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独立役員とは?定義・要件・役割・独立性の判断基準をわかりやすく解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
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「独立役員」という言葉を耳にすることが増えてきましたが、その役割や必要性、具体的な概念はどれほど理解しているでしょうか?
近年、経営の透明性の確保や企業ガバナンスの強化が求められる中で、独立役員の存在は非常に重要になってきています。
本記事では、独立役員の基本的な定義からその具体的な役割、選任方法、そしてIPOやJPXとの関連性について、わかりやすく解説します。
経営者から投資家、そしてビジネスパーソンまで、今を生きる私たちにとって知っておくべき重要な情報をお届けします。
目次
独立役員の概念とその必要性の解説
独立役員とは、企業の持続的な成長と株主価値の最大化を目指す上で、不可欠な存在です。
その重要性は、経営の透明性を高め、コーポレートガバナンスを強化する役割にあります。
まず、独立役員は企業経営において中立的な立場を保ちます。
これは、内部の経営メンバーにはない、企業の持続的成長を見据えた客観的な視点と判断をもたらすからです。
この中立性が、企業のリスク管理と価値向上に直結します。
たとえば、過去に起こった大手企業の不祥事を挙げることができます。
それらの不祥事は、独立した視点でのチェックが不足していた結果、未然に防ぐことができなかったケースが多いのです。
そこに独立役員がいれば、企業の健全な成長をサポートし、リスクを最小限に抑える手助けをするでしょう。
そう、独立役員は企業の良心であり、そして企業価値を高めるキーパーソンなのです。
彼らの存在が、企業の透明性と信頼性を保ち、持続的な成長へと導く重要なファクターとなるのです。
独立役員の定義と要件
独立役員の存在が、ますます企業経営に欠かせないものとなっています。
「独立役員」の役割とは、具体的にどのようなものなのか、その定義と要件、役割について、見ていきましょう。
独立役員とは
独立役員は、企業の健全な経営を支える重要なポジションです。
彼らは、内部の経営メンバーとは異なり、外部から客観的な視点で企業の経営を監視・助言する役割を担います。
独立役員は、経営陣や一般株主と利益相反のリスクが少ない「独立社外取締役」又は「社外監査役」を指し、企業の透明性と公正性を保つのが役割です。
具体的な活動例として、他の取締役と共に経営戦略の策定や重要な意思決定に参加し、企業の持続可能な成長をサポートする点が挙げられます。
次に、独立社外取締役と、社外監査役について詳細を解説します。
独立社外取締役とは
独立社外取締役は、企業の内外にわたるバランスを保つ役割があり、経営陣の決定に独立した立場で意見を提供し、経営の健全性を維持します。
たとえば、不適切な経営判断を未然に防いだり、コーポレートガバナンスを強化する活動を行ったりします。
これにより、株主やステークホルダーへの信頼の向上と、企業価値の向上を実現します。
社外監査役とは
社外監査役は、企業の経営を第三者的な視点で評価・監査する役職です。
具体的には、経営の業務監査や会計監査を行います。取締役に近いポジションで、その業務執行を監視し、不正があれば取締役の責任を追及することが役割です。
実例として、会計監査や内部統制の評価など、多岐にわたる業務を行います。
その活動が、株主や投資家に対する企業の信頼性を高め、長期的な企業価値の向上をサポートします。
選任要件と人物像
独立役員の選任要件と人物像は、企業のコーポレートガバナンスを具現化する上で極めて重要です。
彼らは、特定の利益に囚われず、公正で客観的な意見を企業経営に反映させる役割を持つため、高い倫理観と専門知識、そしてリーダーシップが求められます。
企業の不祥事を未然に防ぐために、独立した立場で経営を監視し、必要に応じては率直な意見をもって経営改善を促します。
だからこそ、独立役員の選任は、企業の持続的な成長と価値向上に向けての鍵となるのです。
独立役員の役割と責任
独立役員が果たす役割は多岐にわたり、それぞれが企業経営において非常に重要なポジションです。
ここでは、具体的にどのような役割と責任を担っているのか、その詳細を見ていきましょう。
経営方針・経営改善への助言
独立役員は、彼らが持つ豊富な経験と専門知識、そして企業経営からの独立した立場から、企業の経営の方針や改善に対して貴重な助言を提供します。
たとえば、社外取締役には、新しい市場に進出する際の戦略面や、既存のビジネスプロセスの最適化など、多角的な視点でのアドバイスが期待されます。
取締役会での意思決定への参加
また、独立役員は取締役会での意思決定にも参加し、そのプロセスをより健全かつ効果的なものにします。
その理由は、彼らが企業内部の業務に直接関与していないため、客観的かつ冷静な判断ができるためです。
具体例として、M&Aの際において、独立役員は企業価値を最大化する方向での意思決定に貢献し、企業の持続的な成長をサポートします。
独立役員には、企業利益が過度に犠牲にさらされていないか、株主の目線で監督する役割が求められています。
利益相反の監督とステークホルダーの意見の反映
さらに独立役員は、企業と各ステークホルダーの利益相反を適切に管理し、それぞれの立場からの意見をバランス良く反映させる役割も担います。
利益相反の調整は、企業の信頼性向上とブランド価値の保持に直結するため重要な業務です。
たとえば、株主と経営陣の間で利益相反が起こった際、独立役員が中立的立場でメディエーションを行い、公正な解決を図ります。
これらの役割と責任を果たすことで、独立役員は企業の経営を支え、その成長と発展を促進する存在と言えるでしょう。
独立性の判断基準
独立役員が真にその役割を果たすためには、「独立性」をどのように評価し確保するかが重要になり、それは一定のガイドラインに基づいて行われます。
「独立性」の判断基準については、東京証券取引所のガイドラインと企業ごとの基準を中心に解説していきます。
東京証券取引所のガイドライン
東京証券取引所は、独立役員の独立性を確保するための基準を明確に示しています。
これは、公平な経営が行われ、投資家の保護が確保されるための重要なステップです。
ガイドラインには、独立役員が企業との利益相反を避け、真に独立した意見を持って経営に貢献するための条件が詳細に記載されています。
たとえば、近年では特定の大株主との関係や役員の持ち株比率など、具体的な基準が設けられています。
企業ごとの独立性判断基準
一方で、東証の画一的なガイドラインだけでなく、企業ごとにも独立役員の独立性を評価する基準が設けられています。
企業ごとの独立性判断基準には、企業の業界特有の問題や、個々の企業が直面する具体的な課題を反映した、オーダーメイドの基準が含まれることがあります。
たとえばIT企業であれば、技術革新のスピードやデータ利用に関する倫理など、その業界特有の問題を鑑みた基準が設定され、独立役員の選出や評価が行われます。
これらのガイドラインや基準は、独立役員が企業の健全な経営をサポートし、ステークホルダーの信頼を得るための礎です。
適切に独立性が確保された役員が、企業の持続的な成長と価値向上に貢献することが期待されます。
独立役員の選任・採用方法
企業の経営において、独立役員の役割は非常に重要になるため、どのようにして自社にとって最適な独立役員を見つけ、採用するかが重要なポイントです。
以下では、そのための具体的な方法をいくつか紹介します。
・監査法人からの紹介
・ベンチャーキャピタル経由の紹介
・転職エージェントの利用
・社外役員マッチングサービスの利用
監査法人からの紹介
監査法人は、豊富な経験と専門知識を持つプロフェッショナルが集まっています。
これらの経験豊かな監査士から、適切な独立役員の候補を紹介してもらうことが、一つの有効な方法です。
彼らは、法令遵守やリスク管理などの観点から、企業にとって最適な人材を選定する手助けをしてくれます。
ただし、会計監査を依頼している監査法人に所属する人は独立性の観点から選任はできないので注意しましょう。
ベンチャーキャピタル経由の紹介
ベンチャーキャピタル(VC)経由の紹介もあります。
彼らは多くのスタートアップや成長企業と関わっており、幅広いネットワークとビジネスに対する深い洞察力を持っています。
そのため、企業のビジョンや戦略に合った、優れた独立役員を紹介してもらうことができます。
VCは出資して企業価値をあげ、キャピタルゲインを得ることビジネスモデルのため、出資先の企業の価値向上につながることであれば協力してくれることも多いので、VCに出資を受けている企業は、独立役員候補人材の紹介をお願いしても良いでしょう。
転職エージェントの利用
転職エージェントを利用すると、候補者のスキルや経験、キャリアなどの情報をもとに、企業のニーズにマッチする人材を効率的に探すことができます。
専門的なスキルや経験を持つプロフェッショナルを見つけ出し、適切なマッチングをサポートしてくれるため、採用のスピードとクオリティを向上させることが可能です。
社外役員マッチングサービスの利用
最近注目されているのが、社外役員マッチングサービスです。
このサービスを利用すると、企業のニーズに応じて、多様なバックグラウンドを持つ独立役員候補をオンラインで探すことができます。
柔軟かつ迅速に、幅広い候補から最適な人材を選び出すことができるでしょう。
以上のように、独立役員の選任・採用方法は多様です。
それぞれの方法には、一長一短がありますが、企業のニーズ、規模、業界特性などを考慮しながら、最適な採用方法を選ぶことが大切です。
IPOと独立役員
株式の公開(IPO)は、多くの企業が抱く大きな目標の一つです。
IPOに向けて準備している企業は、上場申請時に提出予定の「独立役員届出書」を申請書類として提出します。
また「Ⅱの部」内に、
・独立役員の構成の方針
・期待される役割を果たすための環境
・独立性基準への該当状況
・招集通知等における記載方針
等について記載します。
加えて、上場審査の中で、上記の内容への取り組みについて詳細に確認されます。
上場会社は、一般株主保護のため、独立役員を1名以上確保することが義務付けられているため、上場を目指す会社にとっては必須の人材です。
そして、企業が一度上場を果たした後も、独立役員の役割は終わらず、その重要性はより一層増します。
これは、上場企業としての社会的な責任や、投資家とのコミュニケーションが増えるためです。
独立役員は、企業のガバナンスを強化し、経営に対する投資家の信頼を維持する役割を果たします。
事実、多くの上場企業が独立役員のアドバイスをもとに、ビジネス戦略の最適化やコーポレートガバナンスの向上に努めています。
独立役員は、IPOだけでなく、上場後の企業経営においても、その価値と存在意義を発揮し続けます。
JPXと独立役員制度
日本の金融市場の中心である日本取引所グループ(JPX)の役割は、単なる取引の場を提供するだけでなく、市場の健全な成長と発展を促進することにもあります。
その一環として、独立役員制度が注目されています。
JPXにおける独立役員制度の概要
JPXは、企業の経営透明性と健全性を促進する目的で、独立役員制度の導入を推進しています。
これは、企業のガバナンス向上が投資家にとっても市場全体にとってもメリットであるという認識からです。
実効性向上に向けた取組み
しかし、ただ制度を設けるだけでは十分ではなく、その「実効性の向上」が求められています。
そのためJPXは、独立役員の役割や資格、そして選任プロセスについてのガイドラインを明確化し、その遵守を企業に求めています。
企業もまた、独立役員の資質や役割を再評価し、より実効性の高いガバナンスを目指して取り組んでいます。
たとえば、独立役員の教育や評価システムの見直し、役割の拡大などが行われています。
これらの動きは、企業価値の向上と投資家保護に寄与し、日本の金融市場の更なる発展を期待させるものです。
まとめ
この記事を通じて、独立役員の重要性とその役割、責任について深く掘り下げました。
企業の健全な経営と持続可能な成長には、経営の透明性と公正性が欠かせません。
それを支え、監視する存在として、独立役員の役割は非常に大切と言えます。
独立役員は、企業の経営に客観的な視点でアプローチし、ステークホルダーの利益を最優先に考え、そのためには、独立性と公正性が保たれた役員が求められるわけです。
独立役員の経営参画と客観的なアドバイスによって企業の価値を向上させ、投資家からの信頼を勝ち取る一助となります。
独立役員制度の成功のためには、彼らの役割と責任、選任基準などが明確で、実効性が保たれていることが必須です。
企業、投資家、市場全体が一丸となって、より良いガバナンスの実現に向かって努力を続ける必要があります。
それぞれの企業が独立役員制度を適切に運用し、ガバナンスの向上を図ることで、日本のビジネス環境と市場の信頼性がさらに高まり、持続的な成長が期待できるでしょう。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。