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IPO時にストックオプションもロックアップされる?ロックアップの種類・対象・事例を徹底解説!
執筆者:茅原淳一(Junichi Kayahara)
『資本政策の手引き』
企業価値を高めるための戦略について
徹底解説します!
※本記事は2023年5月29日に開催された国税庁及び経済産業省による、信託型ストックオプションの税制及び適格ストックオプションの税制に関する説明会で共有された内容に関して考慮されていない内容となっております。あらかじめご了承下さい。
スタートアップ・ベンチャー企業を経営している、あるいは働いている方の中には、ストックオプションを付与されている方もいることでしょう。
そして、ストックオプションがロックアップの対象になるかどうかが気になる方もいるかと思います。
そこで、今回の記事では、
・ロックアップとは
・ロックアップの種類
・ロックアップの対象
・ロックアップの期間
・ロックアップ期間にストックオプションの行使は可能か?
・ロックアップ期間にストックオプションで得た株式の売却は可能か?
・ロックアップの事例
について解説します!
ロックアップについては、こちらの記事もご参照ください。
⇒IPOにおけるロックアップとは?メリット/デメリット・事例を解説!
目次
ロックアップとは
ロックアップとは、IPO(Initial Public Offering)を目指す上場準備企業の株主・会社自身が、IPO後においても新株式の発行や保有している株式(潜在株式も含む)の売却等を一定期間行わない旨を確約すること、もしくはその制度のことをいいます。
IPO直後におけるIPO銘柄の株価の動きは安定性を欠くケースが一般的で、株価が大きく変動することによって、大きく損失を被る株主も多数発生する可能性があります。
一方で、上場前に上場準備企業の株を保有している株主(創業者や役員・従業員、ベンチャーキャピタル等)は一般に公募価格と比べて、割安で大規模な割合の株式を保有している場合も多いため、保有株式を早めに売り抜いて利益を確定させたいという動機が働きます。
上記のような場合に、IPO直後に大規模な売却が行われる可能性があると、売り圧力もしくは潜在的な売り圧力となり、安定した株価形成に大きな負の影響を与えることになりかねません。
そのため、ロックアップは上場直後に株式市場の需給バランスへ著しく影響を及ぼす行為を未然に防いだり、短期利得行為を防止し、上場後の堅調な株価形成を促すために設けられております。
ロックアップの内容は承認時に開示される有価証券届出書・目論見書等に開示されます。
IPO・目論見書について、次の記事もご参照ください。
⇒ベンチャー企業がIPOする意義はあるのか?上場のメリット・デメリット
⇒IPOの準備スケジュール|直前前々期から申請期まで解説
⇒上場の条件とは?上場基準・上場までの流れ・上場のポイントを徹底解説!
⇒上場のために必要な売上基準とは?IPOのための業績について解説
⇒上場審査とは?審査基準・審査の流れ・審査通過のポイントを徹底解説!
⇒IPOの失敗を防ぐには?IPO失敗理由・失敗事例・失敗の回避方法を解説
⇒上場ゴールとは?上場ゴールに陥らないためのポイントを詳しく解説
⇒IPO担当者が知るべき目論見書とは?投資家が判断するポイントについて解説
ロックアップの種類
ロックアップには以下の2種類があります。
・制度ロックアップ
・任意ロックアップ
それぞれ解説していきます。
制度ロックアップ
制度ロックアップとは、IPO前の一定期間内に株主等となった人間や企業に対して、取引所の規則によりIPO後一定期間、その保有する株式等について売却せず、継続所有する旨の確約をすることをいいます。
上場準備会社が直前期首以降に行った第三者割当による株式もしくは新株予約権の割当を受けた者は、当該株式もしくは新株予約権を一定期間継続して保有することが求められます。
割当を受けた株式もしくは新株予約権の継続保有については、割当日以前に継続所有に関する確約書を締結することが必須です。
継続所有に関する確約書とは、制度ロックアップを成立させるための確約書面です。
ロックアップの対象となる株主等は割当日以前に本確約書を記載し、ロックアップに従うことの確約をしなければなりません。
上場準備会社が直前期首以降に行った全ての第三者割当先からの確約書が無い場合には、上場申請が受け付けられません。
制度ロックアップの目的は、上場を利用した短期利得行為の防止であり、割当先の属性に応じてロックアップ期間が規定されております。
ロックアップに期間が設定される目的は、インサイダーが大量の株式を売却して市場が圧迫された場合に、株価の下落を防ぐことにあります。
株式及び新株予約権の第三者割当の場合のロックアップ期間は、割当を受けた日から上場日以後6か月間を経過する日(当該日において割当株式に係る払込期日または払込期間の最終日以後1年間を経過していない場合には、割当株式に係る払込期日または払込期間の最終日以後1年間を経過する日)までとなります。
ストックオプションとしての新株予約権の割当の場合のロックアップ期間は、当該新株予約権を、原則として当該新株予約権の割当日から上場日の前日または当該新株予約権の行使を行う日のいずれか早い日まで、それぞれ所有することが求められております。
第三者割当およびインサイダー取引については、こちらの記事もご参照ください。
⇒第三者割当増資とは?目的・メリット・デメリット・事例について解説
⇒ストックオプションの行使はインサイダー取引規制に違反しないか?
任意ロックアップ
任意ロックアップとは、主幹事証券会社が任意に設定しているロックアップのことをいいます。
株式上場時に新規上場会社の株式を投資家に販売するにあたり、大株主や新規上場会社の役員・従業員が新規上場会社の株式を売却することは、投資判断における不安材料となるため、上場後一定期間、保有株式を売却しないこと等を確約することを求められます。
確約の内容は承認時に有価証券届出書・目論見書等で開示されます。 任意ロックアップの期間は、「元引受契約締結日から上場日後180日目または90日目まで」とされているケースが一般的です。
ただし、任意ロックアップの期間中であっても公開価格の1.5倍以上で売却等ができる条項がロックアップ解除の条件として規定されている場合もあります。
この条項を「1.5倍条項」といいます。
主幹事証券会社については、こちらの記事もご参照ください。
⇒主幹事証券会社とは?役割・選び方・変更について解説
⇒IPOにおける主幹事証券会社の選び方|主幹事選択の事例と証券会社について解説
⇒IPOにおける主幹事証券会社の役割|引受審査や選び方についても解説
ロックアップの対象
ロックアップの対象は以下の3つに分類されます。
・募集株式
・募集新株予約権
・ストックオプション
募集株式
募集株式とは、株主となる者を募集し発行する株式のことをいいます。
募集株式の発行には株主割当と第三者割当の2種類があります。
株主割当は募集対象が既存株主のみで、株主の持株数に応じて募集株式の割当を受ける権利を与える場合をいいます。
第三者割当は株主以外の第三者を募集対象とする場合もしくは株主を募集対象とする場合でも持株数に比例することなく募集株式の割当を受ける権利を与える場合をいいます。
募集株式の詳細に関しては以下の記事をご参照ください。
詳細:募集株式
新株予約権
新株予約権とは、行使することで、会社から新株の発行や自己株式の移転を受けられる権利のことをいいます。
新株予約権者は、定められた権利行使期間内に、一定の払込金額を支払って権利を行使し、株式を取得することができます。
新株予約権のうち、社内向けに発行したものがストックオプションです。
募集株式と同様に、新株予約権の割当にも株主割当と第三者割当の2種類があります。
新株予約権の詳細に関しては以下の記事をご参照ください。
⇒新株予約権とは?種類・メリット・デメリットについて解説
ストックオプション
ストックオプションとは、あらかじめ決められた価格で株式を取得できる権利のことをいいます。
まず役員や従業員(=付与対象者・引受者)に対して、あらかじめ決められた価格(=行使価額)で株式を取得できる権利を付与します。
役員や従業員は、権利行使すると会社の株式を行使価額で取得できます。
その後、将来株価が上昇した時点で株式を売却すると、行使価額と株価との差がキャピタルゲインとして得られるという仕組みです。
ストックオプションについては以下の記事で解説しておりますので合わせてご参照ください。
⇒【経営者必読】ストックオプション制度とは?仕組み・種類・メリット/デメリットを完全体系化!新株予約権との違いも解説!
ロックアップ期間にストックオプションの行使は可能か?
ロックアップ期間中にストックオプションを行使すること自体は基本的に可能です。
しかし、ストックオプションによっては、行使制限が設定されている場合もあります。
これから契約書を締結する場合も、実際に権利行使する場合も、契約内容をよく確認するとよいでしょう。
自分だけでは判断がつかない場合は、専門家に相談することをおすすめします。
ロックアップ期間にストックオプションで得た株式の売却は可能か?
ストックオプションの行使によって得た株式をロックアップ期間に売却することは、例外なくできません。
もし事前の通知なく株式の売却を行った場合、トラブルに発展し、違約金などが発生する可能性があります。
株式の売却は定められたロックアップ期間が経過してから行うようにしましょう。
ロックアップ期間中に株式売却を行ってしまった事例【株式会社モダリス】
ロックアップの事例として、2020年8月3日に東証マザーズへ上場した株式会社モダリス(以下、モダリスと記載)の事例を紹介します。
モダリスは、2021年3月24日、株主の一人が制度ロックアップの期間中に保有していた株式を全て売却していたことを受け、「第三者割当により割り当てられた株式の譲渡に関する報告書」を提出したと発表しました。
『株式会社モダリス(12月決算)』の「新規上場申請のための有価証券報告書」(Iの部)のP.129に以下記載があります。
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2. 同施行規則第255条第1項第1号の規定に基づき、当社は割当てを受けた者との間で、割当てを受けた株式 (以下「割当株式」という。)を原則として、割当てを受けた日から上場日以降6ヶ月間を経過する日(当該日において割当株式に係る払込期日または払込期間の最終日以降1年間を経過していない場合には、割当株式に係る払込期日または払込期間の最終日以降1年間を経過する日)まで所有する等の確約を行っております。
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また、『「第三者割当により割り当てられた株式の譲渡に関する報告書」の提出に関するお知らせ』にも以下記載があります。
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上場申請直前事業年度以降に行った第三者割当等により株式の割当てを受けた者は、上場制度を利用した短期利得の排除を目的として、当該株式を一定期間、継続的に保有することが規定として求められています。当社の場合は、該当する株主全員から、株式上場日(2020 年8月3日)以後6ヶ月を経過する日までの間は、当社株式を第三者に譲渡しない旨、またやむを得ない理由により当社株式を第三者に譲渡する場合は事前に当社に書面にて通知をする必要がある旨等の確約書を書面にて受領しております。
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このことから、第三者割当により株式の割当を受けた者は、上場を利用した短期利得行為の防止のため、割当を受けたその保有する株式等について一定期間売却せず、継続所有する旨の確約があったことがわかります。
しかし、株主の一人が、上記確約に違反し、2020年9月1日から9月16日の間に、所有株式の全てを売却していたことが発覚しました。
本件は、当該株主がモダリスに対し、当該制度ロックアップに違反する株式の売却により当該株主が得た金額と当該制度ロックアップ期間経過後に株式を売却した場合に得られた金額との差額相当額として401 百万円を支払うこと、及び有価証券届出書の虚偽記載等に対する金融庁課徴金のルールを準用して、売却金額総額 1,865 百万円に対する 4.5%の 83 百万円を確約書違反に対するペナルティーとして支払うことで解決したとのことです。
制度ロックアップに対する違反は、制度ロックアップを遵守してきた他の株主に対しては公平性を損なうものであり、制度ロックアップを前提に投資をしている投資家に対しても前提条件と異なる事態が発生してしまうため、株式市場の公平性に影響を及ぼす程の事態にも発展する可能性があります。
今回のケースのように、制度ロックアップに違反した場合は、相応のペナルティを受けることを覚悟する必要があります。
詳細は以下の資料をご確認ください。
詳細①:「第三者割当により割り当てられた株式の譲渡に関する報告書」の提出に関するお知らせ
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回の記事ではIPOした際にストックオプションはロックアップされるのかについて解説しました。
現在スタートアップ・ベンチャー企業で働いていてストックオプションを保有している方、自社にストックオプションを導入を検討している方にとって参考になれば幸いです。
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最後までお読みいただきありがとうございます。
また、今回の記事で取り扱った、ストックオプションや株式報酬制度に関する基礎知識を更に深ぼって身につけたい方は、下記の記事をご参照ください。
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この記事を書いた人
共同創業者&代表取締役CEO 茅原 淳一(かやはら じゅんいち)
慶應義塾大学卒業後、新日本有限責任監査法人にて監査業務に従事。 その後クレディスイス証券株式会社を経て2012年KLab株式会社入社。 KLabでは海外子会社の取締役等を歴任。2016年上場会社として初の信託を活用したストックオプションプランを実施。 2015年医療系ベンチャーの取締役財務責任者に就任。 2018年よりSOICO株式会社の代表取締役CEOに就任。公認会計士。