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【わかりやすく解説】自己株式の消却とは?メリット・デメリット・処分との違いについて解説

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

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上場企業で比較的頻繁に行われている自己株式の消却ですが、近年、中小企業でも自己株式の消却を行う会社が増加傾向にあります。

中小企業の間でも消却が進む背景には、自己株式の消却には多くのメリットがあるためです。しかし、自己株式の消却には必要な手順が決められているため、消却したいからと言って直ぐに着手出来るモノではありません。

そこで本記事では、自己株式を消却するメリットやデメリット、また自己株式消却への流れなどを詳しく解説します。

自己株式の消却について検討している経営陣の方々は、是非本記事を参考にしてください。

自己株式とは

自己株式とは、株式会社が発行する株式のうち、自社で獲得したうえで保有している株式のことを指し、「金庫株」と呼ばれる場合もあります。

以前は、インサイダー取引や株価操縦などの悪用を防ぐために、自己株式の取得は原則禁止されており、消却やストックオプション発行といった特定の目的に限って認められていました。

しかし現在では、2001年の商法改正に伴い自己株式の取得は解禁され、無制限かつ無期限の保有が認められています。これにより自己株式の消却や再交付も認められており、臨機応変に自社株の買取を行うことが可能です。

このように自由に自社株の取引が自由化されましたが、従来懸念されてきた悪用を防止するためのルールも明確に定められており、自己株式を1日に注文できる数量や値段などは制限されています。

自己株式の消却とは

自己株式の消却とは、企業が市場に流通している自社の株式を株主から買い戻して消滅させることを指し、株式消却や自社株消却と呼ばれる場合もあります。

自己株式を消却すると、消去した(株主から買い戻した)分の発行済株式総数が市場から減ることになります。そのため自己株式の消却は、発行済株式総数の適正化を目的に行われるケースが多いです。

このように株式の流通量を調整できる自己株式の消却は、取締役会設置会社においては取締役会の決議が必要になっており、承認が得られない限り新株発行として放出したり、消却したりすることができません。

自己株式の消却と処分の違い

少々複雑な表現にはなりますが、自己株式の消却は自己株式の処分とは意味が異なります。

自己株式の処分とは、会社法記載の手続きに則って発行済みの自己株式を社外の第三者に売却することを指す一方で、自己株式の消却は、市場に流通している自己株式を買い戻して消滅させることを指します。

自己株式の処分を行う場合、会社法に記載の募集株式の発行などの手続きが必要となっており、受けての第三者は、募集に応募して株式申込証での申込が必要です。その申込に対して、企業は「割当」を行い自己株式の処分を受ける者を決定します。

企業が「割当」を行う方法には、以下の3つがあります。
・公募
・第三者割当て
・株主割り当て

株主割当てによらない公募、または第三者割当てによる募集事項は以下の4つです。
・処分する自己株式の数(種類株式発行会社の場合は、処分する株式の種類および数)
・処分する自己株式の払込金額またはその算定方法
・金銭以外の財産を出資の目的とする場合、その旨ならびに当該財産の内容および価額
・自己株式と引き換えにする金銭の払込みまたは③の財産の給付の期日またはその期間

以上の募集事項は、非公開会社では株主総会での特別決議によって、公開会社では取締役会での決議によって決定します。

自己株式の消却を行うメリット

自己株式の消却がもたらすいくつかのメリットをご紹介します。
・発行済株式総数の安定
・納税のための資金の確保
・株価の上昇
・買収防衛策
・事業承継における対策
・M&A(合併と買収)の対価として
上記、6つのメリットに関して以下にて順々に解説していきます。

発行済株式総数の安定

自己株式の消却を行うメリットに「発行済株式総数の安定」があります。

発行済株式総数が多くなり過ぎると、企業のガバナンスに支障をきたす恐れがあります。例えば、経営の意思決定に不必要な時間を取られてしまったり、株主の管理が煩雑になり大きなコストがかかってしまったりする可能性があります。

そのため、自己株式を消却することによって発行済株式総数を減少させ、適正なものとします。また、発行済株式総数の適正化によって、既存株主の信頼を得ることにもつながるでしょう。

納税のための資金の確保

納税のための資金を確保するために、自己株式を消却するケースもあります。非上場会社であっても、株式を相続すると相続税が課税されることになります。

非上場会社の株式は特殊で、上場企業とは異なりすぐに現金化できません。そのため、相続税の納税資金が不足する事態が生じる場合があります。

現金化と納税時期のズレによる資金源確保の手段として、企業が後継者から自己株式を買い取り、後継者の納税資金を調達する方法があります。

株価の上昇

株価の上昇も自己株式の消却を行うメリットの1つです。

一般的に、株価は供給量が需要量を上回ると低下します。そのため、自己株式を消却して発行済株式総数を減少させれば、株価を調整することができます。

上場企業において、企業価値と比較して株価が過小評価されている場合、市場に出回る株式の数が過剰になりがちなことが現状です。そこで発行済株式総数が減少すれば、株価を上昇させることが可能です

買収防衛策

自己株式の消却を行うことで、敵対的買収を防衛できるメリットもあります。自己株式を消却することで流通している自己株式を減少させ、自社や既存株主の持株比率を高める効果が期待できるためです。

また、自己株式数を減少させて株価を上昇させることも、買収金額の引き上げに繋がり敵対的買収者の妨害になるでしょう。

事業承継における対策

自己株式を消却することで「事業承継における対策」が取れることもメリットの1つです。事業承継の場合、複数の相続人がいることが一般的であるため、自己株式が分散してしまう恐れがある場合では自己株式の消却が用いられます

後継者以外の相続人から株式を取得して消却することで、会社後継者の株式保有比率を向上させることが可能です。後継者の株式保有比率を上げることで、会社経営権を集中させることができ、複数相続人の間で起こる抗争を緩和できるでしょう。

また株式交換が行われる場合も、子会社による自己株式の消却が行われます。

M&A(合併と買収)の対価として

「M&A(合併と買収)の対価として」自己株式の消却が行われる場合があります。具体的には、M&A(合併と買収)の対象となる企業に対して、既存の株式ではなく自己株式を交付します。

自己株式を交付することで、現金を用意できない場合でも合併または買収が可能となり、買い手や売り手にとって好循環が生じる結果となります。

自己株式の消却を行うデメリット

メリットの多い自己株式の消却ですが、当然デメリットも複数伴います。

本項にてご紹介する、自己株式の消却によるデメリットは以下3点です。
・資金操りの悪化
・自己資本比率の低下
・処分においての手間

資金操りの悪化

自己株式を消却することで生じるデメリットの1つに資金操りの悪化が挙げられます。

自己株式を消却する場合、企業の資金を利用して自己株式を取得するのですが、ここで取得した株式は原則的に譲渡したり売却したりできません。そのため、資金操りが悪化する可能性があります。

自己株式の消却に際して、資金的に余裕のない企業は事前によく検討することが必要でしょう。

自己資本比率の低下

自己資本比率が低下する点も自己株式の消却に伴うデメリットの1つです。

自己株式は、純資産の部の勘定科目に分類されているため、自己株式を消却すると純資産が減少し、結果的に自己資本率が低下します

発行株式数が減少するため一次的に1株当たりの株価は上昇しますが、長期的に見て事業成長が見込めない場合、株価の大きな上昇は期待できません。

処分においての手間

上記2つのデメリットの他、処分において手間が掛かる点も挙げられます。取得した自己株式はそのまま放置することも可能ですが、いずれは処分または消却しなければなりません。

自己株式を処分する場合は特に、会社法に定められている通り取締役会や株主総会での決議など、手間のかかる手続きが必要になります。

インセンティブプランとしての自己株式

自己株式は、従業員などへのインセンティブプランとして用いられることもあります。

具体的なケースを、以下の2つに分けてご紹介します。
・譲渡制限付株式報酬
・株式給付信託

譲渡制限付株式報酬

譲渡制限付株式報酬とは、定められた期間内は手放せない株式のことです。定められた期間内は、担保権の設定や譲渡、またその他の処分もできないため、取得した場合はしばらく保有することになります。
※譲渡制限付株式報酬について詳しく学びたい方は以下の記事を参考にしてください。
譲渡制限付株式とは!?株式報酬制度の仕組み・メリットを総まとめ!

譲渡制限付株式報酬は、一般的に企業の役員や従業員への報酬として活用されます。例えば、定められた期間内において企業が大きく成長すれば、譲渡制限付株式報酬を保有していれば多くの配当を受け取ることが可能です。

譲渡制限付株式報酬の発行においては、株主総会や取締役会の決議が必要になるため、事前に計画を立てることが重要です。

株式給付信託

株式給付信託とは、信託銀行を通して従業員に給付される株式のことです。形式的には、信託銀行が株式を買い取ることになります。しかし、原資には企業が拠出した資金が利用されます。
※株式給付信託について詳しく学びたい方は以下の記事を参考にしてください。
【経営者必読】株式交付信託(株式報酬信託、株式給付信託)とは何か?複雑な仕組みやメリット・デメリットをご紹介!

株式給付信託と似た仕組みとして、信託期間のうちに株価が上がったときの「J-ESOP」という仕組みと、上昇分が持株会加入者に還元される仕組みの「従業員持株会処分型」と呼ばれるものがあります。

「J-ESOP」「従業員持株会処分型」の仕組みについても以下の記事にて詳しく言及しておりますので、詳しく知りたい方は以下を参考にしてください。
【わかりやすく解説】ESOP(イソップ)とは?持株会との違いやメリットも紹介
従業員持株会とは?仕組みやメリット・デメリット|従業員は入るべきか?

自己株式消却への流れ

自己株式を消却する流れについてご紹介します。

基本的に自己株式の消却の流れは、以下の4つの事柄でなっています。
1.準備
2.取締役会での決議
3.株式失効
4.株式総数の変更登記

1.準備

まず初めに、自己株式を消却するために行うことは「準備」です。具体的に行うことは、自社が自己株式として保有する株式数を株主名簿で確認し、消却する自己株式の数を決定します

「種類株式発行会社」の場合は、自己株式の種類と種類ごとの数量を決定することが必要です。

また「準備」として以下の必要書類を整えることも必要です。(コピーでも可)
・登記簿謄本
・定款

登記簿謄本は、取得から3か月以内のものを用意する必要があり、定款に関しては最新のものが必要です。

2.取締役会での決議

自己株式の消却は、取締役会などの決議機関での決議によって行われます。自己株式消却の決議内容は、会社法の第178条に定められています。

会社法第178条は、以下の通りです。
・株式会社は、自己株式を消却することができる。この場合においては、消却する自己株式の数(種類株式発行会社にあっては、自己株式の種類及び種類ごとの数)を定めなければならない。
・取締役会設置会社においては、前項後段の規定による決定は、取締役会の決議によらなければならない。

決議機関は、会社の仕組みによって異なります。取締役会設置会社の場合は取締役会による決議が必要ですが、取締非設置会社の場合は株主総会の普通決議、もしくは取締役の過半数の決議が必要です。

会社法178条については以下のリンクをご覧ください。
会社法e-Gov法令検索

3.株式失効です

自己株式の消却が決議されたら、次に行うことは株式の失効手続き。具体的には、株主名簿の修正を行います。

株券発行会社の場合は、株券を破棄する手続きも行わなければなりません。

4.株式総数の変更登記

株式の失効手続きを行ったら、次に行うことは株式総数の変更登記です。自己株式の消却を行うと企業の発行済株式総数が減少するため、効力発生日から2週間以内に株式総数の変更登記申請を行う必要があります。

自己株式消却の効力発生日とは、自己株式の消却が決議されてから、会社が何らかの事柄によって消却する自己株式を特定してからでなければ消却の効力は生じません。自己株式消却の効力が発生する日は、株券発行会社と株券不発行会社で異なります。

株券発行会社の場合、自己株式消却の効力が発生する日は、当該株券を破棄し、株主名簿の記載、記録を抹消した日となります。また、株券不発行会社の場合は、株主名簿の記載、記録を抹消した日です。

変更登記申請には、以下の書類や登録免許税が必要です。(登録免許税は3万円)
・取締役会議事録(非設置会社の場合は取締役の決定書)
・委任状(代理人依頼の場合)

まとめ

この記事では、自己株式を消却するメリットやデメリット、また自己株式消却への流れなどをご紹介してきました。

自己株式の消却は、発行済株式総数を適正化するなどのメリットがある一方、会社の純資産が減少してしまうというデメリットもあります。

自己株式の消却は効果的な手法の1つですが、特徴を理解した上で導入することをおすすめします

この記事が皆様のお役に立てれば幸いです。最後までお読みくださり、ありがとうございました。


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この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。