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メーカー(製造業)における経理の特徴|仕事内容・必要なスキル・やりがい・役に立つ資格を解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
CFOになるには?キャリアパスも解説
経理/会計/財務/経営企画などの管理部門としてのキャリア
企業を経営していくうえで重要な役割を果たす経理部門ですが、業種によってその仕事内容に違いがあります。そのため経理に転職する場合などは、経理職の概要だけでなく、業種ごとの仕事内容を理解しておくことも重要です。
とくにメーカーの経理職は、他の業種とは違う仕事内容で知られています。メーカー経理特有の知識やスキルも必要になるため、事前のスキルアップは必須でしょう。
そこで本記事では、メーカーでの経理職を希望している人、またはメーカー経理職への転職を考えている人に向けて、仕事内容や必要なスキル、またやりがいなどを詳しく解説します。
企業の財務に関連する活動の責任者であるCFOについては、こちらの記事もご参照ください。
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目次
メーカーとは
メーカー(製造業)とは、仕入れた原材料をもとに、工場で加工し、製造した商品を販売することで収益を得る企業です。一般的に、プロダクトの製造過程において自社で取り寄せた原材料を利用することが特徴です。
メーカーと言ってもその内容はさまざまで、企業によってその果たす役割が異なります。たとえば、ある製品が作られるもとになっている素材などを製造する企業も「メーカー」と呼ばれます。メーカー(製造業)は、鉱業、建設業とともに日本における第二次産業を構成する一大産業の1つです。
具体的には、工業製品である家電、自動車から、飲食物を調理し製造する産業までがメーカー(製造業)に含まれます。
メーカーにおける経理の特徴
メーカーにおける経理職の特徴をご紹介します。他の業種と異なる3つのメーカー経理職の特徴をご覧ください。
・工業簿記の知識
・原価計算業務
・製造原価報告書
工業簿記の知識
一般的な小売業や卸売業の経理は「商業簿記」の知識が必要ですが、メーカーの経理職では「工業簿記」の知識が必要です。
「商業簿記」と「工業簿記」の主な違いは「項目」にあります。工業簿記は、「材料」「仕掛品」「製品」という項目があります。メーカーは「材料」を仕入れ、加工し製品化します。そのための記録や管理のための記入項目が必要です。このことから、メーカー経理には、一般的な経理職には必要がない、専門的な知識が必要になることがわかります。
原価計算業務
メーカー(製造業)の経理には、「原価計算」という業務が発生します。原価計算とは、製品を製造するのにかかるコストを計算することです。
メーカーは自社で製造を行うことから、製品の製造にかかったコストを計算する原価計算、つまり工業簿記が必要です。小売業などでも原価計算は行われますが、その目的は主に製品1つ当たりの製造原価を算出することにあります。しかし、製造業での原価計算は、製品の原材料を仕入れて、工場で生産や加工を行い、製品を完成するまでのコストを計算することにあります。この製造業特有の原価計算を前提として、決算書類をまとめていきます。
具体的に原価計算の手順をご紹介します。原価計算は、主に以下の3つの手順で行われます。
・費目別原価計算
・部門別原価計算
・製品別原価計算
それぞについて説明していきます。
費目別原価計算
メーカーにおける製造原価報告書の手順の1つに「費目別原価計算」があります。費目別原価計算は、外部から購入してきた材料を「材料費」「労務費」「経費」の3つに分類し、それを製品ごとに把握できる原価と把握できない原価に分けます。
部門別原価計算
「部門別原価計算」は、費目別原価計算で記録され集計された間接費を各部門へ分配する工程のことです。部門別原価は「製造間接費」とも呼ばれています。各部門がどれほどの間接費を使っているのかを算出し、一定の基準を用いて個々の製品の原価として分割します。
製品別原価計算
「製品別原価計算」とは、費目別原価計算と部門別原価計算の結果をもとに、直接材料費と直接労務費、直接経費、製造部門比を製品別に集計する工程のことです。製品別原価計算の目的は、製品ごとの原価計算を通して、企業の損益を明確することにあります。
製造原価報告書
メーカーにおける経理の特徴の1つに「製造原価報告書」を作成することがあります。この製造原価報告書は決算書類の1つとして作成しますが、「貸借対照表」「損益計算書」と合わせて作成します。製造原価報告書の目的は、企業内の製造以外の活動でかかるコストと製造にかかるコストを適切に区別することです。
このように、設備投資が多く原価計算も必要なメーカーの経理は、一般的な経理職よりも処理が複雑で難易度も高いと言われています。
メーカー経理の仕事内容
メーカー経理の仕事内容をご紹介します。メーカー経理の仕事内容は、以下の項目に分けられます。
・日次業務
・月次業務
・年次業務
日次業務
メーカー経理の日次業務は、主に伝票の作成、立替経費の精算などの現金出納業務などがあります。伝票作成には、会計ソフトを利用している企業も多いです。毎日、伝票作成や現金出納業務などを欠かさず行うため、会計の基礎知識がメーカーの経理にも必要です。
月次業務
メーカー経理の月次業務の内容は、主に取引先との売掛金や買掛金の管理、原価計算、従業員の給与計算、月次決算、月次役員会議などの資料作成が含まれます。企業によって異なりますが、売掛金や買掛金の管理は月末に、また月次決算は毎月10日までに行われます。そして、毎月20日までには月次役員会議の資料作成を完了させます。月次業務で行われる従業員の給与計算においては、社会保険や所得税、また住民税などの幅広い知識が必要になります。
年次業務
メーカー経理の年次業務は、年次決算、税金の申告と納税などがあります。税金の申告の前に、定時株主総会で決算書の承認を受けなければなりません。そのため、年次決算をその時期までに終わらせておく必要があります。税金の申告と納税は、事業年度終了日の翌日から2か月以内と定められているため注意が必要です。メーカー経理は、税理士や会計士との専門的なやり取りが発生してくるため、高レベルの税金や会計に関係する知識が求められるでしょう。
メーカー経理に必要なスキル
メーカーの経理職には、業種特有のスキルが求められます。メーカー経理職に必要なスキルを事前に抑えておくことで、転職やキャリアアップを考えている人は選択肢を増やすことができるでしょう。
ここではメーカーの経理職に必要なスキルを4つご紹介します。
・原価計算の知識
・経理に関する知識
・製造過程の知識
・専用ソフトウェアの知識
原価計算の知識
メーカー経理職には、「原価計算の知識」が必要です。原価計算とは、上述した通り、製品を製造する過程で必要となったコストを計算することです。
原価計算業務は、他の業種には見られない独特な業務です。原価計算とは、工業簿記のルールに沿って行われなければなりません。そのため、他の業種で経理職を経験していたとしても、メーカーの経理を行うには、工業簿記などに必要な原価計算などの知識が必要になります。転職やメーカー経理職への異動を考慮している方は、原価計算の知識を取得しましょう。
経理に関する知識
メーカー経理は、他の経理とは異なる部分が多いですが、一般的な「経理に関する知識」も必要です。その理由として、一般的な業種と共通している仕事内容も多いことが挙げられます
業務の中で臨機応変に対応していくためには、経理の部分的な知識だけではなく、経理業務全般の幅広い知識が必要になります。経理業務における一連の流れを抑えておくことが必要です。そうすることで、経理業務の幅を広げることができ、効果的な経理を行っていけます。メーカー経理として活躍するために、経理に関する知識を広げていきしましょう。
製造過程の知識
メーカーの経理職として役割を果たしていくには、「製造過程の知識」を身に着けることも重要です。製造の現場で行われる一連の過程を把握しておくことで、事業の利益率の向上に貢献することが可能です。
たとえば、製造において無駄なコストを抑えるには、製造過程のどこに無駄があるのかを見抜くことが必要です。そのためには、製造過程の知識が必要になります。製造過程の知識を身に着けるには、実務経験を積むことが必要です。実務経験を積むことで事業への理解や製造行程の具体的な構造まで掴むことができるようになり、知識が広がっていくでしょう。経理業務を行いつつも製造過程に関わることが可能ならば、積極的に動いてみましょう。
専用ソフトウェアの知識
メーカーの経理職に必要なのは、原価計算のスキルだけではありません。請求書の発行や仕入れ先への支払いなどさまざまな仕事があります。大量の請求書などを効率的に処理するために、専用のソフトウェアを導入して業務をこなしていく経理部門もあります。そのため、即座に業務への対応ができるように「専用ソフトウェアの知識」も、メーカーの経理職には求められます。
会計の専用ソフトウェアを導入していない企業においては、Excel(エクセル)などのOfficeソフトが利用されているケースが多いです。そのため、企業によってはExcel(エクセル)の知識が必要になる場合もあります。
メーカー経理に必要な資格
メーカーの経理には特有のスキルが求められますが、そのスキルを確立するための資格もいくつか存在します。ここでは、メーカー経理に必要な以下の3つの資格をご紹介します。
・簿記
・TOEIC
・日商原価計算初級
簿記
メーカー経理で必要な資格の代表的なものとして「簿記」があります。メーカー経理だけに関わらず簿記の資格を取得するならば、経理の基本知識を学べます。そのため、経理で働くことを考えている人には必須の資格であると言えます。
メーカー経理では、原価計算を詳細に行うという特徴があります。そのため、試験範囲に工業簿記を含む日商簿記2級の資格を取得することをおすすめします。
経理と簿記については、こちらの記事もご参照ください。
⇒経理職に簿記は必要か?簿記の必要性・簿記を取得するメリット・さまざまな簿記関連の資格について解説
TOEIC
メーカー経理業務に役に立つ資格には「TOEIC」もあります。メーカーの中には、生産の拠点を海外に置いている企業もあります。そのため、メーカー経理業務の中でビジネス英語を実務で使えることは大きなメリットになります。
TOEICは、数ある英語の資格の中でも有名な資格です。TOEICで高得点を取得していることは、グローバルに事業を展開しているメーカーの採用全般において高い評価をもらえることが期待できます。一般的に、TOEICで800点以上あればメーカー経理職として採用されるのに有利だと言われています。
日商原価計算初級
「日商原価計算初級」もメーカー経理に必要な資格の1つです。日商原価計算初級という資格は、2018年から始まった資格で、日商簿記2級の資格を易しくしたレベルの資格制度です。
簿記学習経験の有無を問わずに原価計算の基本知識を学べる入門資格制度であり、学習の進捗に応じて受験できます。日商簿記2級の資格を取得していないならば、まずこの日商原価計算初級に挑戦してみることをおすすめします。
メーカー経理のやりがい
メーカー経理は、他の経理職と比べると原価管理を詳細に行うという特徴があります。原価計算を正確に行い、製品にかかった原価を把握することは製造コストを下げ、企業の利益に資するため、非常に重要な業務です。そのような重要な職種に携われるということは、メーカー経理のやりがいの1つでしょう。正確な原価計算で適切な商品価格が決定し、可視化された無駄なコストの削減にもつながります。資格として日商簿記2級を取得して、工業簿記の基本的な知識を広げることで、さらに実務を通して業務経験を積み、経理職を熟達していくことが可能です。
またメーカー経理職のやりがいには、会計の幅広い知識を利用して企業の経営陣と肩を並べて働けることもあります。経理職は、企業内の各事業部の業績から企業全体の経営状況までさまざまな情報に接することになります。
経理は、それらの情報を数字で管理し、企業の売り上げに貢献します。会社の経営陣と密接に働き、会計的な面でアドバイスを求められることもあるでしょう。会計の専門的な知識を駆使して経営陣と共に働けることは、経理の1つの魅力でしょう。
経理職のやりがいについては、こちらの記事もご参照ください。
⇒経理職のやりがい|大変なポイント・向いている人も解説
メーカー経理のキャリア
メーカー経理は、他の職種の経理と共に専門性の高い職種の1つです。そのため、経理担当者は、担当者や管理者への昇進が多いようです。最終的には、CFO(最高財務責任者)といった経営管理者へのキャリアアップもあります。また経理は、企業の経営状況を把握して、コスト削減などを実現し、企業の売り上げに貢献します。つまり、企業の経営を管理することが経理の役割です。そのため、他の管理部門へのキャリアアップも期待できます。
具体的には、メーカーの経理担当者として工業簿記や原価計算の知識を身に着けていき、日次業務、月次業務、そして年次業務の1つである決算業務の流れを理解していきます。流れがつかめ、実務経験を積めば経理部門の管理職に昇進し決算報告書を作成する業務に携わることになるでしょう。その後、企業のCFO(最高財務責任者)の立場で企業の経営に直接関与していくことになります。
企業内部でキャリアアップすることは、人脈形成がしやすく、管理職に昇進するまでの期間が比較的短いです。企業内での人脈形成が確立されていることは、自分をアピールする面で有利でしょう。効果的に自分をアピールできることで、転職してキャリアアップを考えるよりも比較的短期間で管理職に昇進できるでしょう。
しかし、企業内部でのキャリアアップの問題点は、日常業務で得られる社内の知識だけに捉われてしまうという点です。CFO(最高財務責任者)に必要なことは、日本経済の動向を知り、自社を他社と差別化していく視点です。そのため、企業内部でのキャリアアップを考慮するなら、積極的に経営知識を習得していくことが重要でしょう。
経理職のキャリア・CFOについては、こちらの記事もご参照ください。
⇒経理部門のキャリアの考え方|経理の代表的なキャリアプラン・経理のキャリアパスについて解説
⇒CFO(最高財務責任者)とは?定義・意味から役割・仕事内容・なり方・キャリアパスまで徹底解説!
⇒CFO転職の方法とは?CFO転職のメリットやキャリアパスも徹底解説!
⇒公認会計士からCFOは目指せる?求められる役割とCFOに転職するメリットについて解説
まとめ
本記事では、メーカーでの経理職を希望している人、またメーカー経理職への転職を考えている人に向けて、その仕事内容や必要なスキル、またやりがいなどを詳しく解説してきました。
メーカー経理においては、原価計算の知識が必須です。工業簿記や原価計算は容易ではありませんが、それらの知識を習得していくことで企業の経営状況も把握することが容易になり、経理業務をよりスムーズに進めていくことができるようになるでしょう。
この記事が、メーカー経理職を希望している人や転職を考えている人の参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。