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内部通報制度とは?ガイドラインや法改正、義務化、メリット・デメリットを解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
コーポレートガバナンス・コードの基本のキ
~概要と基本原則を解説~
コーポレートガバナンス・コードの「基本的な概要」と「基本原則」にフォーカスして紹介
企業の不祥事は、不正検査や不正会計など様々な形で発生します。
報道や第三者委員会報告書を見ると、こういった不正やその兆候は事前に社内で感知されていたことが伺えますが、社内間で早期に相談や報告されていなかったため、時間の経過とともに問題が拡大し不祥事として発覚・報道されるケースが多いです。
早期の報告が行われれば初動対応により解決していた問題を、内部通報制度(※)という取り組みを使えば事前に検知することが可能です。
※内部通報制度とは、社内における不正行為を社員やその関係者が通報する制度。
そこで本記事では、
・内部通報制度の目的
・内部通報制度を活用するメリット・デメリット
・内部通報制度の整備ポイント
についてご説明します。
目次
内部通報制度とは
内部通報制度とは、組織内の従業員が上司を経ずに社内の指定窓口に問題や不正行為を報告できる制度を指します。
内部通報の似て非なる仕組みとして「内部告発」がありますので、以下にて各制度との違いを説明をしていきます。
・内部通報と内部告発の違いとは
・内部通報制度の目的
内部通報と内部告発の違いとは
内部通報は、組織内での不正行為を報告する制度であり、報告先は企業内部です。一方の内部告発は、同様の不正行為を外部の機関やマスコミなどに報告することを指します。つまり、告発先が社内外のどちらかという点において異なります。
内部通報制度がない企業、あるいはあっても利用しにくい場合、従業員が直接監督官庁やマスコミなど外部に告発するケース、つまり「内部告発」が起こる可能性があります。
従業員に内部告発された後の企業は、非常に重い負担を課される上に社会的な制裁を受けますが、内部通報制度が十分に機能していれば、第一に組織内で問題を解決・改善できるため、企業の評判を損ねる前に解決することができるでしょう。
つまり、内部通報制度の整備こそが内部告発を防ぐ効果的な手段です。
内部通報制度の目的
内部通報制度の主な目的は、企業内部での浄化プロセスを促進することです。
企業は、不正な会計処理や情報の隠蔽などの利益を損なう問題やセクハラ、パワーハラスメントなどの不当なトラブルの可能性を常に孕んでいます。
上記のような問題が無視されたまま経営を続けることは、企業体質や社員の意識が改善されず、不正が横行し続ける可能性があります。
ここで内部通報制度を導入することにより、企業内の問題が早期に表面化しやすくなり、迅速に調査や改善などの対策が取れる上、自社のコンプライアンスを強化する一助となります。
また、内部通報制度の設置は不正行為を未然に防ぐ効果が期待できる抑止力となります。内部通報制度を適切に運用している企業であると示すことで、取引のあるクライアント企業や株主からの信頼を得られるでしょう。
内部通報制度のガイドライン
外部からのレピュテーションリスクを未然に軽減する内部通報には、事態の通報者が解雇や降格などの不当な扱いを受ける可能性があるという問題があります。そのため、内部通報をリスクを冒すことと認識して、躊躇する社員が一定数出るでしょう。
そのため内部通報制度のガイドラインには、
「社員が安心して通報できる環境整備」
「内部通報制度に関する経営幹部の責任の明確化」
など内部通報者の立場を守る規定が具体的に記載されています。
また、都度生まれる通報者のリスクを解消するために、都度ガイドラインは刷新されています。例えば、2016年には「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」が制定されました。
内部通報制度を導入するメリット
上記で見た通り、内部告発の防止策として機能する内部通報制度を導入することは、中長期的に会社の対外的信頼を守ることに繋がります。
そのため、改めて本項では内部通報制度を導入するメリットについて3点ご説明します。
・企業の信頼度が高まる
・事前に不祥事を防ぐ
・不正の早期発見につながる
企業の信頼度が高まる
内部通報制度の整備は、コンプライアンスを重視する側面の表れとなり、顧客や取引先からの信頼を高める一因となります。
近年では、「相手企業の不正に巻き込まれたくない」という意識から、取引先の企業が内部通報制度の整備を考慮するケースが増えています。
内部通報制度の導入が顧客との信頼関係強化に繋がり、ひいては長期的かつ安定した取引が可能になります。
事前に不祥事を防ぐ
また内部通報制度を導入することは、不祥事の予防に効果が高い施策と言えます。
企業の起こす不祥事には様々な種類があり、不祥事として表面化する根本には社員のコンプライアンス意識の欠如があります。
内部通報制度を整備することで、
「自分の行為を誰かが通報するかもしれない」
「通報されたら厳しい処分を受けるかもしれない」
という気持ちが芽生え、従業員自身が不正やハラスメントなどの行為を避ける契機となります。
不正の早期発見につながる
その他内部通報制度の持つ大きな利点は、不正行為を早期に発見できることです。
不正が早期に発見されれば迅速な対処が可能となり、メディア上で広まった後も企業へのダメージを最小限に抑えることができます。
そのためには、どんな些細な不正でも通報を促す事が重要で、社員が気兼ねなく通報できる環境を構築することが求められます。。
内部通報制度を導入するデメリット
当然、内部通報制度の導入にはデメリットも付きまといます。そのデメリットとは、制度として機能させるために、制度設計に労力を要するという点です。
内部通報制度の効果を最大限に活かすためには、単に制度を設けるだけではなく効果的な運用が不可欠であり、機能しない制度であれば人的コストが無駄になります。
例えば、通報者が不本意に降格されるなどの不利益を被る場合、従業員たちの内部通報制度への信頼が低下し、制度自体が機能しなくなる可能性が高まります。
そのため制度運用の際には、専用窓口の設置と情報の秘密保持を徹底することが欠かせないと言えます。
内部通報制度に関わる法改正のポイント
本項では、内部通報制度に関わる法改正のポイントを説明します。
・内部通報制度の社内体制の整備の義務化
・機密事項の守秘義務の設置
・保護される関係者の範囲拡大
・保護基準の緩和
通報者の立場を守るために改正されるため、更新の都度内容を抑えておくようにしましょう。
内部通報制度の社内体制の整備の義務化
2022年6月1日から改正公益通報者保護法が施行され、社員数が301人以上の企業は体制整備が必須となり、300人以下の企業は努力義務が課せられました。
上記改正法案に基づく体制整備には、消費者庁が「窓口設定・調査・是正措置」の項目を提示しています。
この項目提示により、内部通報制度を効果的に機能させるためには、法務担当者が重要な役割を果たすことが不可欠です。
内部通報制度の効果的な運用のために、【独立性の確保と関係者との利益相反の排除・社内窓口と社外窓口の両方を設置する・内部通報に関する調査・対応を適切に行う・通報者の保護と不利益の禁止を徹底する】を遵守することがポイントとなり、この遵守を法務担当者が推進していく形になります。
機密事項の守秘義務の設置
内部通報の対応担当者には守秘義務が課せられており、業務上で得た情報を漏洩してはいけません。例えば、通報者の個人情報(名前、社員番号、住所など)は特定可能なため、漏洩を避けなければなりません。
守秘義務を守らなかった場合、対応担当者には30万円以下の罰金が科される可能性があります。但し、通報者自身が情報の開示に同意した場合は、守秘義務違反にはなりません。
保護される関係者の範囲拡大
前項で触れた法案の改正前は、通報者保護の対象は現役の社員に限られていましたが、改正後は退職から1年以内の退職者や取締役など役員も含まれるようになりました。
また保護の範囲も広がり、改正前は通報者に対する解雇や減給、降格などが禁止されていましたが、改正後は通報者に対する損害賠償請求も禁止となりました。
その他、通報可能な内容も一部変更があった点にも留意しましょう。具体的には、刑事罰にあたる行為だけでなく行政罰にあたる行為が追加され、懲役や罰金が科せられるような重大な犯罪だけでなく、過料の支払いで済む軽微な違反なども通報の対象となりました。
保護基準の緩和
会社内部への通報だけでなく、行政機関など外部に通報する際の通報者保護要件も改正されました。
以前の要件では、通報内容が事実であることを信じるに足る理由があることでしたが、この証拠が求められる要件では社員が情報を集めるのが難しく、通報のハードルが高まっていました。
改正後は上記の要件に加えて、
・違法や違反行為が生じている、もしくは生じようとしている旨
・通報者の氏名を記載した文書の提出
の2点が追加され、法案改正前よりも通報しやすくなりました。
また、マスコミへ通報する場合、重大な財産被害が起こりえる場合の通報や通報者が特定できる情報の漏洩の可能性がある場合の通報も保護の対象として追加されました。
内部通報制度の整備におけるポイント
ここまで、内部通報制度の有用性について言及しましたが、やはり導入するだけでなく制度が機能するための整備も非常に重要です。
そこで本項では、制度整備をする際のポイントを6点ご説明します。
・内部通報のための窓口の設置
・情報の揉み消しを避けるための内部通報窓口の独立
・秘密保持の厳守
・通報者が不利益になる取り扱いの禁止
・通報内容の公正な審査と調査
・社内制度の導入
内部通報のための窓口の設置
内部通報窓口は、組織内で不正行為を発見した社員が報告する専用の場所や窓口を指します。もし、この内部通報窓口がない場合、社員が不正を発見しても放置される可能性が高まります。
検知された不正をこぼすことなく吸い上げること、または設置による不正行為の抑止効果を目的に窓口の存在は極めて重要で、組織の健全性を保つことに繋がります。
実際に窓口を作る場合、通常は人事部や総務部、監査部などがその管理を担当しますが、社外に通報窓口を設けることも可能であり、その場合、法律事務所や窓口代行業者が通報先となります。
※社内と社外の窓口を併設することも可能です。
情報の揉み消しを避けるための内部通報窓口の独立
内部通報制度の整備では、内部通報窓口を経営陣を含む他の部門及び部署から独立させることが重要です。
企業内に窓口を設置するだけでは、通報対象となる企業自体が通報窓口となってしまい、内部通報の隠蔽が起こる可能性が高まります。
従って内部通報制度の導入には、特に経営陣から独立した窓口を設けることが重要であり、外部機関への委託や電話・メール・Webフォームなどの通報手段を提供することが有用でしょう。
秘密保持の厳守
内部通報制度の整備で特に重要なポイントは、通報者の情報保護です。
企業内で重要な事実を報告する通報者の情報が漏れると、上層部が通報を阻止するだけでなく、通報者に対する処罰も考えられます。
そのため内部通報制度の整備では、通報者の秘密保持を徹底することが不可欠です。
「通報者の情報は必要最小限にとどめ、適切に管理する」
「通報者の情報を開示する際には、通報者の同意を得る」
「通報者の特定を目的とした探索を禁止する」
などの内部通報規定を制定し、全社員に広報することが大切です。
通報者が不利益になる取り扱いの禁止
現在の公益通報者保護法では、通報者が不利益を被ることを禁止しています。具体的な不利益の例として、解雇命令や自宅待機命令、降格・減給、退職の強要、退職金の没収などが挙げられます。
この時保護対象になる範囲は、自社社員だけでなく外部からの派遣社員などにも拡大されています。
また、企業が通報によって損害を受けた場合に通報者に対する損害賠償訴訟を行うことは禁止されています。
通報内容の公正な審査と調査
内部通報窓口に通報が寄せられた場合、行為に正当な理由がない限り調査の必要性を検討し、必要であると判断した場合は、迅速に調査を進める必要があります。
例えば、通報の件数が少ない場合や内容が軽微な場合でも、検討しないという対処は公正性に欠けます。
もし仮に通報者が「通報しても対応してもらえない」と感じた場合、所属する会社を信頼できなくなる可能性があります。
通報者への対応を公正かつ誠実に行っていることを示すために、通報に対する検討状況や調査の進捗、改善措置などを通報者に伝えることをルール化しておくと良いでしょう。
社内制度の導入
上記の他、通報者の立場を保護するために社内制度を導入するという手段が挙げられますが、中でも社内リニエンシー制度についてご紹介します。
社内リニエンシー制度は、不正や違反などの行為を犯してしまった社員が自主的に内部通報した場合、該当社員の処分を減免する制度のことです。
この制度は独占禁止法に定められており、組織的な談合や企業同士の不正な協定などを自己申告すると課徴金が減免される仕組みです。導入することで自己申告による通報を奨励し、不正行為の早期発見を促すことが可能です。
但し、実施する際には通報の内容やタイミングに応じて処分の軽減レベルを明確に定めておく必要があります。
まとめ
この記事では、内部通報制度の目的やメリット・デメリット、内部通報制度の整備のポイントを中心に解説してきました。
対外的なレピュテーションリスクを軽減するためにも内部通報制度は導入するべきですが、導入で終わりではなく、導入後に制度として機能するように仕組みを整備することが非常に重要です。
本記事がベンチャーやスタートアップ企業の経営者、ガバナンス・内部通報制度に関する担当者の方のご参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。