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従業員持株会とは?仕組みやメリット・デメリット|従業員は入るべきか?
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
これで失敗しない!
株式報酬制度の導入ガイド
近年、従業員持株会を採用する企業が増えています。
従業員持株会は福利厚生の一環として位置づけられる場合があり、企業の経営陣と従業員をつなぐ施策として注目されています。
この記事では、従業員持株会を導入するメリットやデメリット、また導入するにあたって考慮すると良いポイントをご紹介します。ぜひ参考にしてください。
目次
従業員持株会とは
従業員持株会とは、会社の従業員が自分の勤めている会社の株式を定期的に購入し、従業員の拠出金額に応じて持分を配分する制度のことです。「社員持株会」と呼ばれることもあります。
なお、企業に従業員持株会が採用されていても、従業員持株会への加入は従業員の任意とされています。
企業の経営陣は持株会に加入できません。従業員持株会への会員資格は、当該会社の「従業員」であることです。
持株会には、従業員を対象にした従業員持株会の他に、役員を対象にした「役員持株会」や、取引先を対象にした「取引先持株会」などがあります。
従業員持株会の仕組み
従業員持株会は、株式の取得費用として従業員の給与や賞与から定期的に一定額を拠出し、自分の会社の株式を購入します。持株会を通して購入した株式は「持株会のもの」であるため、従業員が直接保有するわけではありません。会員の従業員は、各々の拠出額に応じて報酬を得られる仕組みです。
また、従業員持株会は、官公庁へ届出を出す必要がありません。そのため一般的には「組合」という組織形態を導入しています。「組合」という組織形態をとるため、従業員持株会を設立するには設立発起人を決める必要があります。
従業員持株会の管理運営においては、一般的に社外の証券会社などに委託する場合が多いですが、管理運営を企業内に置くケースもあります。
従業員持株会は、民法に基づいて運営されている「組合」であるため、従業員の資産形成を支援する制度として、多くの場合上場企業で導入されています。
【従業員側】従業員持株会のメリット
従業員側から見た従業員持株会のメリットは主に以下の4つです。
・簡単に資産形成できる
・奨励金、インセンティブ制度の付与
・小額からの株式購入が可能
・配当金、キャピタルゲインの獲得
簡単に資産形成できる
従業員持株会のメリットの1つに、手軽に資産形成ができます。
給与の大半を使い込んでしまうなど、毎月拠出額を検討することが苦手な従業員でも、毎月一定の額が積み立てられていくため、簡単に資産形成できます。
また、業績によっては、配当金を受け取ることも可能です。
奨励金・インセンティブ制度の付与
「奨励金・インセンティブ制度の付与」も、従業員持株会のメリットの1つです。
奨励金は、従業員が自社株式を購入する際、企業が一定割合の額を上乗せし、その分だけ株式を多く購入できるものです。
例えば、
・1株500円
・毎月5,000円ずつ自社株購入
・奨励金が10%(5,000円×10%=500円)
の場合、購入できる株式数は【5,000円+500円(奨励金10%)】÷500円(1株あたり)=11株
です。
奨励金がなければ毎月10株購入のところ、奨励金によってさらに+1株買えるという仕組みです。従業員持株会を導入しているほとんどの企業が、この奨励金制度を採用しています。
また、企業によっては、奨励金制度ではなく「インセンティブ制度」を採用している企業もあります。インセンティブ制度とは、従業員のモチベーションアップのため、業績に応じて報酬が支給される制度のことです。
奨励金制度、またはインセンティブ制度を採用するにしても、個人で株式を購入する場合にはない特典があるため、従業員にとってはメリットです。
小額からの株式購入が可能
「小額からの株式購入」が可能なことも、従業員持株会のメリットの1つです。
通常の株式購入は、100株単位でしか購入できず、最低単元の株式を購入するには数十万円〜という費用が必要になります。
しかし、従業員持株会では「1株」から購入可能であるため、無理のない範囲で自社の株式を購入できます。一般的な従業員持株会では、最低拠出額が1,000円からであるため、従業員は高額を用意することなく、積立に近い感覚で財産を増やせます。
配当金・キャピタルゲインの獲得
他のメリットとしては、「配当金・キャピタルゲインの獲得」があります。
業績がよければ、持ち株数に応じて配当がもらえることもあります。従業員持株会で得た配当金をそのまま再投資することも可能です。また。キャピタルゲインとは、保有していた資産(株式)を売却することによって得られる利益のことです。
※ただし、通常は持株会で保有する株式を直接売却(現金化)することはできず、 売却する場合には取引口座を開設し、持株会から取引口座へ株式を引き出す必要があります。 取引口座への振替完了後、株式の売却が可能となります。
【企業側】従業員持株会のメリット
従業員持株会は、導入している企業にも大きなメリットをもたらします。
企業にとってメリットとなる事柄は、以下の4つです。
・福利厚生の充実
・安定した企業経営
・従業員のモチベーションアップ
・事業承継対策になる
福利厚生の充実
従業員持株会は、福利厚生の一環になり得ます。
例えば、従業員持株会で配当を出すことで、従業員は「配当金」として受け取ることが可能です。
現に、従業員持株会は企業独自の「法定外福利厚生」として位置づけられ、多くの企業で採用されています。福利厚生の充実は、対外的な評価や従業員の満足度に直結します。さらに、新規採用においても他社との差別化に繋がり、優秀な人材を確保しやすくなります。
安定した企業経営
市場で積極的に自社株式が売買されると、株価変動が大きくなり、資金調達にも影響が出てきます。
しかし、従業員が自社株式を長期保有してくれる従業員持株会が機能していれば、株式の流動性が低くなり、企業は安定した資金を確保しやすくなります。
また、従業員持株会が安定株主になることで、第三者から大量に自社株を購入される敵対的買収(TOB)への防衛策としても機能します。
従業員のモチベーションアップ
従業員持株会がもたらす企業側へのメリットに「従業員のモチベーションアップ」もあります。
企業の業績が良ければ、自社株の配当が上がり、株主である従業員への資産として還元されます。そのため、従業員持株会に加入している従業員は、より自社の業績動向に注意を払うようになり、株主として経営意識が高まるでしょう。
事業承継対策になる
事業承継対策になることも、従業員持株会を導入するメリットです。
多くの中小企業で問題になっているのが事業承継問題。株式取得費用は、株価×株式数なので、株価が高くなりすぎると、後継者が(事業承継のために)株式を取得をするために支払う対価も高額になり、特に現金支払いは非常に難しくなります。かといって、不正に株価を下げることも難しいため、株式取得費用を減らすためには、「株式数を減らす」必要があります。
そこで、株式保有者(オーナー)が、経営権に影響しない程度の株式数を従業員持株会に譲渡することで、実質的に次の後継者が取得する株式数を減らすことが可能です。
【従業員側】従業員持株会のデメリット
従業員持株会は、企業または従業員に大きなメリットをもたらす制度ですが、デメリットもいくつか存在します。
従業員側から見たデメリットについて、以下3つの要素をご紹介します。
・株主優待がない
・業績が悪化した時のリスクがあがる
・株式をすぐに売れない
株主優待がない
株式投資を行う目的はさまざまですが、その1つに株主優待を期待する人もいます。
例えば、企業は株主優待として、
・食事券
・カタログギフトによる商品
・自社商品の詰め合わせ
など、さまざまな優遇を用意しています。
しかし、従業員持株会では、株式を購入しても株主優待を受けられません。
なぜなら、従業員持株会における自社株の購入を、個人名義の証券口座ではなく、従業員持株会の名義で行っているためです。
業績が悪化した時のリスクがあがる
従業員側から見た従業員持株会のデメリットに「会社への依存度の増加」が挙げられます。
会社の業績が落ちた場合、株価も下落する可能性があり、そうなると会員である従業員の資産も減少します。また、会社の業績悪化は、従業員の給与や賞与にも影響を及ぼします。最悪の場合、会社が倒産してしまい、収入と資産の両方を失う結果にもなりかねません。
株式をすぐに売れない
従業員持株会に加入していれば、購入した株式は従業員個人の資産となりますが、普通預金のように必要な時に引き出せるわけではありません。
持株会で保有する株式を直接売却(現金化)することはできず、 売却する場合には取引口座を開設し、持株会から取引口座へ株式を引き出す必要があります。取引口座への振替完了後、株式の売却が可能となります。
つまり「今すぐ株を売りたい!」と思っても、そのタイミングで株式を売却することができません。
また、最低売買数量に達していない株式を現金に換えたい場合、従業員持株会を解約して買い取ってもらう手続きが必要になります。これにも時間がかかります。
さらに、インサイダー取引規制の観点にも注意が必要です。例えば、マイナスの決算情報を公開前に知っており、開示されたら確実に株価が下がる状況であっても、情報公開まで株式を売却することはできません。
上記のように、自分の望むタイミングで売却できないというデメリットがあります。
【企業側】従業員持株会のデメリット
企業側から見た従業員持株会のデメリットを紹介します。
デメリットを事前に理解しておくことで、従業員持株会への加入または導入をスムーズに検討できるでしょう。
従業員側から見た従業員持株会で考えられるデメリットは以下の3つです。
・会社支配権の低下
・配当問題
・インサイダー取引に該当する危険性
会社支配権の低下
従業員持株会の導入により、従業員のモチベーションは高まります。
一方のデメリットとして「会社支配権の低下」の懸念、つまり会社の経営者である取締役などの役員の支配権が弱まる恐れがあります。ここで言う「支配権」とは、一定以上の株式を所有する株主に許された決議権のことです。従業員持株会の会員である従業員の数が増えれば増えるほど、経営者陣の会社支配権は弱まります。
配当問題
従業員持株会の採用には、会社の業績が順調で良好な場合、従業員にとっても企業にとってもメリットがあり効果的です。
しかし、常に安定した状態で企業経営を行えることは難しいことが現状です。会社の業績が安定しない場合、会社の業績悪化に伴って無配当になってしまう恐れがあり、従業員のモチベーションも低下することになります。
一方、無理に配当を出そうとすると、会社のキャッシュフローは悪化してしまいます。
配当についても十分考慮した上で、従業員持株会の導入を検討する必要があります。
インサイダー取引に該当する危険性
従業員持株会の企業側から見たデメリットに「インサイダー取引に該当する危険性」があります。
インサイダー取引とは、企業の内部情報を知る役員、従業員などが、投資判断に重要な影響を与えるであろう未公表の事実を知り、公表前に株式を売買する不公正取引のことです。通常、従業員持株会を通して毎月定額買付を行うことはインサイダーには当たりません。しかし、事前に業績情報や、新規事業などに関わる情報など、企業経営における重要情報を知った上で自社の株式の買い増し/売却をした場合、インサイダー取引の対象になる可能性があります。
従業員持株会導入にあたって考慮するべきポイント
従業員持株会導入にあたって、事前に考慮する必要があるポイントがいくつかあります。
特に、従業員持株会を導入する前には、最低限以下の要素を考慮することをおすすめします。
・持株会の株式の保有比率
・奨励金の支給
・配当金の基準についての明確化
・従業員退職時の株式の買取り価格
持株会の株式の保有比率
企業側は、会社の株式を自社の従業員が取得した場合の「従業員の権利」について理解しておくことが必要です。
従業員に付与される権利は、自社の株式の持株数に応じて異なります。
たとえば、
・従業員が所有する株式が1株の場合:従業員に付与される権利は「株主代表訴訟、議事録閲覧
・従業員の株式の保有比率が3%以上の場合:従業員に付与される権利は「株主総会の開催、帳簿の閲覧」
実際、持株会が企業経営に大きな影響を及ぼすことは少ないですが、安定的な企業経営を保持するためには決議権をなくし、配当を優先する株式だけを購入するなどの施策が必要でしょう。
奨励金の支給
企業側は従業員持株会で支給される奨励金の比率に関して、あらかじめ検討しておく必要があるでしょう。
そもそも奨励金の支給を行うのかを決め、奨励金の支給比率を設定します。奨励金支給の有無は、会員である従業員にとってモチベーションになり得るため、慎重に検討したい事柄の1つです。
配当金の基準についての明確化
企業側は、従業員持株会の導入に関して「配当金の基準についての明確化」を考慮します。配当金によって、従業員の従業員持株会への加入を促進し、従業員持株会のスムーズな運営に大きく影響します。企業の他の既存株主への影響も検討しながら、配当金の支払基準を明確化する必要があります。
従業員退職時の株式の買取り価格
会員が会社を退職した場合には、従業員持株会も自動的に退会するよう規約で決めておくべきでしょう。また、従業員の退職時に、株式の買取り価格をどうするかについても事前に決める必要があります。
上場企業の場合、従業員の退職時に自社の株式を個人名義に書き換え、個人口座に移します。希望があれば、市場で株式を売却することも可能です。
しかし、未上場企業の場合、一般的には従業員持株会が株式を買い取ることになります。そうなると、事前に従業員持株会がどのような条件で株式を買い取るかを決めておかなければなりません。
株式の買取価格は、取得価額と同額にすることが一般的です。万一、株式の買取価格を「退会(退職)時の株式の時価」にしてしまうと、時価の計算法を時価純資産法にするのか、DCF法にするのか、類似会社比準法にするのかなど複雑になり、想定外に高額で買取する必要がある場合もあります。
そのため、従業員退職時の株式の買取価格はシンプルに「取得価額と同額」にしておくことをおすすめします。
まとめ
この記事では、従業員持株会を導入するメリットやデメリット、また導入するにあたって考慮すると良いポイントをご紹介してきました。
従業員持株会の導入は、従業員に対してだけでなく企業にも大きなメリットを及ぼします。
しかし、従業員持株会の持株数が増加すると決議権が発生するため、企業経営の不安定化を招く恐れもあります。
従業員持株会への積極的な加入を促すためにも、あらかじめルールを明確化することをおすすめします。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。