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減資とは?税務的なメリットや信頼度におけるデメリットについて解説!

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

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減資と聞くと、資本金が減るというイメージを漠然と持っておられる方も多いことでしょう。

大企業が行うことで注目されることの多い減資ですが、本来の意義は一体なんでしょうか?

この記事では、減資の概要と効果、手続き、メリット・デメリットまで分かりやすく解説します。

減資とは?

減資とは、会社の資本金を減らす手続きです。

株主や投資家から集めた資金を元手に会社は事業を拡大するための施策を行ったり、新たに事業を立ち上げたりするものですが、経営戦略上、この資金を減らす必要が生じるケースがあります。

しかし、この資本金を扱う経営者には会社経営や新規事業の創出という目的と責任があるため、ただ株主に返却したり許可なく別の用途に使用することはできません。

そこで、資本金の名目を帳簿上で変更し、資本金以外の用途に使用できるよう手続きを行います。

減資は、基本的に株主総会での特別決議や債権者保護手続きを必要とし、経営者の独断で減資の手続きを始めることはできません

後述しますが、欠損補填金の金額を超過しない範囲での減資の場合、株主総会の普通決議で手続きできるという条件付きの減資も存在します。

いずれにしても、減資は基本的には会社の財務状況を改善するために行うもので、経営状態が健全であれば基本的には必要ありません。

赤字でないのに減資を行う場合、会社の規模に見合う資本を調整し、節税や配当で資本の無駄な動きを減らすなどの目的があります。

企業が減資をするに至る理由

企業が減資を実行する理由には、財務上あるいは税制上の目的が挙げられます。代表的な次の3つの理由を解説します。
・累積赤字の補填のため
・自社株主への配当のため
・節税のため

累積赤字の補填のため

賃借対照表の資本金と繰越欠損金を相殺して赤字分を補填することで、賃借対照表上での繰越欠損金を解消します

これは、あくまで帳簿における税務上の赤字を減らすことであり、会社の財産自体に変化はありません。

通常、繰越欠損金を放置すると融資や投資の際に不利になったり、外部からの企業の信頼度を低下させることなどが懸念されます。

そこで、減資により財務諸表上での赤字を解消し、ネガティブな要素を取り除くことで経営改善への計画や意図を示すことが可能です。

さらに、繰越欠損金を解消した場合、将来的に株主へ配当する可能性を高められます。

例えば、株式公開準備段階で資金を調達するため、前準備として減資することがあります。

配当目的の投資家からすれば、配当の可能性が高い会社は投資対象として魅力が増すため、上場準備として減資を行うケースも見られます。

資金調達・上場準備に関しては、こちらの記事もご参照ください。
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自社株主への配当のため

前述のように、資本金はそのままでは配当として株主に配ることはできません。

そこで減資して、資本剰余金に転換することにより、配当できる資金へ変えることができます。

ただし、資本金の一部を実際に株主へ返還するため、会社の資産は減ることが特徴です。

株主への配当は、基本的に資本剰余金から行います。しかし、赤字などで資本剰余金を確保できない場合、株主への配当は実質不可能です。

経営が黒字になっても、欠損金により分配可能額がマイナスな場合、配当は実施できません。

赤字による無配や黒字でも欠損金による無配が続くと、株主との関係が悪化することが考えられます。

節税のため

会社への課税は、資本金の金額によって区分が異なります。

資本金が1億円を下回ると税法上は中小企業となるため、課税額を減らせます。

例えば、外形標準課税を計算する要素の1つに資本金額があり、赤字決算でも法人事業税が発生するのが難点です。

そこで、減資により帳簿上の資本金を1億円以下にし、税務上は中小企業の扱いを受けられるよう調整します。

大企業が資本金を1億円まで減資することがありますが、そのようなケースでは中小企業向けの優遇税制を利用するのが目的とみられ、中小企業向けの制度を大企業が意図的に利用することに関して批判が生じることがあります。

減資の種類

ここでは、実質的に2種類となる以下の減資の内容について解説します。
・無償減資
・有償減資

無償減資

無償減資は、会社の資本金を減らさない減資です。帳簿上の減資と呼ばれ、会社の抱える累積赤字の補填を伴う経営再建や節税を目的としています。

資本金は減少しますが、会社から出ていく資金はありません。株主への配当もなく、資金の動きは帳簿上だけとなります。

有償減資

有償減資は、株主への配当により、会社の資本金が実際に減る減資です。事業規模の縮小や剰余金がなくても配当を実施したい場合に行います。

会社法上は有償減資という表現はありません。しかし、実際には資本金を減少させる一連の取引が無償減資とは異なるため、減資による資本剰余金とその後の分配手続きを指して有償減資と呼ぶのが一般的です。

資本金の減資による株価・信頼度への影響

減資は、欠損補填や現状からは過大になった資本金額の修正、会社の分離など先述した自社株主への配当や累積赤字の補填、節税といった経営改善を目的としています。

企業が資本金を減らすことは一見すると、経営上問題を抱えている印象を受けますが、一般的に100%減資(※既存株主の地位を消滅させる手続き)に該当しない場合に限り、株価への影響はほとんど無いと言われています。

しかし、会社の信頼度の指標の1つである資本金を減らすことを経営面の悪化と捉える投資家も一定数いることも考えられるため、株価に全く影響しないとも言えません。

減資の手続き

減資は、株主や債権者に対して大きな影響を与えるため、手続きの手順や期限が明確に定められています。

一般的に、減資の効力が発生する日から2ヶ月前に手続きを始めます。(※株主全員の同意が得られないなど、株主総会の招集手続きを省けない場合などはより時間がかかります。)ここでは、減資の手続きについて解説していきます。
1. 株主総会(特別決議)での承認
2. 債権者保護手続き
3. 登記申請

1. 株主総会(特別決議)での承認

減資を実行するには、株主総会での特別決議による承認を必要とします。

これは、総株主の中で議決権の過半数を有する株主が出席した総会にて、議決権の3分の2以上の賛成を必要とするものです。

以下の3点に関して決議を行います。
・減資する資本金の額
・減資する資本金の額の全てまたは一部を準備金とする場合、その旨と金額
・減資の効力が発生する日

特別決議の場以外でも、減資の決議を取り扱うこともあります。欠損金の範囲内での減資を行う際は株主総会の普通決議で承認を得ます。

さらに、株式の発行と同時に減資を実行し、かつ資本金が減資前の金額以下にならない場合、普通決議における承認で減資を実行できます。

2. 債権者保護手続き

減資を実行した際には、債権者保護手続きの中で官報への公告と債権者への個別の催告を行います。これは、減資による恩恵が株主には利益として分配されるものの、債権者には不利益となるため行われます

官報公告や個別催告には以下のような内容を記載しなければなりません。

・資本金などが減った内容、金額
・法務省令で定められている計算書類
・債権者が一定の期間内に異議が述べられる旨

債権者保護手続きでは、債権者が減資の実行に対して異議を述べられる期間を1ヶ月以上設けなければなりません。

官報の公告は依頼から2週間程度要するため、債権者が異議を述べる期間に官報の公告を依頼する期間を考慮して、減資の効力が発生する1ヶ月半以上前に保護手続きを行う必要があります。

3. 登記申請

最後に、法務局にて資本変更登記の申請を行います。

減資の効力が発生した日から2週間以内に登記を済ませなければなりません。

減資による資本変更登記の申請には以下の書類が必要です。

・株主総会議事録
・減資公告が掲載された官報
・債権者への催告書
・催告先一覧(債権者一覧)

設定した効力発生日までに債権者保護手続きが終了していない場合、減資の効力は発生しません。

効力発生日前であれば、いつでもその日付を変更することが可能です。

減資のメリット

ここからは無償減資と有償減資それぞれのメリットを解説します。

手続きが煩雑で対外的なリスクもある減資ですが、経営を立て直す上で大きなメリットもあります。

無償減資のメリット

無償減資には、主に「欠損金を補填でき金融機関から融資が受けやすくなる」「資本金の額が減少し節税効果が狙える」という2つの重要なメリットがあります。

まず、無償減資によって欠損金を補填でき金融機関から融資を受けやすくなる可能性があるというメリットについて解説していきます

欠損金が多い企業は、金融機関の融資審査で不利になる可能性があります。そこで、無償減資を行って資本金を減額させ欠損金と相殺することで、欠損金を減らすことができます

その結果、企業の財務諸表が改善し、金融機関からの資金調達を行いやすくなります

もう1つのメリットは、節税効果です。無償減資によって資本金の額を下げることにより、税制上の優遇措置を受けることが可能になります。減資によって適用される税制上の優遇措置は、企業の税負担を軽減し、長期的な財務計画において大きな利点をもたらします。

このように、無償減資は、企業が財務上の困難を乗り越え、資金調達や減税の促進など経営体制を立て直す施策につながるために効果的な手段です。

有償減資のメリット

株主への配当の支払いができるという点が挙げられます。

企業は経済活動を通じて利益を生み出し、投資家へ配当として還元することが一般的です。利益が発生しない場合、通常は配当が行われないことが多いです。

株主は基本的に配当を目的として株を購入するため、配当金がなければ経営陣への不信感が高まりかねません。

本来、株主への配当は剰余金から行わなければならないため、資本金を剰余金へと変換できる減資は、利益が出ていない状況でも配当を行う選択肢となります。

減資のデメリット

無償減資・有償減資のデメリットについて解説します。

減資のメリットについては上記で解説しましたが、デメリットも存在するため十分に理解しておく必要があります。

無償減資のデメリット

無償減資によって資本金の額が減少すると対外的な信頼度を下げてしまう要因になり得ます。

無償減資の場合、会社の財産は実質的には変化しません。また、近年では、資本金を企業が信頼できるかどうかを決める唯一の指標になることはありません。それでも、資本金を減少させるという本来計画していなかった決定は、やはりネガティブなイメージを加速させる可能性があります。

株式を上場していない企業は、売上や財務状況などを細かく開示する必要がないため、ホームページなどでは資本金のみを記載しているケースがほとんどです。

この場合、資本金額が会社の信頼度を判断する数少ない情報となり、資本金の減少は経営状態に対する疑念を抱かせます。

このことから、無償減資による資本金の額の減少は企業の信用度を低下させてしまうといえます。

有償減資のデメリット

有償減資によって、会社の資本金自体が減少することで起こりうる、株主や投資家による企業の成長性への懸念や対外的な信用力の低下がデメリットとして挙げられます。

資本金は、企業が経済活動を拡大していく目的で、組織の拡大や固定資産の購入など未来を考えた投資活動に使われることが一般的なので、その資本金が減少することを良くないと考える株主・投資家もいるでしょう。

企業が減資を行った例

ここから、実際に企業が減資を行った例を紹介します。

大企業が減資を行う際はニュースで注目されることが多く、優遇税制などの制度のあり方に関する議論が広く見られます。

株式会社JTB

株式会社JTBは、旅行代理店事業がコロナ禍の逆風を強く受け、2021年3月31日付で資本金を23億400万円から1億円に減資しました。

これにより、税制上で中小企業とみなされることで税負担を軽くし、さらに発生し得る巨額損益を補填する目的がありました。

中小企業となることで、主に地方税(法人事業税)においてメリットを享受できます。法人税とは違い、外形標準課税は公共サービスを受けることに対して発生する税金であり、赤字でも一定額の税負担を要求されます。

地方税(法人事業税)の対象となるのは資本金1億円超えの法人であるため、資本金を1億円以下に減資することで課税対象から外れられます。

シャープ株式会社

2015年3月期の赤字が2300億円に上ろうとしていた株式会社シャープは、資本金を1200億円から1億円に減資するという計画を発表しました。

減資による利益余剰金を生み出すことが目的でしたが、売上高3兆円の大企業であるシャープが資本金を1億円以下にすることで上場を廃止し、中小企業(※中小法人)となることで、税制上の優遇措置を受けようとしていたことが「税金逃れ」と指摘されたため、当時の経済産業相が違和感のある企業再生だと発言したことが話題になりました。

政府が問題視する可能性を避けられなかったため、結果的に当時のシャープは資本金を5億円に減資しています。

シャープが中小企業となることによる節税効果は数億円と試算されていました。

しかし、2300億円の赤字を抱える経営状態からすれば節税と言えるほどの効果は期待できず、その後に出資を受ければまたすぐに中小企業ではなくなってしまいます。

社会的な批判もさることながら、実質的な効果が期待できない計画であったため、シャープは当時の1億円への減資計画を断念しています。

スカイマーク株式会社

スカイマーク株式会社もコロナ禍において赤字が拡大した大企業の1つで、2020年12月に資本金を90億円から1億円へと減資しています。

減資をしたことで、スカイマークは上場を廃止し、中小企業(※中小法人)となり、税制上の優遇措置を受けることができました。これによって、当期純損失を163億円の赤字にとどめることで、確実視されていた債務超過に陥ってしまうことを回避しています。

2021年9月には合計40億円の資金を調達していますが、同時に資本金と資本準備金を1億円に減らしています。資本金を1億円以下にすることで、繰延税金資産の圧縮割合を大企業よりも多くすることができます。これによって、法人等調整額から差し引くことによる優遇税制の恩恵を受けることができました。

大企業が本来なら中小企業向けの優遇税制を利用することに疑問の声もあるものの、JTBやスカイマークなどコロナ禍での業績の悪化が避けられない業界の大企業が救済措置として利用するケースが見られます。

まとめ

今回は減資について、その概要、種類、手続きの流れ、メリットデメリット、減資を行った企業の事例を解説しました。
減資は、株主や会社経営に大きな影響を与えます。

節税のために気軽に取れる選択肢ではなく、上場準備でもない限り、会社への外部からの信頼度も考慮しながら取るべき最終手段という性質があるのも事実です。

この記事が、減資の決定を判断する方の参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。


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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。