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報酬制度とは?役割・種類・制度設計の手順・導入時の注意点・事例について詳しく解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
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従業員が高いモチベーションで働き、企業にとっても最適な人件費の支出で運営していくために報酬制度は非常に重要です。
しかし、「適正な報酬制度はどのようなものか分からない」と感じている方も多いのではないでしょうか?
報酬には様々な種類があり、それぞれの意味を理解して、報酬制度を適切に設計していくことで、企業独自の人事制度を作り上げることができます。
この記事では報酬制度の重要性や設計手順を、企業の実例を見ながら分かりやすく解説していきます。
人事制度について、こちらの記事もご参照ください。
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⇒人事考課制度の作り方|会社と社員へ与える影響と運用の注意点を解説
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⇒評価制度とは?評価制度の目的・種類・制度の導入時に考えるべきポイントを解説
⇒賃金制度とは?年功給・職能給・成果主義賃金制度について詳しく解説
目次
報酬制度とは
報酬制度とは従業員の仕事の成果や貢献度に応じて、従業員へ支払う報酬を決めるためのルールです。
報酬には「給与」「賞与」「退職金」「福利厚生」などがあり、等級や人事評価などと関連して報酬が決定します。報酬制度は次の4つのいずれかの考え方に基づいて設計されていることが一般的です。
・年功主義
・職能資格主義
・職務等級主義
・成果主義
従業員の年齢や勤続年数に応じた体系になっているのが年功主義で、職能資格主義もそれに近い考えです。
また、従業員の年齢や勤続年数とは無関係に仕事の成果に応じて報酬が決まることを成果主義とか職務等級主義などといいます。このように報酬制度の根拠となる考えはさまざまで、いずれかの考えに基づいて従業員の報酬を決めるためのルールを報酬制度といいます。
報酬制度があることによって、従業員は「自分の給料が上がるにはどうすればよいのか」というだけでなく、「あと〇年働けば報酬がアップする」などを知ることができます。
報酬制度の3つの役割
報酬制度には主に次の3つの役割があります。
・従業員のモチベーション向上
・人材の確保と定着化の促進
・人件費の適正化
従業員のためにも会社のためにも、適正な報酬制度を設計することは非常に重要です。報酬制度の3つの役割について詳しく解説していきます。
従業員のモチベーション向上
報酬制度を堅実に構築しておくことによって、従業員のモチベーション向上につながります。
従業員は報酬制度があることによって「どのようにすれば自分の給料が上がるのか」を把握できます。
報酬制度がない会社においては、従業員が給料が上がる方法を把握も理解もできないため、「今よりも頑張ろう」と思いにくいのが実情です。
報酬制度があれば、従業員が仕事を頑張るモチベーションが高くなるので、生産性が向上したり、従業員が日々働き甲斐をもって働けるようになることが期待できます。
人材の確保と定着化の促進
報酬制度があることによって、人材を確保しやすく、さらに定着化を促進できます。
求人の際に、報酬制度を明確にしておくことで、「いくら受け取れるのか」「将来的にはどの程度の給料になるのか」が明白になります。
当然ながら、報酬制度を明確にしていない企業と比較して報酬制度を明確にしている企業の方が新規採用をしやすいでしょう。
また、報酬制度があることによって従業員は「将来的にはどの程度の年収になるのか」を予測して、それぞれの人生の計画が立てやすくなります。
将来が見えない会社よりも、将来がしっかりと見える会社の方が、従業員の定着率は高くなるので、報酬制度は人材の定着化にも寄与するでしょう。
人件費の適正化
報酬制度を構築することで、人件費の適正化を図れるため、企業にとってもメリットがあります。
どのような仕事をして、どのような能力があり、どのような役割を果たす従業員にはどの程度の報酬を支払うのかを再定義できるためです。
古くからの報酬制度の元では、どうしても時代や技術についていかれず、ただ「勤続年数が長い」というだけの従業員へ高額な報酬が支払われているというケースが往々にしてあります。
報酬制度を再構築することによって「会社の利益にとって有用な人材には高い報酬を支払う」と再定義できるため、これまで、不要に多く支払っていた人件費を削減でき、生産性の高い人や分野へ投資できるようになるでしょう。
伝統的な報酬制度を採用している企業にとって、報酬制度を作り直すということは、企業全体の生産性を向上させ、人件費を有効活用する効果があります。
報酬制度の6つの種類
報酬制度には次の6つの種類があり、これらを上手に組み合わせることによって従業員にとっても企業にとっても有用な制度を設計することが可能です。
・基本給
・能力給
・職務給
・賞与(ボーナス)
・インセンティブ
・手当
報酬制度の6つの種類について詳しく解説していきます。
基本給
基本給は給料のベースとなる基本の給料です。基本的には賞与やその他の手当なども基本給をベースに算定されることが多いので、従業員の報酬の基礎となる部分です。
基本給は年齢・勤続期間・学歴・能力・業績などによって決定し、昇給や降給のルールは企業の報酬制度の仕組みによって異なります。
能力給
能力給とは、従業員の能力やスキルや知識や資格などに応じ支払われる部分の報酬です。ほとんどの企業で能力給は評価によって決定し、評価の高い人ほど能力給は高くなります。
成果を重視する企業であれば、従業員の成果に応じて能力給が変動しますし、資格などを重視する企業では資格を多く取得している従業員ほど能力給が上昇することもあります。
企業によって異なる評価基準に基づき、金額が変動する部分が能力給です。
職務給
職務給とは従業員が担当する職務の重要度や企業にとっての優先順位に応じて変動する報酬です。
例えば、役職者などはこの職務給の部分が高くなるのが一般的です。
どのような職務にどんな職務給を支払うのか、あらかじめ多くの従業員が納得できるような評価基準を設けておくことが非常に重要です。
賞与(ボーナス)
賞与(ボーナス)は基本給や能力給などの毎月支払う定期給以外に支払われるものです。日本企業では夏と冬の年2回支払うことが当たり前のようになっていますが、賞与は「定期給とは別」というだけで、どのタイミングでいくら支払っても構いません。
さらに、必ずしも金銭である必要はなく、企業によっては自社商品をボーナスとして支給している場合もあります。就業規則に別段の定めを記して一定の条件を満たしてさえいれば、支給の法的な義務がないのが大きな特徴です。
インセンティブ
インセンティブとは、会社の売上などに応じて報酬を上乗せする仕組みです。従業員の努力や創意工夫が業績に直結する営業職に多く導入されています。従業員は多く売上をあげればインセンティブ報酬がアップするので、営業活動に励み、結果的に多くの売上を上げられるようになります。
インセンティブ報酬には給料や賞与という金銭で支払うものと、従業員へ海外旅行をプレゼントすることやストックオプションの付与などの非金銭的報酬の2つがあります。
インセンティブ制度については次の記事もご参照ください。
⇒インセンティブプランとは?種類とメリット・導入時の注意点を解説
⇒【上場企業必見】M&A先で有効な業績連動型報酬とは?子会社向け株式インセンティブプラン4類型を分かりやすく解説!
手当
手当は会社が従業員へ支払う手当のことです。交通手当や住宅手当などの代表的なものの他、残業代・休日手当・退職金・年金なども手当と言われることもあります。
どのような手当を従業員に対して設けるのかは就業規則で企業ごとに取り決めを行います。
就業規則については次の記事もご参照ください。
⇒就業規則の作成について|就業規則の作成手順と記載事項・作成時の注意点も解説
報酬制度を設計する手順
報酬制度を設計する際には次のような手順で進めていきます。
1.現状を把握する
2.会社の評価制度との整合性を確認する
3.報酬体系を設計する
4.基本給を設定する
5.報酬テーブルと賞与テーブルを設計する
6.報酬制度運用のシミュレーションをする
7.従業員へ報酬制度を周知し、理解を得る
報酬制度を自社で設計するための手順をそれぞれの流れに沿って詳しく見ていきましょう。
現状を把握する
まずは自社の報酬制度が現状どのようになっているか、会社としてどのような問題を抱えているのか、どのような企業を目指すのかという現状を把握しましょう。
経営陣や専門部署などで現状について把握と検討を行うことはもちろんですが、従業員に対しても「報酬制度についてどう思うか」「どんな報酬制度であれば、モチベーションを高く働けるか」など、匿名のアンケートを取るのもよいでしょう。
会社の評価制度との整合性を確認する
会社の評価制度と報酬制度が現状にあったものなのかの確認を行いましょう。
例えば、年功序列で勤続年数が長い従業員が高い報酬を受け取る報酬制度になっている会社では、中途採用者に対して「勤続年数が短い」という理由で満足のいく報酬を支払うことができません。
これでは優秀な中途採用者を獲得することが困難になるため、中途採用が多い企業は報酬制度の変更が必要になるなど、企業の評価制度が現状に適合したものになっているのか、十分な確認を行いましょう。
報酬体系を設計する
次の具体的な報酬体系を設計していきます。報酬体系は内部要因と外部要因から企業の目標や文化に沿ったものを作成していきます。
内部要因とは「企業が何を重視するのか」に基づいて報酬体系を決めることです。例えば、成果を重視する企業であれば、従業員の成果に対して報酬を支払えるように、インセンティブやボーナスの水準をあげるという方法が考えられます。時間をかけて従業員を育てたいのであれば勤続年数に応じて報酬が上がっていく仕組みを作るのも1つの方法です。
外部要因とは、周辺地域や同業他社との比較です。例えば、同業他社よりも低い報酬設定であれば優秀な人材を獲得することは不可能です。地域の中でも低い報酬の場合も同様です。同業他社や地域の報酬水準と比較して自社の適正な報酬水準を決定していきましょう。
外部要因を意識しながらも「自社が何を重視するのか」という内部要因から最適な報酬体系を設計するようにしてください。
基本給を設定する
次に基本給を設定します。基本給設定のポイントは「等級と連動させる」ということです。
役割等級制度を導入している会社であれば、重要な役割等級の人ほど基本給も高くなる仕組みです。
等級は従業員の評価の基礎となる部分ですので、ここと基本給を連動させておくことが企業にとって最も従業員から不満の出ない方法だと言えます。
また、基本給をベースにそのほかの報酬も決定するので、「等級=基本給」とすることによって等級に応じて全ての報酬が決定することになります。
従業員は等級制度において高い評価を得られるよう、会社が求める方向性に向かって努力するようになるでしょう。
役割等級制度については次の記事もご参照ください。
⇒役割等級制度とは?制度の特徴とメリット・デメリット・導入の流れと事例を解説
⇒ミッショングレード制とは?他の制度との関係・制度の導入に必要な役割定義書の作成方法まで詳しく解説
報酬テーブルと賞与テーブルを設計する
次に報酬テーブルと賞与テーブルを設計します。
報酬テーブルとは、基本給、能力給、職務給などの金額を決定し一覧表になっているものです。
賞与テーブルも等級に応じて、どの程度の賞与を支払うのかを決めるものです。
ただし、会社が想定以上に稼いだ分を従業員へ還元するものですので、必ず支払わなければならない基本給とは根本的に性質が異なります。
あまりにもしっかりと賞与テーブルを決めてしまうと、会社の首を締めることにも繋がるので、賞与テーブルには幅を持たせておいた方がよいでしょう。
報酬制度運用のシミュレーションをする
ここまでできれば制度自体の設計は終了です。
しかし、設計した報酬制度が本当に企業の中で有機的に運用できるのか、また金銭的に無理のないものなのかは不透明です。
そのため、制度が確立できたら報酬制度運用のシミュレーションを行ってみることも重要です。
5年先、10年先のどのような金銭的負担になるのか、期待している若手従業員は順調に育ち、企業が期待する方向性に行くことができるのかなども確認しましょう。
従業員へ報酬制度を周知し、理解を得る
報酬制度を実際に運用する前に、従業員へ報酬制度について周知を図ることも重要です。
報酬制度は従業員にとって生活に直結するものですし、報酬制度を新たに導入したことによって給料が下がってしまう従業員も存在するためです。
そのため導入の半年〜1年前には従業員へ「報酬制度を新たに導入する」と発表し、研修会などを開いて、新たな報酬制度について理解を求めましょう。
報酬制度運用時の注意点
報酬制度を新たに導入し、運用する際には次の3点に注意しなければなりません。
・評価制度と連動させる
・自社の風土に合った報酬制度を導入する
・インセンティブを公平に設定する
報酬制度を設計する際の3つの注意点について詳しく解説していきます。
評価制度と連動させる
報酬制度は評価制度と連動させなければなりません。報酬制度と評価制度が連動していないと「会社から高い評価を得ているはずなのに報酬が低い」「会社から評価されていない人間が高い報酬を受け取っている」という事態になってしまうためです。これでは従業員のモチベーションは上がりません。
従業員が主体的に「会社から評価されたい」と考えて、高いモチベーションで働けるように、評価制度と報酬制度は必ず連動させ、「高い評価を得られれば高い報酬を受け取れる」という当たり前の構造を作るようにしてください。
人事評価・評価制度については、こちらの記事もご参照ください。
⇒人事評価とは?人事評価の目的・導入方法・注意点について解説
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⇒人事評価制度のメリット・デメリット|デメリットの解決策・人事評価制度の失敗例についても解説
自社の風土に合った報酬制度を導入する
報酬制度が企業文化や企業の風土に合ったものとなるようにしてください。
例えば「従業員は皆家族」と、終身雇用を前提としたアットホームな企業においては勤続年数が長くなれば報酬もアップする報酬制度を採用していることが多くなっています。
このような企業が、突然、成果報酬制度を導入してしまったら、その企業の文化は壊れてしまいます。
もちろん、企業文化を大改革するために意図的に報酬制度を変更するのであれば問題ありませんが、意図せずに企業文化とは異なる報酬制度を導入してしまったら、企業の文化は大きく壊れてしまい、従業員の退職に繋がってしまう可能性があります。
導入しようとしている報酬制度が企業の文化に合っているか、導入したらどんな影響があるのか、ということも慎重に検討した上で報酬制度を導入してください。
インセンティブを公平に設定する
インセンティブ制度を設ける場合には、どの従業員にも公平になるように設定しましょう。
例えば、営業職ばかりにインセンティブを設けていたら、その他の部署の人間のモチベーションは下がってしまいます。そのため他の部署にもインセンティブ報酬を設けるか、営業職は基本給の割合を下げてインセンティブ給の割合を引き上げるなどの工夫が必要です。
インセンティブを設ける場合には、基本的に全ての従業員が「頑張れば報われる」と思えるような設計にしましょう。
報酬制度の事例
実際に大手企業がどんな報酬制度を導入しているのか見ていきましょう。
・トヨタ自動車株式会社
・損保ジャパン株式会社
・株式会社メルカリ
これらの企業は独自の報酬制度を導入し、一定の成果を上げることに成功しています。大手企業の人事制度がどのようなものか、概要と効果について詳しく解説していきます。
トヨタ自動車株式会社「人事評価点数アップによるボーナス増加」
トヨタ自動車株式会社は成果を出した従業員のボーナスを1.5倍程度に引き上げる報酬制度を導入しました。
ボーナス支給額を左右する人事評価の際に、従業員に「0点」「1点」「2点」「3点」の4段階の評価を行い、点数が高いほど増額する仕組みを導入しています。
仮に前のボーナスで200万円を受け取った人が3点を獲得した場合には、300万円のボーナスが受け取れる仕組みです。
トヨタ自動車は「厳しい国際競争の中、従業員が高い意欲で働ける必要がある」との考えから、人事評価によるボーナスアップの仕組みを導入したとのことです。
損保ジャパン株式会社「インセンティブ・ポイント制度」
損保ジャパン株式会社は営業職を支えるエリア職、 アソシエイト職(パート)などに報酬還元できる制度として、「インセンティブポイント制度」をスタートしました。
インセンティブポイント制度は次のように目標達成に応じて従業員にポイントを付与する仕組みです。
・成約件数:成約件数に応じて付与
・連月稼働:3ヶ月連月稼働で付与
・スタートダッシュキャンペーン:目標となる売上の達成者に付与
・殊勲賞:営業現場での良い取り組みに付与
貯まったポイントは社員が自由に好きなものと交換できるので、従業員のモチベーション向上に寄与しました。
損保ジャパンはこれまでも従業員へのポイント制度を導入していましたが、 約10人に1人のトップ層しか評価されませんでした。しかし「インセンティブ・ポイント制度」を導入したことによって、一般の従業員も評価できるようになりました。
株式会社メルカリ「ピアボーナス制度:メルチップ」
株式会社メルカリが導入している制度がピアボーナス制度の「メルチップ」です。
ピアボーナス制度とは従業員同士が他の従業員をポジティブに評価し合う制度です。メルカリはピアボーナス制度に「メルチップ」という制度を用意しています。
従業員双方が褒め合う仕組みを導入することによって、従業員のモチベーションが向上し社内のコミュニケーションが活発化するようになりました。
まとめ
報酬制度は従業員の給料金額や昇給や降給の仕組みや、その他の給料の内訳を決めるものです。
報酬制度がしっかりとしたものであることによって、従業員が高いモチベーションで働くことができ、会社が求める方向性に向けて従業員を育成していくことができます。
ただし報酬制度を突然変更すると従業員から反発があり、企業文化を破壊してしまう可能性もあります。
どのような報酬制度を導入すれば、従業員が高いモチベーションで働くことができ、採用や従業員の定着化に寄与するのかを検討し、自社にとって最適な制度を導入しましょう。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。