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指名委員会とは?委員会設置の目的・役割・取締役候補者を選任する基準について解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
役員報酬の相場レポート
資本金別・従業員別・設立年度別で相場を調査
企業の不祥事や役員が起こした事件やトラブルをきっかけに、社内のガバナンスの強化について株主総会などで求められますが、ガバナンスを強化するために指名委員会等設置会社に移行する企業もあります。
この指名委員会等設置会社は、指名委員会・監査委員会・報酬委員会という3つの委員会から構成されており、それぞれ経営の透明性を高めて、ガバナンスを強化する役割を果たします。
この中でも指名委員会は、取締役候補を選んだり、辞めさせたりしますが、この際に「どのようにして取締役が選ばれたのか」また「なぜ、取締役を解任するのか」について説明することも求められます。
本記事では、指名委員会の目的・役割を中心に委員会が取締役候補を選任する基準について解説します。
目次
指名委員会とは
指名委員会とは、取締役候補を決める組織です。指名委員会等設置会社における3つの委員会の1つで、取締役会の中に設けられています。
ここでは、指名委員会に関する以下の4つのポイントを考慮します。
・指名委員会設置の目的
・指名委員会の役割
・指名委員会の権限
・指名委員会の設置状況
指名委員会設置の目的
指名委員会設置の目的は、取締役を指名する際の独立性や客観性、説明責任の強化、取締役決定プロセスの安定性の向上が挙げられます。
また、経済産業省「指名委員会・報酬委員会に関する参考資料」によると、指名委員会を設置した目的として企業から以下のような回答も得られています。
・取締役会とは別に場を設けることで充実した審議を効率的に行うため
・取締役会よりもメンバーを限定的にすることで機密性の高い事項について忌憚なく議論するため
・企業戦略を踏まえた後継者の育成が行われていることを検証・検討するため
後継者育成(サクセッションプラン)については、次の記事もご参照ください。
⇒サクセッションプランとは?効果的な戦略人事を行うためのプラン作成・メリット・デメリットを解説
指名委員会の役割
指名委員会の役割は、取締役や執行役員などの選任に係る基本方針や基準、候補者案の決定などについて、取締役会の諮問に応じて審議を行い、その結果を取締役会に提出することにあります。
また、指名委員会は取締役会の諮問機関としての役割を持ちます。例えば、武田薬品工業株式会社の指名委員会規程(2022年12月8日改正版)においては以下の内容が諮問事項として記載されています。
・取締役会の多様性および取締役のスキルに関する方針の確認
・取締役の選任・再任の基準とプロセスの妥当性の確認
・後継者計画・運用状況の適否を検証し、取締役候補者の選任の妥当性の確認
参照:「企業情報 / コーポレートガバナンス / ガバナンス体制」(武田薬品工業株式会社)
指名委員会の権限
指名委員会の権限は、3つの委員会(指名委員会、監査委員会、報酬委員会)の中で、株主総会に提出する取締役の選任や解任に関する議案の内容を決定することです。
一般的に指名委員会等設置会社ではない株式会社は、取締役の選任を含む株主総会に提出する議案は取締役会で決定することになっています。この場合、代表取締役に人事権が一任されるという問題点が指摘されていますが、指名委員会等設置会社の指名委員会にはこの問題を回避するための権限が委ねられています。
指名委員会の設置状況
経済産業省の「指名委員会・報酬委員会に関する参考資料」によると、法定の指名委員会を設置している会社は全体の5%であり、任意の指名委員会を設置している会社は35%でした。今後設置することを検討中・検討する予定であるという会社を含めると全体の55%になり、過半数に達する数です。
また株式会社東京証券取引所による2022年8月3日付けの「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」によると、プライム市場上場会社のうち、法定の指名委員会等設置会社は3.9%であり、前年度の2021年と比べると0.8%増加していることがわかります。
指名委員会が取締役候補者を選任する基準
指名委員会が取締役候補者を選任する基準は、いくつかありますが、一般的に人格、識見、倫理観、企業経営の経験や専門性、そして独立性などの一定の基準があります。
企業によっては、東京証券取引所のルールよりも厳しい内容で社外取締役候補の独立性基準を定めていて、社外取締役に求められる執行役への監督機能を確保しています。
社内取締役
社内取締役は、先述した通り企業によって選任のための基準が異なります。ここでは、一般的な社内取締役に求められる選任基準をご紹介します。
・業務に関して、高度の専門知識を備えている
・経営判断能力および経営執行能力に優れている
社外取締役
社外取締役が選任される基準について、一般的に求められる以下4つの選任基準をご紹介します。
・当該株式会社または親会社・子会社・経営陣との間に利害関係を持たないこと
・企業経営者として豊富な経験があること
・経済・経営・法律・会計などの企業経営に関わる専門的な知識を取得していること
・広く政治・社会・文化・学術など、企業経営を取り巻く事柄に深い意見を持っていること
指名委員会の運営方法
デロイトトーマツグループの「役員報酬サーベイ2019年版」によると、任意の指名委員会の年間開催回数は、1回以下が最も多く27.7%です。年に1回〜2回が過半数を占めています。
株主総会などのスケジュールと有機的に関連できるようにしたうえで、将来的に年に4回程度実施できることが望ましいでしょう。たとえば、3月に決算がある株式会社であれば、7月、10月、12月、2月の4回、指名委員会を実施することが可能です。7月にスケジュールを策定し、10月に各候補者をリストアップすることができます。そして、12月に各候補者の評価を行い、2月に候補者の確定を行います。
具体的な指名委員会の選任プロセス
具体的な指名委員会の選任プロセスを見てみましょう。指名委員会の具体的な選任プロセスを考慮する上で、以下の2社の企業を例として考慮します。
・コニカミノルタ株式会社
・オリンパス株式会社
コニカミノルタ株式会社
コニカミノルタ株式会社は、コーポレートガバナンスが施行された2015年から、代表執行役社長の後継者計画に対する取り組みを開始しています。
コニカミノルタ社における指名委員会の機能と役割は、社長から半年に1回の頻度で、後継者候補の選定、育成計画の策定、実践および進捗状況の確認、また評価などに関する報告を受け、後継者計画に対して監督そして助言を行うことです。
後継者候補についての具体的な選任プロセスをまとめると、以下の2点が挙げられます。
・過酷な環境に果断に正対する経営トップに相応しい資質や使命感を備えているか
・中期経営計画を適切に立案・実行するためのビジョンや考え方を保有しているか
以上の選任プロセスを経て代表執行役社長が選任され、業績の早期回復が期待されています。
オリンパス株式会社
オリンパス株式会社の取締役会は13名で構成されており、過半数の10名は独立社外取締役です。取締役会を構成している人材は、豊富な経験と幅広い知識を有しており、オリンパス社が社外取締役に期待する見識や専門性および能力を高い水準で有していると言えます。
オリンパス社は、実効性のあるコーポレートガバナンスを実現することを目指し、「コーポレートガバナンスに関する基本方針」を定め、取締役会で毎年、取締役会全体の実効性を評価し、その結果の概要を公表することを行っています。2019年1月に真のグローバル化への飛躍に向け発表された企業変革プランの下、執行と監督の分離をさらに進め、業務執行の意思決定の迅速化、ガバナンス強化と透明性のいっそうの向上を図っています。
評価方法に関しては、取締役12名を対象にしたアンケートを取り、その結果に基づく取締役によるディスカッションという形で行われます。ディスカッションにおいては、論点を客観的に整理し、論議をサポートするために、外部コンサルタントが介入します。その後、取締役会において当該論議に基づく分析結果に基づき、取締役会の実効性を向上させるための取り組みを共有します。
まとめ
本記事では、指名委員会等設置会社を構成する3つの委員会の中の1つである指名委員会について解説してきました。
この記事が、経営者・役員・企業のガバナンスに関係する担当者の方のお役に立てれば幸いです。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
株式会社の内部組織形態に関する委員会については、次の記事もご参照ください。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。