fbpx

COLUMN

コラム

買収防衛策とは?その意味、具体的方法、事例などをわかりやすく解説

執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)

コーポレートガバナンス・コードの基本のキ
~概要と基本原則を解説~

コーポレートガバナンス・コードの「基本的な概要」と「基本原則」にフォーカスして紹介

今すぐダウンロード

近年、国内外で数多くの企業買収が行われています。

企業買収には、現経営陣の同意を得て行われる友好的買収と、同意を得ずに行われる敵対的買収があります。

ビジネスの世界では、仮に現経営陣の同意がなかったとしても、一定条件を満たした場合には買収が成立してしまいます。

企業買収は、株主、従業員、他の各ステークホルダーにも大きな影響を及ぼすため、敵対的買収への「買収防衛策」を事前に検討しておくことが重要です。

そこで本記事では、買収防衛策の概要および現状、そして種類や導入への流れをご紹介します。買収防衛策が成功している実例もご紹介するので、ぜひ参考にしてください。

買収防衛策とは

買収防衛策とは、相手企業から仕掛けられた望ましくない買収に対して、買収が行われないように”防衛手段”として実施される対策のことです。

買収防衛策は、一般的に株主や経営陣にとって望ましくない買収に対して行われます

しかし、仕掛けられた買収が「経営陣」にとって望ましくない買収であっても、「株主」にとっては理想的な買収であった場合は、買収防衛策が実施されないケースがあります。

買収防衛策が注目を浴び始めたのは、2005年のライブドアによるフジテレビへの敵対的買収です。

買収防衛策の現状

近年、日本においても、相手企業から仕掛けられる望ましくない買収が増加しており、その対策の一環として「買収防衛策」を導入する企業が増えています

2003年12月、日本内閣府は、M&A(企業合併・買収)研究会を設置して検討を重ね、2004年9月に「わが国企業のM&A活動の円滑な展開に向けて」という研究会報告書を公表しました。

報告書の主な内容は、日本国内の企業買収の動向を分析した上で、企業買収の低い成功率や敵対的企業買収防衛策の遅れなどの課題を指摘し、企業買収の促進策、敵対的買収防衛策、人材育成などの提言です。

特に、商法・会社法関係では、会社法制の現代化に関して、企業買収や敵対的買収、国際合併や国際株式交換などを念頭においた議論が不足していることを挙げています。

2005年に買収防衛指針が公表された後、買収防衛策を導入する企業が増加し、年々増加傾向にあることが現状です。

その後、日本版のスチュワードシップコードが策定されたことに伴ない、買収防衛策に対する機関投資家たちの姿勢が厳しくなり、買収防衛策を導入する企業は減少傾向にあります。

「わが国企業のM&A活動の円滑な展開に向けて」という研究会報告書については以下のリンクをご覧ください。
わが国企業のM&A活動の円滑な展開に向けて–内閣府経済社会総合研究所M&A研究会報告(平成16年九月より)

買収防衛策の必要性な理由

買収防衛策の必要性については、異なった二つの見方があります。

①「買収防衛策は非効率な経営を擁護してしまう」という考え方

企業買収は、敵対的買収であったとしても、株主にとって100%不利益につながるわけではありません。

他社による買収はむしろ、株主の利益を損なう経営を行う経営陣を改良する良い機会ともなり得ます

現経営者が企業価値の向上のための経営改善努力を怠っている場合、その企業は市場で過小評価(時価総額が低くなる)されることでしょう。

そのため、その企業を買収することにより経営陣を交代し、より効率的な経営体制を構築できれば、企業価値を高めることが可能です。

一番の買収防衛策は、経営陣の経営努力によって企業価値の最大化し、他社による買収を防ぐことである、という考え方とも捉えられます。

②「買収防衛策は企業価値を維持する良策である」という考え方

敵対的買収は、企業の株主をはじめ、あらゆるステークホルダーにとって良い結果にはならないことも多いです

そのため、すべてのステークホルダーをはじめ、企業の株主の利益を守るために買収防衛策が必要であるという考え方もあります。

会社経営においては、その経営者であるからこそ維持できる各ステークホルダーとの良好な関係性など「目には見えない価値」があります。

買収により経営陣が変われば、ステークホルダーと企業の間に構築されていた良好な関係性が失われ、それが企業の収益性の低下、および企業価値の低下につながることもあるでしょう。

それぞれのデメリットを十分検討し、意思決定することが大切

上記の2つの異なった見方において、どちらか一方が正しいと断言することはできず、買収を受けるデメリットと、買収防衛策を導入することのデメリットを十分に比較検討し、どちらが企業価値向上のために有効なのかを考えることが重要です。

2005年5月27日に法務省が発表した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」にて提示されている、以下の3つの指針に基づくことが重要です。

企業価値・株主共同の利益の確保・向上の原則

買収防衛策は経営陣の保身のためでなく、企業価値や株主の利益を守るためのものでなければならない

事前開示・株主意思の原則

買収防衛策の導入に際しては、その内容を事前に株主に提示したうえで判断を求めなければならない

必要性・相当性確保の原則

買収防衛策の濫用を防ぐため、必要かつ相当な方法でなければならない

「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」については、以下のリンクをご覧ください。
企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針

買収の種類

企業買収は大きく分けて以下の2つにまとめることが可能です。

・友好的買収
・敵対的買収

「友好的買収」と「敵対的買収」のそれぞれの特徴と違いをご紹介します。

友好的買収

友好的買収とは、買収する企業と買収される企業の経営陣との間に、充分な合意があって実施される買収のことです。

友好的買収は、同意をもとに実施されるため、買収される企業からの協力を得ることができ、手続きがスムーズに行われるというメリットがあります。

買収の条件や買収後の従業員の処遇などを事前に話し合い、同意した上での買収が可能です。

日本で実施されるほとんどの企業買収は、友好的買収によって行われています。

元々日本には「株式持ち合い」の風習もあることから、M&Aにおいて敵対的買収を選択しづらい環境であることも関連しています。

一方、はじめは敵対的買収を仕掛けられたとしても、その途中から友好的買収に切り替わり、展開が変わる事例も多いです。

敵対的買収

敵対的買収とは、買収される企業の現経営陣から同意を得ずに行われる買収のことです

敵対的買収は、買収する企業が買収される企業の経営権を取得する目的で実施されます。

敵対的買収のための株式取得は、基本的に株式公開買い付け(TOB、Take Over Bid)によって行われます。

TOBでは、買収対象企業の株式の「買付け期間・買い取り株数・価格」をあらかじめ公告したうえで、不特定多数の株主からの株式買い取りを実施します。

このとき、株式の市場価格よりも30~50%割増で買い取り価格を設定することが一般的です。

敵対的買収は、経営陣にとって望ましくない買収であっても、株主にとって必ずしも不利益につながるわけではありません。

たとえば、株主が企業の経営方針に不満を持っている場合、買収防衛策は決議されず、敵対的買収が成立する可能性があります。

ただし、日本国内において、敵対的買収に成功した事例はほとんどなく、ほとんどが失敗に終わっているのが実情です。

かつて、ライブドアや村上ファンドが敵対的買収が世間を賑わせ、その頃から有名な手法となりましたが、このように敵対的買収が多発したのは2000年代半ば頃で、それ以降は敵対的買収の事例は激減しているのが実情です。

事前の買収防衛策

 

事前(買収を予防するため)の買収防衛策には、以下の種類があります。

・ポイズンピル
・ゴールデンパラシュート
・ティンパラシュート
・黄金株
・全部取得条項付株式
・絶対的多数条項
・チェンジオブコントロール条項
・プットオプション
・ゴーイングプライベート(非公開化)
・事前警告型防衛策

事後の買収防衛策

事後(買収を仕掛けられてから講じる)の買収防衛策には、以下の種類があります。

・ホワイトナイト
・パックマンディフェンス
・クラウンジュエル
・ジューイッシュデンティスト
・スタッガードボード
・資産ロックアップ
第三者割当増資
・株式交換
・増配
新株予約権

買収防衛策導入の流れ

買収防衛策導入までの流れは、一般的に以下の4つの段階を経ます。

・定款変更の決議
・取締役会での検討
・株主総会における買収防衛策発動の決議
・買収防衛策の発動

定款変更の決議

買収防衛策の導入に関してまず行う必要がある事柄は「定款変更の決議」です。株主総会の特別決議で、定款に「買収防衛策の導入に関しては株主総会で行う」という意向の規定を記載する決議を行います。

株主総会で「買収防衛策の導入に関しては株主総会で行う」という意向の規定を記載する決議が通ったならば、定款を変更し、変更後の定款をもとに、買収防衛策の導入に関する株主総会の決議を実行します。

取締役会での検討

敵対的買収を行う企業が登場し、発行済株式総数の20%を超える株式を取得した場合、株式の買い付けの意思を示す意向表明書や必要情報などのやり取りが実施されます

この流れの段階では、敵対的買収を受けた企業において取締役会が開かれ、敵対的買収についての対抗策が検討されます。

株主総会における買収防衛策発動の決議

敵対的買収が企業の利益を著しく低下させると合理的に判断された場合株主総会の決議に基づき買収防衛策が発動されます

株主総会において敵対的買収が企業の利益を低下させるかどうかの判断に迷いがある場合、臨時株主総会が実施されます臨時株主総会にて、買収防衛策を発動するかどうかが議論されますが、買収防衛策を発動するかどうかの判断の基準は、株主に委ねられていることが特徴です。

買収防衛策の発動

株主総会において、買収防衛策発動の決議が受理されたならば、事前に準備されている買収防衛策を実際に実施し、敵対的買収に抵抗します

買収防衛策が成功している事例

買収防衛策が成功している事例はいくつかありますが、ここでは以下の3つの事例をご紹介します。

株式会社フジテレビジョン
ぺんてる株式会社
象印マホービン株式会社

株式会社フジテレビジョン

フジテレビジョン

2005年、インターネット関連事業を展開する「ライブドア」は、「株式会社フジテレビジョン」の筆頭株主である株式会社ニッポン放送に対して敵対的買収をしかけ、株式会社ニッポン放送の株式を大量に買い込みました

対抗策として、ニッポン放送は大量の新株予約権を株式会社フジテレビジョンに発行しました

株式の希薄化を恐れた株主から新株予約権発行の差し止めを請求され、その請求は認められ、結局ライブドアによる敵対的買収は成功しませんでした。

最終的にライブドアがニッポン放送株の過半数を取得したことで両社間での協議が進められ、資本提携と業務提携などについての基本合意に至ったことが現状です。

ぺんてる株式会社

会社概要 | ぺんてる株式会社

2019年、オフィス用品の大手企業「コクヨ株式会社」が、文房具の大手企業の「ぺんてる株式会社」に敵対的買収をしかけました。

コクヨ株式会社は、ぺんてる株式会社の大株主のファンドに対して、100億円を超える出資を行い子会社化に成功しました。

このことで、コクヨ株式会社は、間接的にぺんてる株式会社の決議権を37%保持することになり、筆頭株主になったことが現状でした。

その後、コクヨ株式会社は、事前通知なしに株式公開買い付けを行ったのです。

この敵対的買収に対してぺんてる株式会社は、友好的買収を実施します。共同開発などを行っていた「プラス株式会社」を取得し、買収防衛策を成功させます。

ぺんてる株式会社を支援したプラス株式会社は、ぺんてる株式会社の株式を33.4%取得することで友好的買収を成功させ、ぺんてる株式会社との保有株式は実質上50%以上になりました

そのため、ぺんてる株式会社は、コクヨ株式会社との業務提携に向けた協議を停止し、株式公開買い付けの阻止に成功しました。

象印マホービン株式会社

象印 ZOJIRUSHI

2022年、象印マホービン株式会社は、取締役会で買収防衛策の導入が決定したことを発表しました。

買収防衛策導入の根拠は、昨今の資本市場の状況を踏まえ、中長期的な企業価値および株主共同の利益にならない株式の大量取得行為が行われる可能性を予測したことです。

株式の大量取得行為は、企業の利益を大きく損なう恐れがあることから、対抗手段として買収防衛策導入に至りました。

象印マホービン株式会社が、買収防衛策導入に至った背景には、経営方針をめぐって対立してきた筆頭株主である中国家電大手企業の存在があると考えられています。

まとめ

この記事では、買収防衛策の概要および現状、そして種類や導入への流れを、買収防衛策導入が成功している実例を交えてご紹介してきました。

敵対的買収を仕掛けられた場合、そのまま応じることも1つの選択肢ですが、買収防衛策で対応することも1つの選択肢です。

買収防衛策を実施したとしても、必ず成功するとは限りません。たとえ成功したとしても企業価値を低下させてしまい、将来の事業展開に影響が出る恐れがあります。

買収防衛策を導入する場合は、買収防衛策についての理解を深め、自社にとって有効な手段を選択し実行に移していきましょう。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


IPOについて、次の記事もご参照ください。
ベンチャー企業がIPOする意義はあるのか?上場のメリット・デメリット
IPOの準備スケジュール|直前前々期から申請期まで解説
上場の条件とは?上場基準・上場までの流れ・上場のポイントを徹底解説!
上場のために必要な売上基準とは?IPOのための業績について解説
上場審査とは?審査基準・審査の流れ・審査通過のポイントを徹底解説!
IPOの失敗を防ぐには?IPO失敗理由・失敗事例・失敗の回避方法を解説
上場ゴールとは?上場ゴールに陥らないためのポイントを詳しく解説

また、ストックオプションについて、次の記事もご参照ください。
ストックオプション制度を徹底解説!仕組み・種類・メリット/デメリットを完全体系化!
【有償ストックオプションとは?】メリット・デメリットや発行価額と行使価額の違いを簡単に解説!
【無償ストックオプションとは?】税制適格の要件やデメリットを解説!
【経営者向け】話題の「信託型ストックオプション」を徹底解説
【徹底比較】有償・無償ストックオプションの違いとは?会計処理・税制面などのメリット・デメリットは?
ストックオプションの導入方法とは?導入に必要な手続きや注意点を徹底解説!
M&Aでストックオプションは消える?税制非適格になる?消滅させずに、従業員の税負担を抑える方法をご紹介!
ストックオプションで従業員は億万長者!?儲かる?ベンチャー体験談から平均相場でいくら儲かるか調査してみた
ストックオプションのコンサルティングとは?依頼すべき理由や気になる相場を徹底解説!

また、株式報酬制度のご導入やコーポレートガバナンス・コードへの対応を検討をするには、プロの専門家に聞くのが一番です。

そこでSOICOでは、個別の無料相談会を実施しております。

・自社株式報酬制度を導入したいがどこから手をつければいいか分からない
・CGコードや会社法改正を踏まえた株式報酬制度の設計は具体的にどうすべきか分からない

そんなお悩みを抱える経営者の方に、要望をしっかりヒアリングさせていただき、
適切な情報をお伝えさせていただきます。

ぜひ下のカレンダーから相談会の予約をしてみてくださいね!

この記事を書いた人

慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。