが可能となり、個人の目標と組織の目標がリンクすることで、上長から一方通行の業務指示・業務命令を下されてこなすだけの状況から従業員が自分で考えて、主体的に業務に取り組んでいく環境を自然と生み出すことができます。
ただし、ここで注意が必要なこととして目標管理制度を導入するだけで従業員が主体的に動くようになるとは限らないことを忘れてはなりません。適切な目標設定と管理のための体制と運用環境を構築することが重要です。
レベルの高い目標を掲げた従業員が主体的に動き、目標達成のために様々な工夫や挑戦をし、それが周りの従業員にも良い影響を与え、チームや事業部単位にまで影響が及ぶことで組織全体のモチベーションの向上や生産性の向上、最終的に良い業績にまで結びついていくでしょう。
目標設定シートの効果
目標管理制度を運用していくために、目標設定シートを作成することでプロセスを可視化することができます。この目標設定シートには、次のような効果が期待できます。
・目標設定までの手順の整理
・適切な目標の管理
・管理者の指導への効果
それぞれについて説明していきます。
目標設定シートについては、こちらの記事もご参照ください。
⇒MBOシートの効果的な書き方:MBOシートに記載する項目と職種ごとの目標設定を解説!
目標設定までの手順の整理
目標管理制度を導入したばかりの頃は、目標を立てることが目的になってしまい、それで終わってしまう方もいるかもしれません。しかし、それでは意味がありません。
目標達成までの納得のいく道筋を立てて、それに合わせた行動をとるべきです。目標を立てて終わりにしないためにも、目標設定シートを利用し、頭の中にある目標を言語化し、さらにプロセスや目標の期限を具体的に文字にすることで、自分がやるべきことをわかりやすく整理することができます。
適切な目標の管理
紙や社内のホワイトボードを使って目標を管理することも良いですが、組織が大きくなるとアナログな管理が難しくなる場合もあるでしょう。マネージャー1人に対して数人の部下だと問題ないかもしれませんが、人数が増えることで負担も増えます。
また、目標管理制度と人事評価制度を紐付けている企業も多いので、目標管理制度が整っていないと適切な人事評価をすることが難しいと思われます。
したがって、SaaSなどのシステムやフォーマットが統一された目標設定シートを利用することでマネージャーは従業員全員の目標を把握し、適切な管理をすることができるでしょう。
マネージャーの指導への効果
マネージャーの業務の中に、部下の目標を管理と達成までの支援があります。この業務をスムーズに行うために、目標設定シートを利用して業務を構造化し、小目標・中目標・大目標と体系的に目標と期限を定めていくことでマネージャーは部下を管理しやすくなります。
マネージャーは目標設定シートをもとに部下の業務内容を振り返ることで、効果的なフィードバックを与えることができます。部下への効果的なフィードバックによる職能の向上とマネージャーのマネジメント力の向上が組織、企業全体に成長をもたらします。
MBO(目標管理制度)のメリット
企業にMBO(目標管理制度)を導入するメリットとして、次のような点があります。
・従業員の主体性の向上
・従業員のモチベーションの向上
・企業の目標達成を実現可能に
それぞれについて説明していきます。
従業員の主体性の向上
企業にとっても経営者やマネージャーにとっても従業員や部下が主体性を持って業務、仕事に取り組むようになることは大きなメリットでしょう。
MBOは、従業員自身が目標を設定し、その目標を達成するために自分で考えて、主体的に行動をすることが期待できます。従業員の主体性が高まることで、組織内で新しいアイディアや意見が出やすくなったり、自発的・積極的な動きが促されるようになるでしょう。
従業員のモチベーションの向上
自分で立てた目標を達成するMBOでは、多くの従業員が仕事の中で価値を発揮したいという動機が強くなるとピーター・F・ドラッカーは『現代の経営』の中で述べています。
何も考えずに上司に言われたことだけをこなす受動的な従業員は、主体性も自主性もなくモチベーションは高まりません。
従業員1人1人が自分で目標を設定することで、上司から「仕事をやらされている」のではなく、自らが主体的に業務に取り組み、目標を達成しようとするモチベーションにつながっていきます。
企業の目標達成を実現可能に
従業員の主体性やモチベーションが高まることで、結果として組織である企業の目標達成につながるという大きなメリットがあります。MBOによって、企業全体の目標を達成するための具体的なアクションプラン(施策)を作り込むことができます。
目標管理をすることで、従業員1人1人の目標から自身とマネージャー、また同じチーム内でも共有され、それぞれの役割が明らかになり、生産性が向上することにつながります。
企業・組織の課題を解決するためにMBOを利用する時、従業員が企業や事業部など部署のチームの目標を視野に入れて自身の目標を設定することが極めて重要です。
それによって、各従業員と組織の目標が共有され、組織全体の目標達成に向けて個人との方向性が合致していきます。最終的に、組織・企業全体の目標達成を実現可能なものにしていきます。
MBO(目標管理制度)の基本項目
MBO(目標管理制度)の基本項目には、次のようなものがあります。
項目 | 内容 |
---|---|
基本情報 | ・氏名 ・所属部署 ・役職 ・勤続年数 |
業務目標 | ・1年間に3つ程度の業務目標を設定 ・数値を使った具体的な業務目標にする ・目標ごとに達成時期を定める |
アクション | ・業務目標に応じた具体的なアクションを定める ・数値目標に対して、いつまでにどのような目標を達成するかを決める ・段階的に進める業務目標の場合は、時期ごとにアクションを決める |
振り返り | ・中間報告の振り返りを行う ・日々の業務における改善点を見出す ・最終的な目標達成について数値や時期について厳しく振り返りも行う |
フィードバック | ・フィードバックは成長するためのヒント ・人材育成のための上司と部下のコミュニケーション ・最終目標に向けて中間報告時点で適切なフィードバックを求める |
MBO(目標管理制度)作成時のポイント
MBO(目標管理制度)作成時のポイントとして、ランクアップ法とSMARTの法則と呼ばれるものがあります。
ランクアップ法
目標設定を作成する型の1つとして「ランクアップ法」があります。ランクアップ法では、次の6つのポイントから目標を立てていきます。
改善 | 現状の課題、弱点やマイナス部分を改善する |
代行 | 上司などスキルが高い人物の仕事を代行できるようにする |
研究 | ある特定のテーマについて研究する |
多能化 | 現在持っていない他分野および新しいスキル・ノウハウを身につける |
ノウハウの普及 | 自身のスキルや知識をノウハウとしてまとめて、普及させる |
プロ化 | スキル・ノウハウを専門分野のプロレベルまで高める |
これら6つの項目を念頭において、目標を設定することで質の高い、専門的な目標を設定することが可能になります。
SMARTの法則
目標設定のメジャーな型としてSMARTの法則があります。SMARTの法則では、次の5つのポイントから目標設定をしていきます。
S(Specific) | 具体的 |
M(Measurable) | 測定可能 |
A(Achievable) | 達成可能 |
R(Related / Relevant) R(Realistic) |
関連性(経営目標との) 現実的 |
T(Time-bound) | 時間制約 |
SMARTの法則の中の「R」は「Ralated」と「Realistic」と2つのパターンがありますが、「経営目標との関連性」と「現実的」という項目に大きな違いはないと思われます。
これら5つの項目を意識して目標設定することで、誰が見ても明らかな目標を定めることが可能となり、目標の達成度を測ることができます。
MBO(目標管理制度)とOKRの違い
MBO(目標管理制度)とOKR(目標と主要な結果)の違いについて、目的・評価の頻度・目標の共有・目標達成の水準・目標の特徴の違いについて比較していきます。
MBO | OKR | |
---|---|---|
目的 | ・業績評価 ・報酬の決定 ・人材管理の強化 |
・企業全体の意思の統一 ・組織力の強化 ・生産性の向上 |
評価の頻度 | 1年 | 1〜3ヶ月 |
目標の共有 | 本人・上司(限定された個人) | 部署・部門(組織・チーム) |
目標達成の水準 | 100% | 60~70% |
目標の特徴 | 定量・定性の定めのない目標 | 定量・定性を組み合わせた目標 |
MBO(目標管理制度)とOKR(目標と主要な結果)の違いについては、こちらの記事もご参照ください。
⇒MBOとOKRの違い|相違点と共通点、フレームワークの選び方について解説
MBO(目標管理制度)作成の例
基本情報 | 氏名 | 伊藤花子(仮名) |
所属 | 営業部 | |
役職 | なし | |
勤続年数 | 4年1ヶ月 | |
業務目標 | 目標1 | 売上高:3300万円(前年比10%増) |
目標2 | 新規顧客獲得数40件(前年比60%増) | |
目標3 | 営業成約率を35%(前年比40%増) | |
具体的アクション | 目標1 | まずは売上を落とさないために既存の顧客の継続に加えて、新規顧客を拡大していく。そのために現状の新規顧客獲得数25件から増やしていけるような施策を実行していく。 |
目標2 | 新規顧客獲得数40件に向けて、現在の25件に加えて15件を増やすために見込み客とのアポイントを30件増やす。そのために、広告から入ってくる見込み客自体が自社事業と適合しやすいかも加味して、アポイントの属性の質も上げていく。 | |
目標3 | 成功した営業の時のやりとりをもとに、顧客の業種別にした営業トークや成約のためのポイントを言語化し、毎月週1回の営業ロールプレイングを実施する。また、営業先のデータや把握できる範囲のSNSなどをリサーチして、先方の趣味や趣向などを抑え、営業に使えるトークのレパートリーを増やすことを意識する。 | |
振り返り | 年間の売上高の目標として掲げた3300万円を達成して、3571万円となった。また、アポイント数は25件から38件と目標達成には至らなかったが、アポイントから商談の成約率は上昇した。アポイントの数ではなく、質にもこだわったことと商談の成約率を上げるためのリサーチやトークの練習などが最終的に売上高の目標達成に至ったと考えられる。 |
まとめ
いかがでしたでしょうか。
本記事では、人材管理制度を検討しているベンチャー企業・スタートアップ企業の経営者やマネージャーに向けてMBO(目標管理制度)について解説してきました。
適切な目標を設定し、管理することで従業員の主体性やモチベーションを高めることにつながり、企業・組織全体の生産性を向上させていくことに寄与していきます。これから企業の従業員が増える、もしくは、従業員が増えたものの管理のやり方に困っているベンチャー企業・スタートアップ企業のマネージャーや経営者の方の参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。