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【経営者必読】IPOのメリット・デメリットとは?企業・株主・従業員の観点で解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
『資金調達の手引き』
調達ノウハウを徹底解説
資金調達を進めたい経営者の方の
よくある疑問を解決します!
本記事では、IPOを検討している経営者の方向けに、IPOを行うことのメリットについて、解説していきます。
目次
IPOとは
IPOはInitial Public Offeringの略であり、日本語では新規株式公開や新規株式上場などと呼ばれています。新規株式公開とは、株主が限られた少数の者である状態から、株式を証券市場に流通させることで、不特定多数の一般の投資家も購入できる状態にすることをいいます。
上場という言葉は、株式会社の株式を証券取引所で取引が認められることを意味します。上場は株式会社を主語として株式公開する意味を持っており、主体が明確されている点でIPOとはニュアンスがやや異なりますが、近年ではほとんど同じ意味合いで使われています。
IPOのメリット
IPOは創業者をはじめとした株主だけでなく、企業自体にも従業員にもメリットがあります。
ここではIPOを行うことによるメリットを
・企業のメリット
・株主のメリット
・従業員のメリット
の3つに分けてそれぞれ解説をしていきます。
企業のメリット
IPOを行うことによる企業のメリットとして次のものがあります。
・企業の知名度の向上
・企業の社会的信用の向上
・企業の資金調達力の向上
・人材採用力の向上
・経営体制の強化
IPOを通じて、企業の知名度が向上することに伴い社会的信用度も向上する
↓
企業は新株発行による資金調達だけでなく金融機関から融資を受けやすくなる
↓
企業の知名度と社会的信用性に合わせて、事業を拡大するための資金が揃うことで人材採用力の向上が見込める
↓
人員の配置換えや社外から取締役を招聘するなどIPO前後の頃に比べて経営体制を強化できる
といったように、上場によるメリットがまたメリットを生んでいくことが期待できます。
各項目について詳しく解説していきます。
企業の知名度の向上
日本取引所グループ(JPX)によると、9月2日時点での上場会社数は3,825社となっています。日本には367万4,000社もの会社が存在しており、上場会社の割合は約0.1%です。
IPOを行うことにより、日本でも数少ない上場企業として、会社の知名度も高まります。結果的に、新規取引を獲得しやすくなるということも期待できます。
企業の社会的信用の向上
IPOを行うためには、様々な厳しい基準を達成しなければなりません。それゆえにIPOを行うことで会社の信用が向上し、銀行など金融機関からの融資などを受けやすくなります。
資金調達力の向上
IPOを行うことで、募集株式の発行(新株発行)を行うことができるようになります。募集株式の発行とは新たに株を発行し、新たな株主を募集することです。新たな株主から出資をしてもらうことで会社の資金を増やすこと(増資)ができます。
また、社債を発行することによって、投資家から資金提供を受けることも可能になります。
このように、IPOを行うことにより、銀行からの融資以外の資金調達ができるようになり、資金調達の幅が広がります。IPOを行った後も、必要なタイミングで資金調達がしやすいため、事業拡大を行いやすくなります。
資金調達については、こちらの記事もご参照ください。
⇒ベンチャー・スタートアップの資金調達方法とは?投資ラウンド別・調達事例を含めて徹底解説!
⇒資金調達の手段・方法には何がある?それぞれのメリット・デメリットも徹底解説!
⇒返済不要な資金調達とは?メリットやデメリット、調達時の注意点を徹底解説!
人材採用力の向上
IPOを行うことにより、企業自体が成長し、また企業の知名度も向上するというメリットがあることをお話しました。これによって、会社に入りたいという人も増えるため、人材採用力が向上するというメリットも生まれます。
就業希望者から見ると、ベンチャー企業だと社内体制が整っていなかったり、採用条件が魅力的ではなかったりすると思われてしまう場合もあります。
しかし、IPOによって企業の知名度と社会的信用度があり、それでいて資金調達を背景とした魅力的な労働条件が揃っていると、優秀な人材が集まることは想像しやすいでしょう。
経営体制の強化
IPOを行うためには、様々な準備を行わなければなりません。その中には経営管理体制を整備することも含まれます。経営管理体制の整備には、社内規定やマニュアルの整備や、内部監査制度の整備などがあります。このような準備をし、実際に運用していくことで、経営体制を強化することができます。
IPOを行った後に、ここまで見てきた流れで優秀な人材が増えることで各部署・各部門の人材力が強化されます。また、更なる企業の拡大を目指して、取締役や役員、外部監査役など経営人材の強化が期待できます。
このような一連の流れを通じて、IPO前の経営体制よりもIPO後の経営体制の方がより体制が強化されていきます。
経理部門・財務部門・社内規定、また、経営体制の強化に関連して、コーポレートガバナンスコードについてはこちらの記事もご参照ください。
⇒経理部門とは?業務内容と仕事のサイクル・やりがい・待遇について解説
⇒財務部門とは?業務内容・仕事のやりがい・必要なスキルについて徹底解説
⇒就業規則の作成について|就業規則の作成手順と記載事項・作成時の注意点も解説
⇒【2021年改訂】コーポレートガバナンス・コードの実務対応と開示事例
株主のメリット
株式を上場することによる株主のメリットとして次のものがあります。
・株式の流動性の向上
・株式の価値の向上
・少額から投資可能
各項目について詳しく解説していきます。
株式の流動性の向上
IPOを行うことによって、市場で流通する株式の数が大きくなります。それによって、株主は株の売買をする機会が増えたり、株を売買する際の制約が少なくなったりするといったメリットがあります。
株式の価値の向上
上場をすることで、企業が資金調達をしやすくなったり、新規取引の獲得がしやすくなったりするというメリットがあることを先ほど説明しました。これにより、企業の業績が上がり、株価もそれに応じて上昇するため、株主も株価上昇というメリットを得ることができます。
少額から投資可能
上場前に販売される新規公開株式は、実際に予測される株価よりも安く購入できるため、IPO株は少額から投資ができるというメリットもあります。IPO株は証券会社に抽選申し込みをし、当選しないと購入できないという点は注意が必要です。
従業員のメリット
株式を上場することによる従業員のメリットとして次のものがあります。
・従業員の社会的信用の向上
・従業員のモチベーションの向上
・上場に関わった実績と経験
・金銭的インセンティブの獲得
各項目について詳しく解説していきます。
従業員の社会的信用の向上
従業員は上場企業で働いているということで、従業員の社会的信用が向上します。したがって、従業員はローンを組みやすくなったり、転職の際に有利になったりなどのメリットを受けることができます。
モチベーションの向上
IPOを行うことで、企業側には企業の成長が加速したり、知名度が向上するといったメリットがあることを説明しました。それによって従業員も企業が成長しているということを実感し、給料が上がるのではないかという期待感を持つことができ、仕事に対するモチベーションが向上が見込まれます。また、働いている会社の知名度が上がることも、仕事に対するモチベーションが高まる要因になりえます。
上場に関わった実績と経験
IPOを行うためには、上場審査の様々な基準を満たす必要があること、経営管理体制の構築、運用、など様々な手続きが必要になります。このような手続きを行った実績と経験は社員にとっては貴重なものであり、今後のキャリア形成に非常に有利に働きます。
金銭的インセンティブの獲得
IPOによって従業員は、ストックオプションなどのインセンティブを獲得することができます。会社の業績が上がり、株価が上昇するとその分報酬も増えるため、従業員のモチベーションの向上にもつながります。
ストックオプションおよびインセンティブ設計については、こちらの記事もご参照ください。
⇒ストックオプション制度とは?仕組み・種類・メリット/デメリットを完全体系化!新株予約権との違いも解説!
⇒【経営者向け】話題の「信託型ストックオプション」を徹底解説
⇒ インセンティブプランとは?種類とメリット・導入時の注意点を解説
IPOのデメリット
IPOを行うデメリットは以下のようなものが挙げられます。
・高額なコストがかかり続ける
・上場するために3〜5年はかかる
・業績の向上が常に求められる
・社会や株主への説明責任がより求められる
・安定志向をもった従業員が増えやすい
各項目について詳しく解説していきます。
高額なコストがかかり続ける
IPOは準備の段階から高額なコストがかかります。もちろん企業規模にもよりますが、最低でも数千万円単位で必要になることが多いです。監査法人・証券会社への費用がかかることはもちろん、自社の管理部門の構築にかかる採用費や人件費が必要になってきます。
また、上場後も維持管理のコストが必要です。管理部門に加えて、定時株主総会の実施、監査法人へのコストなどもかかってくるため、明確に試算し考慮しておきましょう。
IPOのコストについては、こちらの記事もご参照ください。
⇒IPOの費用は?準備時・上場時・上場後の時期別に詳しく解説!
上場するために3〜5年はかかる
上場には長い期間要することが多いです。
IPO準備にかかる期間は少なくとも3年前後の期間を要します。その理由は、上場直前2期分のIPO監査が必要であることや、上場に向けた体制の構築に時間がかかることが挙げられます。
最近では、IPOを目指す企業が増えていることから、監査契約を受任してくれる監査法人がすぐに決まらないことも多い(IPO監査難民の増加)ため、早めに準備を始めることが重要です。
IPOの準備・監査難民については、こちらの記事もご参照ください。
⇒IPOの準備スケジュール|直前前々期から申請期まで解説
⇒上場スケジュール:直前期 〜直前期(N-1期)の過程について解説〜
⇒上場スケジュール:申請期 〜申請期の過程について解説〜
⇒監査難民にならないためには?IPOに先駆けて監査法人依頼前にできること
業績の向上が常に求められる
上場が行われた場合、株主から業績の向上を常に求められるようになります。IPO前であれば、短期的な利益は減ったとしても長期的に効果が出てくるような施策の実行も比較的行いやすいですが、IPOをするとそういった施策もやりにくくなってしまう傾向にあります。短期的な結果を追い求めてしまうといったデメリットが発生します。
社会や株主への説明責任がより求められる
近年では、コンプライアンス遵守を求められ、未上場のプライベートカンパニーとして行っていた取引や施策についても見直しが必要です。
また、IPO前は経営者が株主を選定できますし、限られた数の株主だけで構成されていますが、当然IPO後は株主は不特定多数になります。企業情報の開示や株主総会の運営を適切に行うことが大切です。
上場企業の情報開示については、こちらの記事もご参照ください。
⇒TCFDとは?気候関連財務情報開示タスクフォースの概要・TCFDに関する世界的な取組について解説
⇒プライム市場におけるTCFDの開示の義務化|コーポレートガバナンス・コードの改訂を背景にした情報開示の今後の見通しも解説
⇒【2021年改訂】コーポレートガバナンス・コードの実務対応と開示事例
安定志向をもった従業員が増えやすい
未上場であればベンチャースピリットを持っている活気のある人材が多くなりやすいですが、上場後は上場企業=安定という考えをもった採用候補者からの応募割合が増える傾向にあります。
もちろん優秀でベンチャーマインドを持った人材が多く所属している上場企業もたくさんありますので一概には言えません。上場によって採用力の強化はできますが、いかに良い人材を確保するのかは上場後も頭を悩ませる点にはなるでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回はIPOのメリット、特に企業側・株主側・従業員側から見たIPOのメリットについて解説しました。
新規に株式を公開し、既存の株主だけでなく多くの投資家から資金を募ることで、それぞれの関係者にメリットが生まれます。新聞やニュースで見かけるIPOという単語、株価が上がるからなんとなく儲かるといった漠然とした理解から、それぞれの立場に立ったメリット・デメリットを考えることでIPOに対する理解が深まっていれば僭越ながら大変嬉しく思います。
スタートアップ・ベンチャーの経営をされている方にとって、事業に取り組みつつ資金調達や資本政策、IPO準備も進めることは困難ではないでしょうか。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。