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上場審査とは?審査基準・審査の流れ・審査通過のポイントを徹底解説!
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
『資金調達の手引き』
調達ノウハウを徹底解説
資金調達を進めたい経営者の方の
よくある疑問を解決します!
株式を上場する際には審査が行われます。
上場を目指しているスタートアップ・ベンチャー企業の経営者の中には、上場審査は何を基準に判断されるのか、上場審査の手続きはどのように進行するのか、審査に通過するためのポイント等が気になる方も多いかと思います。
そこで、今回の記事では、
・上場審査の概要や種類
・上場審査における審査基準
・上場審査通過のポイント
など審査の難易度に関して詳細に解説します!
目次
上場するには審査を通過する必要がある
上場するためには、証券取引所に申請して、審査を通過する必要があります。
審査を通過するためには、証券取引所が定めている基準を満たすことが求められ、この基準を上場基準といいます。
上場することは非常にハードルが高く、日本の企業約370万社のうち、上場企業は3,800社程度しか存在しません。
しかし、上場することで、上場前の段階では調達できないほど大きな金額を調達できるようになったり、知名度及び社会的信用力の向上によって販売先・取引先が増えたり、優秀な人員を採用しやすくなるなど、多くのメリットが得られます。
上場のメリットについては、こちらの記事もご参照ください。
⇒IPOのメリット・デメリットとは?企業・株主・従業員の観点で解説
⇒ベンチャー企業がIPOする意義はあるのか?上場のメリット・デメリット
上場審査の種類
上場審査には以下2種類の審査があります。
・引受審査
・公開審査
それぞれについて解説します。
引受審査
引受審査は、主幹事証券会社の引受審査部門による審査のことをいいます。
上場先として希望する証券取引所に上場申請を行う前に、主幹事証券会社の引受審査部門で対象となっている証券取引所の上場審査基準に適合しているかどうか、各項目に関して厳格な審査が行われます。(※上場審査基準に関しては後述します。)
引受審査を通過することで、証券取引所へ正式に上場申請を行うことが可能になります。
上場した企業が上場間もない段階で問題を起こした、もしくは、上場前から抱えていた問題が発覚した場合、証券取引所の引受審査の責任を問われる恐れがあるため、証券会社は厳格に審査を行います。
主幹事証券会社については、こちらの記事もご参照ください。
⇒主幹事証券会社とは?役割・選び方・変更について解説
⇒IPOにおける主幹事証券会社の選び方|主幹事選択の事例と証券会社について解説
⇒IPOにおける主幹事証券会社の役割|引受審査や選び方についても解説
公開審査
公開審査は、各証券取引所による審査のことをいいます。
引受審査を通過し上場申請が行われた後、証券取引所で公開審査が行われます。公開審査は、各取引所の上場審査部にて行われます。
質問内容は一般的に引受審査と同様で、上場審査基準に従って形式的・実質的に基準を満たしているか審査が行われます。
公開審査を通過すれば上場に承認がおり、無事に上場ができます。
上場審査における審査基準
上場基準には、「形式要件」と「実質審査基準」があります。
なぜ、上場には条件が設定されているのでしょうか。
仮に、株式の上場に対して厳しい条件が設定されていなかった場合、すぐに倒産したり、業績や財務内容に虚偽があるような上場適格でない企業も上場してしまったりするケースが想定されます。
上記のような状態では、投資家が安心して株式を売買できなくなる恐れがあるため、証券取引所によって厳しい条件が設定され、審査が行われます。
形式要件
企業が上場するにあたって、まずは形式要件を満たす必要があります。
形式要件とは形式基準とも呼ばれていて、「受付基準」と「不受理事項」の2つに分けられます。
要件は証券取引所や市場によって異なりますが、財務数値や株主数、株式数などの数値を達成していることが必要です。
形式要件を満たしているかどうかは、上場申請のために提出された資料などで判断されます。
受付基準
受付基準は、上場のために最低限満たす必要がある基準のことをいいます。
各市場にはそれぞれ異なる受付基準がありますが、主に以下の内容について基準が設けられています。
・株主数
・流動株式数
・流通株式時価総額
・時価総額
・流通株式比率
・収益基盤
・財政状態
・公募
・事業継続年数
・その他
不受理事項
形式要件を満たしていても、企業が不受理事項に当てはまる場合は受理が取り消されます。
不受理事項は以下のとおりです。
1.合併・会社分割・子会社化もしくは非子会社化・事業の譲受もしくは譲渡する予定のある場合
2.合併・株式交換または株式移転をする予定のある場合
3.上場前に第三者割当増資などによる募集株式などの割当などの確約を提出しない場合、また割当を受けたものが所有していない場合
1は、上場申請した日の直前事業年度の末日から2年以内に予定がある場合が該当します。
また、上場を申請した会社がそれによって実質的に存続できなくなっていると認める場合も当てはまります。上場を申請した会社の子会社が合併・会社分割・子会社化。非子会社化・事業の譲受や譲渡を行う、もしくは、行う予定がある場合も含まれるので注意しましょう。
2も、上場申請した日の直前事業年度の末日から2年以内に、合併・株式交換・株式移転の予定がある場合が該当しますが、上場日前に行う場合は当てはまりません。
実質審査基準
形式要件を満たしたうえで上場を審査する基準になるのが実質審査基準です。
実質審査基準も各市場によって内容は異なりますが、形式基準ほど各市場ごとの違いはありません。
実質審査基準で判断されるものは、以下のとおりです。
・企業の継続性・収益性
・企業経営の健全性
・コーポレートガバナンス・内部管理体制の有効性
・企業情報の開示が適切か
・その他公益および投資者保護の観点から各取引所が必要と認める事項
企業の継続性・収益性
合理的な事業計画が作成されていて、かつ、企業が継続して安定した収益をあげることができる見込みがある状態かどうかが審査されます。
継続性や収益性が満たされていなければ、上場に適していないと判断される場合もあります。
適切な事業計画には、事業基盤が適切に整備されている、もしくは、整備される見込みがあることが必要です。
また、事業環境やリスク管理にも漏れなく対応していることが求められます。
企業経営の健全性
株主の利益を保護するためには、事業が公正かつ忠実に行われている必要があり、この点も審査されます。
一例として、企業が以下のような状況にある場合は公正ではないと判断されます。
・取引行為等の経営活動で不当な利益を享受もしくは供与しているといった状況
・親族が役員を行っており、勤務実態・他の会社との兼務状況が公正でなく、職務や監査の実施を毀損するような状況
・親会社が存在し、企業グループの経営が親会社から独立性を有するような状態
コーポレートガバナンス・内部管理体制の有効性
コーポレート・ガバナンスや内部管理体制が適切に整備されて機能しているかが審査されます。
具体的には、以下のような状態であることが求められます。
・役員が適切に職務を遂行するための体制が適切に整備・運営されている
・内部管理体制が適切に整備・運営されている
・安定かつ継続的に内部管理体制を維持するための人員が確保されている
・会計処理が適切に整備・運用されている
・法令などを守るための体制が適切に整備・運営されており、法令違反を起こしていない
コーポレートガバナンス・内部統制については次の記事もご参照ください。
⇒【2021年改訂】コーポレートガバナンス・コードの実務対応と開示事例
⇒コーポレートガバナンス(企業統治)とは?目的・強化方法・歴史的背景について解説!
⇒コーポレートガバナンス・コードの5つの基本原則|特徴・制定の背景・適用範囲と拘束力について解説
⇒内部統制とは?会社法・金融商品取引法での定義や方針を徹底解説!
⇒IPOに内部統制が必要な理由とは?構築する目的・要素も解説!
⇒内部監査とは?外部監査の違い・監査プロセスを解説!
企業情報の開示が適切か
投資家は会社情報を見て投資するかどうか判断するため、企業は十分な会社情報を開示する必要があります。
そのため、情報を開示できる体制を構築し、情報管理が適切に行われているかが審査されます。
例えば、以下の状態にあることが求められます。
・会社情報が適切に管理されていて、投資家に随時開示可能な状態
・開示に関する書類が法令に準じて作成されていて、適切に記載されている状態
・取引や株式の所有割合等によって、企業グループの開示で不正を働いていない状態
・親会社がある場合は、申請会社の経営に影響を及ぼす情報が適切に開示されている状態
企業の情報開示については、こちらの記事もご参照ください。
⇒TCFDとは?気候関連財務情報開示タスクフォースの概要・TCFDに関する世界的な取組について解説
⇒プライム市場におけるTCFDの開示の義務化|コーポレートガバナンス・コードの改訂を背景にした情報開示の今後の見通しも解説
⇒ISO30414とは?注目された背景・目的・具体的内容・情報開示のポイントを解説
その他公益および投資者保護の観点から各取引所が必要と認める事項
公益および投資者保護の観点から問題がないかも確認されます。
具体的には、以下の基準で審査されます。
・株主等の権利内容及びその行使の状況が、公益又は投資者保護の観点で適当と認められること
・経営活動や業績に重大な影響を与える係争又は紛争等を抱えていないこと
・反社会的勢力による経営活動への関与を防止するための社内体制を整備し、当該関与の防止に努めていること及びその実態が公益又は投資者保護の観点から適当と認められること
・新規上場申請に係る内国株券が、無議決権株式または議決権の少ない株式である場合は、ガイドラインⅲ 6.(4)(※プライム市場)、ガイドラインⅱ6.(4)(※スタンダード市場)、ガイドラインⅵ 6.(5)(※グロース市場)に掲げる項目のいずれにも適合すること
・新規上場申請に係る内国株券が、無議決権株式である場合は、ガイドラインⅵ6.(6)に掲げる事項のいずれにも適合すること(※グロース市場のみ)
・その他公益又は投資者保護の観点から適当と認められること
詳細は以下各市場のガイドラインをご参照ください。
【詳細】
・上場審査の内容(プライム市場)
・上場審査の内容(スタンダード市場)
・上場審査の内容(グロース市場)
東京証券取引所の各市場における審査基準
東京証券取引所は、以前は以下のように区分されていました。
・東証1部
・東証2部
・JASDAQスタンダード
・JASDAQグロース
・マザーズ
しかし、2022年4月4日、市場区分が見直され、現在は以下3つの市場が存在しています。
・プライム市場
・スタンダード市場
・グロース市場
基本的には、東証1部がプライム市場に、東証2部とJASDAQスタンダードがスタンダード市場に、マザーズとJASDAQグロースがグロース市場に再編されています。また、東京証券取引所にはTOKYO PRO MARKETという市場もあります。
以下で各市場の上場基準について紹介します。
プライム市場
プライム市場は、多くの機関投資家の投資対象になれる規模の時価総額(流動性)を持っていて、より高いガバナンス水準を備え、投資家との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に努める企業向けの市場です。
プライム市場の形式要件は以下の通りです。
項目 | プライム市場への新規上場 |
---|---|
(1)株主数(上場時見込み) | 800人以上 |
(2)流通株式(上場時見込み) | 流通株式数 2万単位以上 流通株式時価総額 100 億円以上 流通株式比率 35%以上 |
(3)時価総額(上場時見込み) | 250 億円以上 |
(4)純資産額(上場時見込み) | 連結純資産の額が 50 億円以上で、単体純資産の額が負でないこと |
(5)利益の額は売上高 | 以下のaまたはbに適合すること a.最近2年間の利益の額の総額が 25 億円以上であること b.最近1年間における売上高が 100 億円以上である場合で、時価総額が 1,000 億円以上となる見込みがあること |
(6)事業継続年数 | 3年以上前から取締役会を設置して、継続的に事業活動をしていること |
(7)虚偽記載または不適正意見等 | a.最近2年間の有価証券報告書等に「虚偽記載」なし b.最近2年間(最近1年間を除く)の財務諸表等の監査意見が「無限定適正」または「除外事項を付した限定付適正」 c.最近1年間の財務諸表等の監査意見が原則として「無限定適正」 d.新規上場申請に関する株券等が国内の他の金融商品取引所に上場されている場合、次の(1)及び(2)に該当するものでないこと (1)最近1年間の内部統制報告書に「評価結果を表明できない」旨の記載 (2)最近1年間の内部統制監査報告書に「意見の表明をしない」旨の記載 |
(8)上場会社監査事務所による監査 | 最近2年間の財務諸表等について、上場会社監査事務所の監査等を受けていること |
(9)株式事務代行機関の設置 | 東京証券取引所の承認する株式事務代行機関に委託しているか、または当該株式事務代行機関から株式事務を受託する旨の内諾を得ていること |
(10)単元株式数 | 単元株式数が、100株となる見込みのあること |
(11)株券の種類 | 新規上場申請に関する株券等が、次のaからcのいずれかであること a.議決権付株式を1種類のみ発行している会社における当該議決権付株式 b.複数の種類の議決権付株式を発行している会社において、経済的利益を受ける権利の価額等が他のいずれかの種類の議決権付株式よりも高い種類の議決権付株式 c.無議決権株式 |
(12)株式の譲渡制限 | 新規上場申請に関する株式の譲渡につき制限を行っていないこと、または上場の時までに制限を行わないこととなる見込みのあること |
(13)指定振替機関における取扱い | 指定振替機関の振替業における取扱いの対象であること、または取扱いの対象となる見込みのあること |
(14)合併等の実施の見込み | 次のa及びbに該当しないこと a.新規上場申請日以後、同日の直前事業年度の末日から2年以内に、合併、会社分割、子会社化・非子会社化、もしくは事業の譲受け・譲渡を行う予定があり、申請会社が当該行為により実質的な存続会社でなくなる場合 b.申請会社が解散会社となる合併、他の会社の完全子会社となる株式交換または株式移転を新規上場申請日の直前事業年度の末日から2年以内に行う予定のある場合(上場日以前に行う予定のある場合を除く。) |
プライム市場の実質審査基準は以下の通りです。
項目 | 内容 |
---|---|
(1)企業の収益性・継続性 | 継続的に事業を営み、安定し優れた収益基盤を有していること |
(2)企業経営の健全性 | 事業を公正かつ忠実に遂行していること |
(3)企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 | コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切に整備され、機能していること |
(4)企業内容等の開示の適正性 | 企業内容等を適切に開示できる状況にあること |
(5)その他公益または投資者保護の観点から東京証券取引所が必要と認める事項 | – |
スタンダード市場
スタンダード市場は、投資対象として一定の時価総額(流動性)を持っている企業向けの市場です。
上場企業として基本的なガバナンス水準を持ちつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に努める企業向けの市場であるといえます。
スタンダード市場の形式要件は以下の通りです。
項目 | スタンダード市場への新規上場 |
---|---|
(1)株主数(上場時見込み) | 400人以上 |
(2)流通株式(上場時見込み) | 流通株式数 2,000単位以上 流通株式時価総額 10 億円以上 流通株式比率 25%以上 |
(3)事業継続年数 | 3年以上前から取締役会を設置して、継続的に事業活動をしていること |
(4)純資産額(上場時見込み) | 連結純資産の額が正であること |
(5)利益の額 | 最近1年間の利益の額が1億円以上であること |
(6)虚偽記載または不適正意見等 | a.最近2年間の有価証券報告書等に「虚偽記載」なし b.最近2年間(最近1年間を除く)の財務諸表等の監査意見が「無限定適正」または「除外事項を付した限定付適正」 c.最近1年間の財務諸表等の監査意見が原則として「無限定適正」 d.新規上場申請に関する株券等が国内の他の金融商品取引所に上場されている場合、次の(1)及び(2)に該当するものでないこと (1)最近1年間の内部統制報告書に「評価結果を表明できない」旨の記載 (2)最近1年間の内部統制監査報告書に「意見の表明をしない」旨の記載 |
(7)上場会社監査事務所による監査 | 最近2年間の財務諸表等について、上場会社監査事務所の監査等を受けていること |
(8)株式事務代行機関の設置 | 東京証券取引所の承認する株式事務代行機関に委託しているか、または当該株式事務代行機関から株式事務を受託する旨の内諾を得ていること |
(9)単元株式数 | 単元株式数が、100株となる見込みのあること |
(10)株券の種類 | 新規上場申請に関する株券等が、次のaからcのいずれかであること a.議決権付株式を1種類のみ発行している会社における当該議決権付株式 b.複数の種類の議決権付株式を発行している会社において、経済的利益を受ける権利の価額等が他のいずれかの種類の議決権付株式よりも高い種類の議決権付株式 c.無議決権株式 |
(11)株式の譲渡制限 | 新規上場申請に関する株式の譲渡につき制限を行っていないこと、または上場の時までに制限を行わないこととなる見込みのあること |
(12)指定振替機関における取扱い | 指定振替機関の振替業における取扱いの対象であること、または取扱いの対象となる見込みのあること |
(13)合併等の実施の見込み | 次のa及びbに該当しないこと a.新規上場申請日以後、同日の直前事業年度の末日から2年以内に、合併、会社分割、子会社化・非子会社化、もしくは事業の譲受け・譲渡を行う予定があり、申請会社が当該行為により実質的な存続会社でなくなる場合 b.申請会社が解散会社となる合併、他の会社の完全子会社となる株式交換または株式移転を新規上場申請日の直前事業年度の末日から2年以内に行う予定のある場合(上場日以前に行う予定のある場合を除く。) |
スタンダード市場の実質審査基準は以下の通りです。
項目 | 内容 |
---|---|
(1)企業の収益性・継続性 | 継続的に事業を営み、安定し優れた収益基盤を有していること |
(2)企業経営の健全性 | 事業を公正かつ忠実に遂行していること |
(3)企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 | コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切に整備され、機能していること |
(4)企業内容等の開示の適正性 | 企業内容等を適切に開示できる状況にあること |
(5)その他公益または投資者保護の観点から東京証券取引所が必要と認める事項 | – |
グロース市場
グロース市場は、高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適切な開示が行われ、一定の市場評価が得られる市場です。
しかし、事業実績から見るとリスクが高い傾向がある市場といえます。
グロース市場の形式要件は以下の通りです。
項目 | グロース市場への新規上場 |
---|---|
(1)株主数(上場時見込み) | 150人以上 |
(2)流通株式(上場時見込み) | 流通株式数 1,000単位以上 流通株式時価総額 5億円以上 流通株式比率 25%以上 |
(3)公募の実施 | 500単位以上の新規上場申請における株券等の公募を行うこと |
(4)事業継続年数 | 1年以上前から取締役会を設置して、継続的に事業活動をしていること |
(5)虚偽記載または不適正意見等 | a.「上場申請のための有価証券報告書」に添付される監査報告書(最近1年間を除く)において、「無限定適正」または「除外事項を付した限定付適正」 b.「上場申請のための有価証券報告書」に添付される監査報告書等(最近1年間) において、「無限定適正」 c.上記監査報告書または 四半期レビュー報告書に係る財務諸表等が記載又は参照される有価証券報告書等に「虚偽記載」なし d.新規上場申請に関する株券等が国内の他の金融商品取引所に上場されている場合、次の(1)及び(2)に該当するものでないこと (1)最近1年間の内部統制報告書に「評価結果を表明できない」旨の記載 (2)最近1年間の内部統制監査報告書に「意見の表明をしない」旨の記載 |
(6)上場会社監査事務所による監査 | 「新規上場申請のための有価証券報告書」に記載及び添付される財務諸表等について、上場会社監査事務所の監査等を受けていること |
(7)株式事務代行機関の設置 | 東京証券取引所の承認する株式事務代行機関に委託しているか、または当該株式事務代行機関から株式事務を受託する旨の内諾を得ていること |
(8)単元株式数 | 単元株式数が、100株となる見込みのあること |
(9)株券の種類 | 新規上場申請に関する株券等が、次のaからcのいずれかであること a.議決権付株式を1種類のみ発行している会社における当該議決権付株式 b.複数の種類の議決権付株式を発行している会社において、経済的利益を受ける権利の価額等が他のいずれかの種類の議決権付株式よりも高い種類の議決権付株式 c.無議決権株式 |
(10)株式の譲渡制限 | 新規上場申請に関する株式の譲渡につき制限を行っていないこと、または上場の時までに制限を行わないこととなる見込みのあること |
(11)指定振替機関における取扱い | 指定振替機関の振替業における取扱いの対象であること、または取扱いの対象となる見込みのあること |
グロース市場の実質審査基準は以下の通りです。
項目 | 内容 |
---|---|
(1)企業内容、リスク情報等の開示の適切性 | 企業内容、リスク情報等の開示を適切に行うことが可能な状況にあること |
(2)企業経営の健全性 | 事業を公正かつ忠実に遂行していること |
(3)企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 | コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切に整備され、機能していること |
(4)事業計画の合理性 | 合理的な事業計画を策定しており、その事業計画を遂行するために必要な事業基盤を整備していること、または整備する合理的な見込みのあること |
(5)その他公益または投資者保護の観点から東京証券取引所が必要と認める事項 | – |
グロース市場についてはこちらの記事もご参照ください。
⇒グロース市場とは?市場区分の再編による変化を徹底解説!
Tokyo Pro Market
東京証券取引所のプライム市場・スタンダード市場・グロース市場とは違い、形式要件の無い「Tokyo Pro Market」が あります。Tokyo Pro Marketは、2012年7月に開設されたプロの投資家向けの新興の株式市場です。
Tokyo Pro Marketは、売上や利益、株主の人数、流通株式数などの数字に関わる形式基準が無いことから一般市場(プライム市場・スタンダード市場・グロース市場)に比べて、上場しやすいという特徴があります。
Tokyo Pro Marketの質を担保するために、東京証券取引所は「企業に対する経営のサポートの経験が豊富で、上場に関する深い知見を持ち合わせている」と認められる企業に対して「J-Adviser」という資格を与える制度を導入しました。
この制度によって上場の適格性の評価や上場の手続き、上場後の定時開示などの助言や指導が行われます。
Tokyo Pro Marketの詳細については次の記事もご参照ください。
⇒東京プロマーケットとは?上場市場の選び方について解説
⇒東京プロマーケットへの上場は意味がない?市場の特徴とTPMに上場する意義を解説
上場審査の流れ
上場審査は、主幹事証券会社が行う引受審査と各証券取引所が行う公開審査があります。大きな流れに共通点は見られますが、実施期間や面談の有無など細かな点で違いが見られます。
引受審査
引受審査は、直前期と申請期に分けて2回の審査を行う主幹事証券会社もあります。直前期の中間審査では上場申請企業のビジネス全般と直前々期までの財政状態と経営成績についての審査が行われ、最終審査では中間審査で課題となった事項や改善事項の状況を確認し、直前期の財政状態と経営成績について審査が行われます。
中間審査
中間審査は事前審査、前倒審査と言われる場合もあります。この中間審査の目的は上場準備がどのくらい進んでいるのかを把握すること、改善事項と改善対応、スケジュールの確認にあります。ここで事前に問題点を把握することで、最終審査に向けて改善していきます。
中間審査は具体的に以下のような流れで行われます。
最終審査
中間審査で受けた改善事項をもとに最終審査が行われます。中間審査よりも比較的短い期間で実査される点に注意が必要です。
最終審査は具体的に以下のような流れで行われます。
公開審査
各証券取引所による公開審査は具体的に以下のような流れで行われます。
・資料の提出と審査
・書面による質問・ヒアリング
・実地調査
・監査法人・代表者・監査役・独立役員へのインタビュー
・証券取引所への会社説明会
・上場承認公表
それぞれの内容について解説します。
資料の提出と審査
質問・ヒアリングのために上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部、Ⅱの部)、規定集、議事録、審査関連資料を証券取引所に提出します。
有価証券報告書のⅠの部は、企業情報、提出会社の保証会社等の情報、特別情報と株式公開情報の4部で構成されており、Ⅱの部はⅠの部をより詳細に記載したもので、上場申請理由、企業グループの概況、事業の概況(商品・サービスの特徴や取引先の概要、同業他社との差別化など)、経営管理体制等、株式等の状況、経理・財務の状況、予算統制等、過年度の業績等、今後の見通し、その他係争や顧問契約等について広範囲にわたって詳細に記載します。上場後、Ⅰの部は外部に公表されますが、Ⅱの部は公表されません。
書面による質問・ヒアリング
書面による質問および回答に対するヒアリングが実施されます。一般的に、3回ほど行われるケースが多いです。
数百にものぼる質問に対して、数週間程度の回答期限内で対応することが求められるため、十分なリソースを確保し、慎重かつ迅速に準備をする必要があります。
このヒアリングを通じて、上場審査の実質基準に準拠しているかどうか確認されます。
回答が不十分な場合、または、正確でない場合は、証券取引所から追加確認が発生します。
上場全体のスケジュールに影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。
実地調査
事業所や工場などの実地調査が行われます。
資産の実在性や規程等に基づいて業務が行われているかどうかを確認するための調査で、必要に応じて従業員などにインタビューが行われる場合もあります。
監査法人・代表者・監査役・独立役員へのインタビュー
コーポレートガバナンス上、重要性の高い人・組織に対してインタビューが実施されます。具体的には、経営者や役員、監査役、監査法人などに対してのインタビューです。
インタビューはまず監査法人に対して実施され、その後その他の人・組織に対して実施されるのが一般的です。
インタビュー内容は以下の通りです。
【監査法人】
上場申請会社の内部統制制度の整備状況、会計処理の妥当性等が確認されます。
【代表者】
会社や業界について経営者としてどのようなビジョンを持って経営にあたっているか、上場会社となった際の株主への対応、業績開示に関する体制および内部情報管理に関する体制等が確認されます。
【監査役】
監査の状況や上場申請会社の抱えている課題、内部監査室、監査法人との連携状況に関して確認されます。
【独立役員】
上場申請会社のコーポレートガバナンスに関する方針・現状の体制・運用状況、独立役員の職務遂行のための環境整備の状況、経営者が関与する取引の有無や当該取引への牽制状況等に関してどのような評価をしているのか、上場後に独立役員として果たすべき役割・機能等に関してどのように認識しているのか確認されます。
社長説明会
証券取引所に対して、代表者が会社の沿革や事業内容、事業計画等の説明を実施します。
実施時期は、各種ヒアリング終了後7〜8営業日前後が一般的です。
上場承認の公表
以上のプロセスを全てクリアすれば、証券取引所のホームページ上で、株式の上場が承認されたことが公表されます。
上場審査の費用
東京証券取引所の場合、各市場の上場審査の費用は以下の通りです。
料金項目 | 市場区分 | 金額(消費税抜き) |
---|---|---|
上場審査料 | プライム市場 | 400万円 |
スタンダード市場 | 300万円 | |
グロース市場 | 200万円 |
上場に関する費用については次の記事もご参照ください。
⇒IPOの費用は?準備時・上場時・上場後の時期別に詳しく解説!
上場審査に落ちる主な理由
本項では、上場審査に落ちる主な理由を2つご紹介します。
・経営者が不適切な取引をしている
・業績予測を達成できていない
上場審査に落ちる理由を理解しておくことで、審査に通過する可能性を高めることができます。
そのためまず初めに、今回紹介する失敗理由2つが社内で起こっていないか確認することから始めましょう。
経営者が不適切な取引をしている
ここで取り上げる不適切な取引とは、具体的に以下のようなことが該当します。
・利益供与
・関連当事者取引
利益供与とは、会社が株主に対して株主の財産的な利益を提供する行為を指します。一方の関連当事者取引とは、会社とグループ会社や役員などといった関連当事者との間で行われる取引を指し、会社の資産や財務を移動させることや役務を提供することに該当します。
業績予測を達成できていない
上場審査は、業績予測を達成できないことで審査に落ちる可能性があります。
上場時に公表される業績予想に関して条件や根拠の開示が必要になるため、業績予測が達成できていないと会社の信用度が下がる可能性が高いです。
ここでの業績予測を達成できない要因には、事業計画の精度が荒いことや市場環境の変化などが挙げられます。
業績予測を達成するために、日頃から事業計画の振り返りや新興競合他社の動向を調査することが肝要でしょう。
上場審査通過のポイント
上場審査通過のポイントとしては以下があげられます。
・上場後の業績予想の精度を高める
・内部管理体制・コーポレートガバナンスを整備・機能させる
近年、上場直後に業績を下方修正することや不正が発覚することが多いことから、審査の厳格化が進んでいます。
日本取引所グループは2015年3月に「最近の新規公開を巡る問題と対応について」公表し、近年の上場に関する問題点を指摘しています。
厳しい審査を通過するために、以下の点を重点的に準備しましょう。
上場後の業績予想の精度を高める
上場直後の業績予想の大幅な修正への対応策として、上場時に公表される業績予想に関して前提条件やその根拠を適切に開示することが要請され、業績予想情報の正確性に関してもより高いものが求められるようになっています。
確かな根拠に基づいた精度の高い業績予想を作成し審査に備えましょう。
内部管理体制・コーポレートガバナンスを整備・機能させる
新規公開会社の経営者による不適切な取引への対応として、内部管理体制およびコーポレートガバナンスが整備され、実質的に機能しているかが厳しく審査されます。
上場の際、経営者は売上・利益の確保や事業の継続性には目を向けますが、社内統制などについてはあいまいにしたり、見落としがちです。
見かけだけではなく、実質的にも機能する内部管理体制を上場準備期間中に構築しておくとよいでしょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は上場審査の概要、上場審査基準、上場審査の流れ、審査通過のポイントについて解説しました。
現在スタートアップ・ベンチャー企業を経営していて上場を目指されている方にとって参考になれば幸いです。
スタートアップ・ベンチャーの経営をされている方にとって、事業に取り組みつつ資金調達や資本政策、IPO準備も進めることは困難ではないでしょうか。
財務戦略の策定から実行まで担えるような人材をを採用したくても、実績・経験がある人を見つけるのには非常に苦労するといったこともあるでしょう。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。