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コンフォートレターとは?役割・記載事項・経営者が確認する事項も解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
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IPO準備企業は主幹事証券会社による引受審査を受ける必要があります。
そこで、引受審査を行う主幹事証券会社は、監査人からコンフォートレターと呼ばれる書類を受け取ることで、引受審査の対象である、募集または売出しに係る有価証券届出書に記載された財務情報について正確性や財務情報の事後の変動に係る確認を行います。
本記事では、
・コンフォートレターの役割
・コンフォートレターの記載事項
・コンフォートレターの文例
について詳しく解説を行っていきます。
IPOについて、次の記事もご参照ください。
⇒ベンチャー企業がIPOする意義はあるのか?上場のメリット・デメリット
⇒IPOの準備スケジュール|直前前々期から申請期まで解説
⇒上場の条件とは?上場基準・上場までの流れ・上場のポイントを徹底解説!
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目次
コンフォートレターとは
コンフォートレターとは、主幹事証券会社の依頼に基づき、有価証券届出書等に記載されたIPO準備会社の財務情報及びその後の変動について調査した結果を監査人が主幹事証券会社に報告するためにまとめた調査報告書のことをいいます。
有価証券の引受け等に関する規則の第12条第5項に定められているように、主幹事証券会社は、監査人からコンフォートレターを受け取り、引受審査の対象となる募集または売出しに係る有価証券届出書に記載された財務情報の正確性や、財務情報の事後の変動に係る確認を行わなければなりません。
コンフォートレターの記載事項や内容等は「監査人から引受事務幹事会社への書簡」要綱に基づいて作成されます。
主幹事証券会社については、こちらの記事もご参照ください。
⇒主幹事証券会社とは?役割・選び方・変更について解説
⇒IPOにおける主幹事証券会社の役割|引受審査や選び方についても解説
⇒IPOにおける主幹事証券会社の選び方|主幹事選択の事例と証券会社について解説
コンフォートレターの役割
金融商品取引法第17条・21条において「証券会社は、元引受を行う金融商品取引業者あるいは目論見書使用者として、虚偽記載を知らず、かつ相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったことを証明できなければ、虚偽記載のある目論見書又は有価証券届出書(以下、「届出書等」という)について、発行体と共に損害賠償の責任を負わなければならない」と定められています。
そこで、財務の専門家であり発行体により近い立場にもある監査人により作成されたコンフォートレターは、証券会社が「相当の注意」を払ったことを証明するものとしての役割があります。
具体的にコンフォートレターが担保している内容は以下の3つの項目になります。
(1) 届出書等に記載されている監査済財務諸表に関する信頼性
(2) 届出書等に記載されている非監査項目の信頼性
(3) 事後変動内容の確認
コンフォートレターの記載される事項
コンフォートレターに記載される事項は以下の項目になります。
(1) 日付、宛先及び打切日
(2) 書簡の前文
(3) 届出書等に含まれている監査報告書等に関する記述
(4) 調査事項、実施した調査手続及び調査結果に関する記述
(5) 事後の変動の調査とその結果に関する記述
(6) 調査手続の十分性に関する記述
(7) 書簡の目的と利用制限に関する記述
(8) 発行会社と監査人との間の利害関係に関する記述
それぞれの項目について詳しく解説を行っていきます。
監査法人・主幹事証券会社については、こちらの記事もご参照ください。
⇒IPOにおける監査法人の役割とは?監査法人を選ぶポイントも解説!
日付・宛先・打切日
日付・宛先・打切日を記載します。
コンフォートレターの日付は、払込期日または受渡期日の前日(休日の場合は1日繰り上げる)を記載します。宛先は、発行会社および引受事務幹事会社の各社長の連名で記載を行います。
また、打切日とは引受事務幹事会社に対する監査人の責任の時間的限界を示す日のことであり、打切日までの事項を対象に、監査人は調査手続きやコンフォートレターへの記載を行います。そのため、打切日の翌日以降から払込期日までに生じた事項については、監査人は責任を負うことはありません。
打切日は、通常、原則として払込期日又は受渡期日の前7日以内とされている。そのため、監査人は、重要な子会社の議事録の閲覧等の調査の実施可能性も勘案して、打切日について発行会社及び引受事務幹事会社との間で取り決めておかなければなりません。
前文
前文では、上場申請を行う会社の有価証券届出書に関連して、監査法人が、上場申請を行う会社の同意を得て引受事務幹事会社から依頼された事項についての報告である旨の記載を行います。
届出書等に含まれている監査報告書等に関する記述
届出書等に監査済の監査報告書や四半期レビュー済の四半期レビュー報告書が含まれている場合には改めてその旨の記述を行うことはせず、監査済の事業年度または、四半期レビュー済の四半期会計期間後の財務諸表等の監査等は、打切日現在では終了しておらず現在実施中であるため、監査意見等の表明ができないことの記述を行います。
調査事項、実施した調査手続及び調査結果に関する記述
調査事項や実施した調査手続及び調査結果に関する記述を行います。
ここで、監査人は、届出書等に記載されている財務諸表等以外の財務情報のうち、引受事務幹事会社から依頼される調査事項に関して、監査の対象となる会計記録等に関係していない事項を調査事項としてはならず、 調査事項として良いものは、内部統制の管理下にある資料等から入手された情報や、株主総会議事録及び取締役会議事録並びに契約書等によって直接確かめることができる情報となっています。そのため、従業員数、生産計画、土地建物の面積などの項目は、財務情報ではないため調査事項としてはいけません。
事後の変動の調査とその結果に関する記述
新規証券の発行時における発行会社の財務状況等は、新規証券発行の条件に影響するため、監査人は、引受事務幹事会社から、事後の変動についてコンフォートレターに記載することを依頼されます。
書簡の作成に際しては、通常、事後変動の認識期間又は事後の変動を把握するための期日において、特定の財務項目が「減少」したかどうか(財務項目が長期借入金等の場合には「増加」したかどうか)の記載を行います。
調査手続の十分性に関する記述
コンフォートレターを作成するに当たっての調査事項や調査手続き、また、コンフォートレターに記載される内容は基本的には監査人ではなく、調査を依頼する引受事務幹事会社が選ぶものになります。
そのため、コンフォートレターには、実施した調査手続が引受事務幹事会社の目的を達成するために十分であったかどうか、また、調査事項について、その記載内容が妥当であるかどうか、法令等の定めるところに適合しているかどうか、届出書等の開示状況が十分であるかどうか、又は、重要な事実の開示が省略されていないかどうか等について、監査人は意見を述べる立場にないという旨を記述しなければなりません。
また、監査人が実施した監査等における意見表明や、結論の表明についての説明および調査手続は監査手続または、四半期レビュー手続ではないことも記載を行います。
書簡の目的と利用制限に関する記述
コンフォートレターは、届出書等に記載されている新規証券の発行等に関連して、引受事務幹事会社が実施する調査に役立てるための資料を提供する目的でのみ使用され、それ以外の目的のために使用してはならない旨の記載を行います。
これに加えて、いかなる文書にも、コンフォートレターの全部または一部を引用、転載してはいけないことや、複製または、他言語への翻訳をしてはいけない旨の記述をしなければいけません。
発行会社と監査人との間の利害関係に関する記述
発行会社と監査人との間に利害関係を有していないことの記載も行います。
引受事務幹事会社は、コンフォートレターの作成が発行会社と利害関係のない第三者である監査人に依頼されていることや、監査報告書等に発行会社と監査人との間に利害関係がないことが記載されていることから、発行会社と監査人の間には利害関係がないことは分かっていますが、コンフォートレターの重要性に鑑みて、利害関係がないことを改めて確認するために、コンフォートレターにおいても監査人が発行会社との間に利害関係を有していない旨の記載を行うことが定められています。
経営者確認書
経営者からの書面による確認のうちの、監査人が監査意見の表明に当たって入手する経営者による確認書を経営者確認書といいます。
経営者確認書の目的には、財務諸表の作成責任が経営者にあることを確認することや、監査人が必要とする資料がいかなる制約もなく経営者から監査人に提供されたことを確認することなどがあります。
日本公認会計士協会は2016年3月23日に、監査・保証実務委員会報告第68号「監査人から引受事務幹事会社への書簡について」の改正案の公表を行いました。
この要綱において、書簡の文例や経営者確認書の文例の整理が行われました。
ここでは、要綱に整理された、経営者確認書の文例の紹介を行います。
書簡に関する経営者確認書の標準的な文例
[文 例]
当社が平成 年 月 日付けをもって〇〇財務局長に提出しました有価証券届出書(添付書類及び平成 年 月 日提出の訂正届出書を含む。)について、貴殿が引受事務幹事会社に提出する書簡に関連して、下記のとおり確認いたします。
1.届出書に記載されている会社の平成〇年〇月〇日から平成〇年〇月〇日までの連結会計年度の連結財務諸表及び事業年度の財務諸表、並びに平成 年 月 日から平成〇年〇月〇日までの連結会計年度の第□四半期連結会計期間(平成〇年〇月〇日から平成〇年〇月〇日まで)及び第□四半期連結累計期間(平成〇年〇月〇日から平成〇年〇月〇日まで)に係る四半期連結財務諸表について、当該監査報告書(又は四半期レビュー報告書)の日付現在の状況において、当該連結財務諸表、財務諸表及び四半期連結財務諸表の訂正を必要とする事項は、平成〇年〇月〇日(打切日)現在生じておりません。
2.当社は、(届出書に記載されている平成〇年〇月〇日から平成〇年〇月〇日までの連結会計年度の第□四半期連結会計期間(平成〇年〇月〇日から平成〇年〇月〇日まで)及び第□四半期連結累計期間(平成〇年〇月〇日から平成〇年〇月〇日まで)に係る四半期連結財務諸表を除いて、)平成〇年〇月〇日(前連結会計年度末日)の翌日から、平成〇年〇月〇日(打切日)までの期間又はどのような日現在の連結財務諸表、財務諸表及び四半期連結財務諸表を作成しておりません。
3.当社は、貴殿から要請のあった会計記録及びそれらに関連する資料を全て提供いたしました。
4.平成〇年〇月〇日(前連結会計年度末日又は四半期連結会計期間末日)の翌日から平成〇年〇月〇日(直近の月次連結財務諸表の月末日付)までの期間及び前年度の同一期間の月次連結財務諸表は、連結会計年度の決算と同一の会計処理の原則及び手続に準拠し、全ての決算整理事項(連結手続を含む。)について実質的に同一の方法により作成したものであります(注1)。
5.引受事務幹事会社より、書簡に記載することを要求された以下の事項について、次のとおり確認します。
(例)
(1) 平成〇年〇月〇日(前連結会計年度末日又は四半期連結会計期間末日)の翌日から平成〇年〇月〇日(打切日)までの期間の売上高及び当期純利益は、前年度の同一期間と比較して、減少しておりません。
(2) 平成〇年〇月〇日(打切日)現在の純資産は、平成〇年〇月〇日(前連結会計年度末日又は四半期連結会計期間末日)現在の純資産と比較して、減少しておりません。
(注1)総括的手続結果を付さない場合には、記載を要しないことに留意する。
(注2)総括的手続結果を付さない場合には、例えば以下のような文例を追加することを考慮する。
「(1) 会社の平成〇年〇月〇日の翌日から平成〇年〇月〇日までの期間及び前年度の同一期間の月次連結財務諸表は作成されていません。
(2) 会社の平成〇年〇月〇日の翌日から平成〇年〇月〇日までの期間及び前年度の同一期間の月次連結試算表は、事業年度の決算に必要な手続を適用して作成されたものではないが、両者は同一の基準に従って作成されたものであります。」
財務諸表等以外の財務情報に係る調査結果報告書に関する経営者確認書の文例
[文 例]
当社が平成 年 月 日付けをもって〇〇財務局長に提出しました有価証券届出書(添付書類及び平成〇年〇月〇日提出の訂正届出書を含む。)について、貴殿が引受事務幹事会社に提出する書簡に関連して、下記のとおり確認いたします。
1.会社の平成〇年〇月〇日から平成〇年〇月〇日までの連結会計年度の連結財務諸表及び事業年度の財務諸表並びに平成〇年〇月〇日から平成〇年〇月〇日までの連結会計年度の第□四半期連結会計期間(平成〇年〇月〇日から平成〇年〇月〇日まで)及び第□四半期連結累計期間(平成〇年〇月〇日から平成〇年〇月〇日まで)に係る四半期連結財務諸表について、当該監査報告書(又は四半期レビュー報告書)の日付現在の状況において、当該連結財務諸表、財務諸表及び四半期連結財務諸表の訂正を必要とする事項は、平成〇年〇月〇日(報告書提出日)現在生じておりません(注1)。
2.当社は、貴殿から要請のあった会計記録及びそれらに関連する資料を全て提供いたしました(注1)。
(注1)Ⅲに文例として示している書簡に関する経営者確認書において省略できないことに留意する。
(注2)会計記録及びそれらに関連する資料を詳細に記載することを妨げない。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回はコンフォートレターの役割、記載内容について解説しました。
現在スタートアップ・ベンチャー企業を経営していてIPOを目指されている方、IPOに向けた準備をされている方にとって参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。