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関連当事者とは?上場審査において注意すべき事項を解説
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
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IPOを目指す企業が上場審査の前に行うべきことの中に、関連当事者取引の解消や関係会社の整理があります。
関連当事者とは、上場を予定する企業の主要株主や役員などのことで、この関連当事者は企業の意思決定に重要な影響を与える事ができるため、関連当事者との取引は少数株主の利益を奪ってしまう恐れがあるため、基本的には株式上場の際に関連当事者との取引を事前に解消する必要があり、証券取引所の上場審査でも関連当事者との取引について審査されます。
そこで、本記事では
・関連当事者の範囲
・関連当事者取引を整理しなければいけない理由
・上場審査において注意するべき関連当事者取引
について詳しく解説を行っていきます。
IPOについて、次の記事もご参照ください。
⇒ベンチャー企業がIPOする意義はあるのか?上場のメリット・デメリット
⇒IPOの準備スケジュール|直前前々期から申請期まで解説
⇒上場の条件とは?上場基準・上場までの流れ・上場のポイントを徹底解説!
⇒上場のために必要な売上基準とは?IPOのための業績について解説
⇒上場審査とは?審査基準・審査の流れ・審査通過のポイントを徹底解説!
⇒IPOの失敗を防ぐには?IPO失敗理由・失敗事例・失敗の回避方法を解説
⇒上場ゴールとは?上場ゴールに陥らないためのポイントを詳しく解説
目次
関連当事者とは
関連当事者とは会計基準で定められた、会社またはその役員、そしてそれらと一定の関係を持つ人のことを指します。
関連当事者との取引は一般的な取引とは異なり、特殊な条件の下で行われ、さらにその取引条件を財務諸表などから読み取ることは容易ではありません。そのため、財務諸表の利用者が適切に理解できるようにするために、関連当事者との取引が会社の財政状態や経営成績に及ぼす影響についてを財務諸表の注記において開示しなければならないと「関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針」で定められています。
関連当事者の範囲
関連当事者の範囲は財務諸表等規則第8条第17項によって定められています。
関連当事者の範囲は以下のように定められています。
1. 親会社
2. 子会社
3. 財務諸表作成会社と同一の親会社をもつ会社(兄弟会社)
4. 会社が他の会社の関連会社である場合における「他の会社」ならびにその親会社および子会社
5. 関連会社および関連会社の子会社
6. 主要株主(10%以上の議決権を保有している株主)およびその近親者(二親等内の親族)
7. 役員(取締役、会計参与、監査役若しくは執行役又はこれらに準ずる者)およびその近親者(二親等内の親族)
8. 主要株主およびその近親者、役員およびその近親者が議決権の過半数を所有している会社等およびその子会社
9. 重要な子会社の役員及びその近親者(二親等内の親族)
10. 6から9に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及びその子会社
11. 従業員のための企業年金(企業年金と会社との間で掛金の拠出以外の重要な取引を行う場合に限る。)
関連当事者取引を整理しなければならない理由
関連当事者取引を整理しなければならない理由は、一般株主が不当に不利益を被ることが無いようにするためです。
関連当事者は企業の意思決定に重要な影響を与えることができることや、また、何かしらの名目の元で関連当事者取引を行うことで企業が得た利益を自分の利益として横流しすることもできます。上場企業においてこのような取引を認めてしまうと、一般株主やこれから株主になるであろう人が得られるはずであった配当やキャピタルゲインが意図的に奪われることになります。
そのため、上場企業やIPOを目指す企業は、株主が不当に不利益を被る可能性をなくし公正な取引を行うことができるように関連当事者取引の整理を行わなければなりません。
上場審査において注意すべき関連当事者取引
上場を目指す企業は証券取引所による上場審査を受ける必要があります。
証券取引所における上場審査において、関連当事者や関連会社の整理を行わなければならないことが、東京証券取引所の「上場審査等に関するガイドライン」に定められています。
上場審査等に関するガイドラインで定められている、上場審査において注意すべき関連当事者取引について解説をしていきます。
役員・主要株主等との取引
企業や企業グループに影響を及ぼす可能性が高い役員・主要株主等との取引を行う場合には、取引条件や取引量などが事業上必要であることを合理的に説明できるか、また、取引に契約書等の裏付けがあるかどうかなど取引内容に合理性があることを示す必要があります。
事業上の合理性がない、もしくは、取引条件が妥当ではないと判断された場合は、取引の解消や取引条件の見直しなどが求められる可能性があります。また、合理性がある場合も、契約書・見積書といった書類を整備し取引の根拠を示す必要があります。
また、関連当事者等との取引として問題となりやすい事例として次のようなものがあります。
不動産賃借取引をしている場合
関連当事者等から事務所など賃借している場合や、申請会社グループ所有の不動産を住宅用として関連当事者等に貸している場合など、関連当事者との間で不動産賃借取引をしている場合にも、取引の合理性や事業上の必要性、取引条件の妥当性などの説明が求められる場合があります。
これらの説明が不十分である場合には契約の解消をしなければならない場合があります。
資金取引や債務保証取引をしている場合
申請会社グループが関連当事者等との間で資金の貸借や関連当事者等の債務の保証を行っている場合は、取引の合理性や妥当性などとは関係なく、原則、解消しなければなりません。
また、申請会社グループの借入やリース債務に関連当事者等(特に経営者)の個人保証が付されている場合は、直接的には上場申請会社の株主に不利益を与えるものではありませんが、一経済主体としての申請会社グループの信用力が借入規模に比して十分でないことの証左とも捉えかねられないため、解消をしなければなりません。
関連当事者等の役員や従業員を兼任している場合
上場申請会社の役員や従業員が、関連当事者等の役員や従業員を兼任している場合は、上場申請会社の人事において合理的であるか、もしくは、兼任する必要があるかどうかを示す必要があります。
また、合理性や必要性がある場合でも、上場申請会社の業務に支障をきたさないかを検討することや、報酬額や報酬の負担関係が妥当であるかどうかという点を検討することが必要になります。
関係会社との取引
関係会社がある場合は、その関係会社の存在の合理性を示す必要があります。関係会社の存在の合理性が認められない場合は、合併や事業譲渡などを行うことにより、グループ再編を行わなければなりません。
グループ再編が必要となる可能性がある関係会社として以下のようなものが挙げられます。
関係会社の存在意義が薄い場合
関係会社の存在意義が薄い場合はグループ再編が必要となる可能性があります。
関連当事者等の中でも、関係会社は、財務数値の恣意的な調整などに利用することができます。したがって、上場審査において、これらの関係会社の存在意義について説明を求められます。
関係会社の存在意義が薄いと判断された場合には、合併、売却、清算などをすることで整理しなければなりません。例えば、上場申請会社と同じ機能を有する関係会社や、休眠状態の関係会社などは存在意義が薄いと判断されます。
関係会社が業績不振の場合
上場申請会社自身の業績は好調であったとしても、企業グループの中の一部に経営状況が悪い企業がある場合には、企業グループ全体に悪影響を及ぼす場合があるため、経営状況が悪い関係会社の存在意義に関して上場審査の際に説明が求められることがあります。
そのため、上場後に株主が不利益を被ることがないように、清算・売却などグループ再編を視野にいれた対応をすることが必要になります。
兄弟会社について
兄弟会社(上場申請会社と共通の親会社を持つ会社)は、親会社の状況や親会社が兄弟会社を所有する意図によっては、現在は取引関係がなくても、将来的に上場申請会社に影響を与える可能性があります。
そのため、上場審査の際には、兄弟会社の存在意義や兄弟会社が将来的に上場申請会社に与える影響などが検討されます。そして、特に兄弟会社が非上場企業の場合は、上場申請会社の親会社と、兄弟会社の存在意義や今後どのようにしていくかということについて話し合いをする必要があります。
関連会社等との取引の具体的な開示内容
関連会社等との取引がある場合は、政府の定める「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」に基づいて、重要なものについては開示を行わなければなりません。
開示しなければならない内容としては以下のようなものがあります。
・名称、所在地、資本金、事業内容、議決権の所有割合(法人の場合)
・氏名、職業、議決権の所有割合(個人の場合)
・財務諸表の提出会社との関係
・取引の内容
・取引金額
・取引条件と決定方針
また、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」において、開示が必要となる重要な取引は次のように規定されています。
個人を対象とした取引の場合 | 法人を対象とした取引の場合 |
---|---|
1,000万円を超える取引 | ・規模の大きな売上・仕入・販管費が発生した場合 ・事業と直接関係のない収益・費用が大規模になった場合 ・大規模な借入、固定資産・有価証券の売買が行われた場合 ・事業譲渡によるM&Aなどにより、大規模な資産または負債が発生した場合 |
「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」については詳しくは金融庁が公開している以下の書類をご覧ください。
「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について
関連当事者との取引の開示例
企業会計基準委員会が公表している「関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針」に記載されている関連当事者との取引の開示例を紹介します。
・親会社及び法人主要株主等
種類 | 会社等 の名称 |
所在地 | 資本金 又は 出資金 |
事業の 内容 |
議決権等の 所有(被所有) 割合 |
関連当事者 との関係 |
取引の 内容 |
取引 金額 |
科目 | 期末 残高 |
親会社 | A 社 | 都 区 | ××× | ○○ 製造 |
被所有 |
当社製品の販売 役員の兼任 |
○○製品 の販売 (注 1) 資金の借入(注 2) 利息の支払(注 2) |
××× ××× ××× |
受取手形 及び 売掛金 長期借入金 その他の流動資産 |
××× |
その他の関係会社(当該その他の関係会社の親会社を含む) | B 社 | 都 区 | ××× | ○○ 製造・ 販売 | 被所有 直接 20% 間接 2% |
B 社製品の購入及び 設備の賃貸 |
原材料の 購入(注 3) 建物の賃貸 (注 4) 当社の銀行借入金に対する土地の担保提供(注 5) |
××× ××× ××× |
支払手形 及び 買掛金 その他の固定負債 (預り 保証金) - |
××× |
主要株主 (法人) |
C 社 | 都 区 | ××× | ○○ 製造 | 被所有 直接 10% 間接 1% |
技術援助契約の締結 | 技術料の 支払 (注 6) | ××× | その他の流動負債 | ××× |
上記の金額のうち、取引金額には消費税等が含まれておらず、期末残高には消費税等が含まれている。
取引条件及び取引条件の決定方針等
(注 1) 独立第三者間取引と同様の一般的な取引条件で行っている。
(注 2) 資金の借入については、借入利率は市場金利を勘案して利率を合理的に決定しており、返済条件は期間 5年、1年据
置き、半年賦返済としている。なお、担保は提供していない。
(注 3) 原材料の購入については、B社以外からも複数の見積りを入手し、市場の実勢価格を勘案して発注先及び価格を決定し
ている。
(注 4) 建物の賃貸については、近隣の取引実勢に基づいて、2年に一度交渉の上、賃貸料金額を決定している。
(注 5) 当社の銀行借入金に対する土地の担保提供については、B社からの原材料購入のための資金借入れに対するものである。
(注 6) 技術料の支払については、C社より提示された料率を基礎として毎期交渉の上決定している。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回はIPOにおいて注意すべき関連当事者取引について解説しました。
上場審査において問題にならないために早めに関連当事者取引の整理を行っていくことが大切です。
現在スタートアップ・ベンチャー企業を経営していてIPOを目指されている方、IPOに向けた準備をされている方にとって参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
スタートアップ・ベンチャーの経営をされている方にとって、事業に取り組みつつ資金調達や資本政策、IPO準備も進めることは困難ではないでしょうか。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。