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ダウンラウンドとは?ダウンラウンドを避ける方法・最新事例・希薄化防止条項についても解説

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

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IPOをする企業では、一般的に上場前から上場後にかけて企業価値が上昇します。多くの投資家がIPOする企業の今後のさらなる価値の上昇を期待して、第三者割当増資の公募が行われ、株式が市場に流通していきます。

最近は、増資時の企業価値から上場時に企業価値が下がってしまう「ダウンラウンド」という現象が起きることもあります。今後も成長を続けていくスタートアップにとって、企業価値が下がることは避けていきたいところです。

そこで、本記事ではIPOを考えている企業に向けてダウンラウンドとは何か・ダウンラウンドの問題点と原因・希薄化防止条項・スタートアップ企業がダウンラウンドを回避する5つの方法についてまとめていきます。

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ダウンラウンドとは

ダウンラウンドとは、スタートアップ企業・ベンチャー企業などの上場時の株価が上場前の資金調達時の株価よりも下回ることをいいます。

一般的に、企業が上場するとその株価は前回増資した時点よりも増加することが多いです。しかし、ダウンラウンドでは上場した企業のバリュエーションが下がっているので、投資家は企業の経営に関して外部環境か内部環境に何かしら問題が発生したか、などを考えます。

ダウンラウンドが孕む問題点

スタートアップ企業・ベンチャー企業にとって、ダウンラウンドは社内だけでなく社外にも影響を与えます。ダウンラウンドによって従業員の士気を下げてしまったり、顧客・パートナー企業に「なぜ、前回の資金調達時よりも企業価値評価が下がってしまったのか」と不安を与えてしまうかもしれません。

大きく2点にまとめるとダウンラウンドは次のような問題点を引き起こす可能性があります。
・IPOした企業の成長性の危惧
・既存株主の持ち株比率の低下
それぞれ説明していきます。

IPOした企業の成長性の危惧

資金調達時に企業の評価額が前回よりも下落していると、第三者は「この企業が属する市場で環境の変化があったのだろうか」「社内のサービスを支えるエースエンジニアが退社したのだろうか」といった企業の成長の阻害要因について危惧してしまうかもしれません。

これによって、顧客やパートナー企業との契約に悪い影響が出たり、投資家からの資金調達が難しくなってしまう可能性もあります。

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既存株主の持ち株比率の低下

ダウンラウンドに伴い、希薄化防止条項(※後ほど説明)が発動されることで既存の株主の持ち株比率が大きく低下してしまう可能性があります。

スタートアップ企業やベンチャー企業では、創業者が過半数の株式を所有していることが多いことが想定されますが、希薄化防止条項によって過半数の株式を所有していた者が株主総会での議決権を失ってしまう恐れがあります。これによって、経営権が不安定になってしまうので資本政策を再検討することも視野に入れる必要があります。

資本政策については、こちらの記事もご参照ください。
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ダウンラウンドが起きる要因

ダウンラウンドが起きる原因は、さまざまな事柄が考えられますが大きな枠として「外的環境の変化」と「内的環境の変化」があります。それぞれに分けて説明していきます。

外的環境の変化

IPOをした企業から見た外的環境の変化として以下のようなものがあります。
・金融危機などによる市場動向の悪化
・コロナ禍やエネルギー価格の高騰などによる投資環境の悪化
・これまでの資金調達の時に与えられた見立て以上に高い企業価値評価

内的環境の変化

IPOをした企業から見た内的環境の変化として以下のようなものがあります。
・オフィスの移転
・役員および従業員の退社
・大口顧客との契約解除やパートナー企業との関係解消

ダウンラウンドと希薄化防止条項

希薄化防止条項はダウンラウンドにおいて、重要な役割を果たします。この希薄化防止条項は、第三者割当増資によって既存の株主の持ち株比率が低下することを防ぐものになります。

第三者割当増資については、こちらの記事もご参照ください。
第三者割当増資とは?目的・メリット・デメリット・事例について解説

ダウンラウンドでは、前回の資金調達時よりも株価が下がったままで株式を発行しますが、必要な資金を調達するためには、株式を想定よりも多く発行する必要があります。また、一般投資家が株式を購入することで、既存の株主の持ち株比率が低下し、株主総会での権利や配当などの面で不利益が生じる可能性があります。

この株式の発行数の増加による既存の株主の持ち株比率の希薄化を防ぐために、希薄化防止条項が発動され、既存の投資家の持ち株数が増加するように調整されます。結果として、既存の投資家に不利益が起こらないようになります。

次に、希薄化防止条項について「ラチェット方式」と「加重平均法」について説明していきます。

ラチェット方式

ラチェット方式とは、前回の第三者割当増資の時の株価からダウンラウンド時の株価に転換価額に変更するという方法です。

転換の際に、株価の下がり幅が大きいので既存の株主の持ち株比率が低下しやすい傾向にあるので、新規に参入する投資家側にとって有利という特徴があります。したがって、IPOをする企業の価値評価が高くなっており、ダウンラウンドのリスクが高い場合にこの方式を活用するとよいでしょう。

加重平均法

加重平均法とは、発行済みの株式の株価とダウンラウンドの時の株価を加重平均(値の重みを加味した平均)して算出する方法です。

ラチェット方式と比べて、株式転換時の株価の下がり幅が小さく、既存の株主の持ち株比率の低下を抑えることができるので既存株主にとって有利という特徴があります。

加重平均法では次のような式を用いて、株式あたりの価格が計算されます。

(既発行株式数 × 調整前取得価格 + 新発行株式数 × 1株あたり払込金額)/(既発行株式数 + 新発行株式数)

ダウンラウンドの具体例

例えば、創業者Aが発行株式1000株、設立資本金10,000,000円で創業したスタートアップXを想定します。最初の株価は「10,000円」(10,000,000円 ÷ 1,000株)です。

初回の資金調達で、エンジェル投資家Bが評価額100,000,000円で100株を受け取り、10,000,000円を投資した場合、株価は「100,000円」(100,000,000円÷1,000株)に上昇し、創業者Aの持株比率は約90.9%(1000株÷(1000+100))になります。

次の資金調達で事業が思うように進まず、ベンチャーキャピタルCから1株「50,000円」で5,000,000円の投資を受け入れる形で100株を発行しました。

希薄化防止条項がない場合、創業者Aの持株比率は約83.3%(1000株÷(1000+100+ 100))まで低下します。これにより、エンジェル投資家Bも希薄化の影響を受け、ベンチャーキャピタルCが株を市価の半額で購入することによる不公平感が生じます。

ラチェット方式を適用した場合、エンジェル投資家Bの株式数が新たに「200株」に修正され、結果としてその持株比率は約15%(200株÷(1000+200+100))に上昇します。これにより、創業者Aの持株比率は76.9%まで低下します。

加重平均法を採用した場合、エンジェル投資家Bの株式数は新たに計算され、「104株」となります。その結果、創業者Aの持株比率は83.0%までの低下に留まります。この計算によって、経営者と投資家間のバランスがより公平に保たれます。

スタートアップ企業がダウンラウンドを回避する5つの方法

ここまで説明してきた通り、スタートアップ企業・ベンチャー企業にとってダウンラウンドはどうしても避けたいことです。このダウンラウンドを避けるために、Coral CapitalのCEOであるJames Rineyは次の5つの方法を提案しています。

・総合的に低い企業価値評価の創出
・デットファイナンスによる資金調達
・ブリッジファイナンスの活用
・ダウンサイド・プロテクション
・有料コンテンツ・サービスの前払い

それぞれについて説明していきます。

総合的に低い企業価値評価の創出

15年ほど前に、アメリカのFacebookは150億ドルの企業価値がありましたが、その2年後に100億ドルのバリュエーションでDigital Sky Technologies(投資ファンド)から資金調達を行いました。2年前に比べるとダウンラウンドでの資金調達に見えますが、これには「65億ドルのバリュエーションでFacebook社員が保有する1億ドルの株式をDigital Sky Technologiesが買い取る」という条件もつけられていました。

この条件は、当時マクロ経済環境(リーマンショック)が悪化していたこともあり上場計画が中止となっていたFacebookの社員としては株式を現金化したいという気持ちが強く、関係者全員からすれば喜ばしいことでした。

Facebook社の事例から次の2点が重要であることがわかります。
・市場に対する投資家の感情(総合的な態度)の変化によるダウンラウンドは避けられない
・既存株主から買い取った株式を合わせて新規投資家に向けて低いバリエーションを創出できる

この方法によって、企業の低いバリュエーションをこれから参入してくる投資家に提供しつつ、ダウンラウンドを避けながら次の第三者割当増資でバリュエーションが上がることを狙いましょう。

デットファイナンスによる資金調達

金融機関からの借入による資金調達をすることで自社の状況を改善することができます。この借入金を事業に活用し、上場を先延ばしにすることでダウンラウンドを避けるという選択肢を取ることができます。

日本政府も「スタートアップ立国戦略」を打ち出して、次のような目標を掲げました。
・国内のベンチャー投資額を10兆円規模へ(2021年度:8200億円)
・ユニコーン企業を100社、創出する(時価総額1000億円以上の未上場企業)
・スタートアップを10万社、創出する

この政府目標の後押しもあり、金融機関もスタートアップ企業への融資に意欲的になっている感が伺えます。

デットファイナンスについては、こちらの記事もご参照ください。
デットファイナンスとは?種類/メリット・デメリット/事例について解説!

ブリッジファイナンスの活用

ブリッジファイナンスを利用して資金調達をする事業家は、大きな資金調達の前の「橋渡し」になるような資金調達をします。ここでの資金調達は、ラウンドAやラウンドBのような資金調達のラウンドとしないことでバリュエーションを温存するべきでしょう。

ここで活用すべきなのが、J-KISS(シード投資のための投資契約書)です。このJ-KISSを活用することで投資の際の複雑な条件の交渉やバリュエーションを決定せずにブリッジファイナンスによる資金調達をすることが可能となります。

J-KISSにはキャップ(上限)が設けられていますが、企業がこのキャップより低いバリュエーションをつけられる場合にダウンラウンドとされてしまいます。この問題を解決する手法として、契約条件からキャップを除く代わりに契約相手が買いたいと思えるような割引条件をつけることが挙げられます。

キャップをなくしたブリッジファイナンスを企業に提供する代わりに、次の増資ラウンドにて投資家は割引条件のついたバリュエーションで株式に転換することができます。しかし、キャップのない株式は投資家が避ける傾向にあるので、新規の投資家に対して呼びかけを行う前に既存の株主の様子を探ってみるのも良いかもしれません。

資金調達のラウンドについては、こちらの記事もご参照ください。
シリーズAとは? 定義・資金調達額・各資金調達方法のメリット/デメリットを徹底解説!
シリーズBとは?定義・資金調達額・各資金調達方法のメリット/デメリットを解説!

ダウンサイド・プロテクション

市場に対する投資家の感情が悪化していくことで、投資家はダウンサイド・プロテクションを検討します。ひるがえって、企業側はダウンラウンドを避けたいので投資家側の投資リスクを抑えるための条件を検討します。

その中には、希薄化防止条項やドラッグ・アロング・ライトといった条件があります。これらの条件によって、ダウンラウンドを避けた高いバリュエーションでの資金調達が期待されます。しかし、1回でもラウンドの中で条件を設けてしまうと次回以降の調達ラウンドで同じ条件を求められてしまうこともありうるので注意が必要です。

ダウンサイド・プロテクションの条件が複雑になってきた場合は、ダウンラウンドを受け入れた方がいいと進めるVCもいます。

有料コンテンツ・サービスの前払い

企業の成長性を示す指標の1つとして売上高があります。有料コンテンツ・サービスへの前払いをすることで売上高を確保することができます。サービスへの対価を現金で確保することで、組織の強化や宣伝広告への投資や新事業を立ち上げたり、ダウンラウンドを避けるための施策を打つことが可能になります。

ただし、有料コンテンツへの前払いは、SaaSやサブスクリプション型の事業モデルでないと難しいところがあります。自社のビジネスモデルが前払い可能なものであるかどうかを検討する必要があります。

ダウンラウンドでIPOをした企業の事例

ここ最近で上場を前にして、ダウンラウンドしてしまった以下の事例を取り上げていきます。
・株式会社プログリット
・株式会社トリドリ
・note株式会社

株式会社プログリット

ハイクラスなビジネスパーソン向けに英語学習サービス「プログリット」を提供する株式会社プログリットは、2022年9月29日に東京証券取引所グロース市場へ上場しました。

2017年の売上高約1億円から2022年にかけて、22億円にまで増加しました。経常利益は2018年と2021年に赤字で、直近は3億2400円の利益になりました。

プログリットには、元サッカー日本代表の本田圭佑氏や元FiNC・元WEINの創業者溝口勇児氏、元USEN-NEXTホールディングス取締役副社長の島田亨氏といった個人投資家から資金調達を行ってきたという特徴があります。

株式市場の冷え込みと投資家のスタートアップへの投資意欲が下がってしまったために、想定時価総額28億円とダウンラウンドでのIPOとなりました。

売上高 経常利益
2017年8月 1億568万円 2574万円
2018年8月 6億9279万円 – 1億4579万円
2019年8月 17億1134万円 1億3109万円
2020年8月 21億8307万円 1億2856万円
2021年8月 19億8110万円 – 4691万円
2022年8月 22億5280万円 3億2400万円

株式会社トリドリ

インフルエンサーマーケティングプラットフォーム「toridori base」を提供する株式会社トリドリは、2022年12月21日に東京証券取引所グロース市場へ上場しました。

2017年の売上高は2.3億円で年々増加し、2021年には10.5億円になりました。経常利益は、2019年に入り赤字傾向になっています。

直近のラウンドでの評価額は87.3億円でしたが、IPO想定時価総額は45.5億円と半分近いダウンラウンドとなりました。

売上高 経常利益
2017年12月 2億3220万円 1720万円
2018年12月 2億7878万円 1711万円
2019年12月 3億7755万円 – 3975万円
2020年12月 5億6446万円 – 1億7959万円
2021年12月 10億5786万円 – 4億436万円

note株式会社

文章・写真・イラスト・音楽・映像などの作品を配信するメディアプラットフォーム「note」を提供するnote株式会社は、2022年12月21日に東京証券取引所グロース市場へ上場しました。

2017年の売上高2億円から2021年にかけて、9倍もの18億円にまで増加しました。経常利益は常に赤字で、直近は4億円の損失になりました。

資金調達した時の時価総額337億円から想定時価総額44.5億円までダウンラウンドしてしまいました。

売上高 経常利益
2017年11月 2億1086万円 – 1億3536万円
2018年11月 5億2553万円 – 7728万円
2019年11月 7億9112万円 – 2億9888万円
2020年11月 15億2317万円 – 2億7038万円
2021年11月 18億8414万円 – 4億3347万円

まとめ

いかがだったでしょうか。

本記事では、IPOを考えている企業に向けてダウンラウンドとは何か・ダウンラウンドの問題点と原因・希薄化防止条項・スタートアップ企業がダウンラウンドを回避する5つの方法について解説をしました。

本記事が上場を目指しているスタートアップ・ベンチャー企業の経営者の方の参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。